20話:実戦慣れ
ブレスレットを使用すると、俺たちは共有部屋に転移した。
「貴様らは想定よりも時間がかかったようだな。」
遅かったということはドベなんだろう。
というか攻略したあと一時間くらい聞き込みしてたからな。
他の生徒はもう居ない。
そりゃそうだ何時間も待たせる暇があったらもっと別のことををさせるはずだもんな。
「迷宮の崩壊から一時間、一体何をしていたんだ?」
正直に答えると俺たち三人はお説教を食らった。
(あんなもん不可抗力だよクソッタレ。)
その日は、もう日も暮れてしまっていたのでそのまま解散となった。
「長かったぁ、腹減って仕方ねぇよ。」
疲れた様子のフロガがそう声を発した。
それに対してフォンバーグが嫌な顔をして言葉を返す。
「誰のせいだと思っているんだ貴様。」
「誰のせいとか言っても仕方がないですよ……」
喧嘩しそうだったけど、フォンバーグの発言をフロガは気まずそうな顔をしながら無視して自室の扉の方に向かって行った。
「じゃあまたなぁ。」
「風呂に入ってから寝なよ?」
俺とフォンバーグの二人きりになった後、フォンバーグは俺のことを見つめていた。
「どうしました?」
あんまり見られていると落ち着かない。
「気になっていたのだが、なぜダレスは私に対して敬語で話すんだ?」
何を急にそんなことを?
「え、だって貴族の方ですから……」
「姓があるんだ、君だって貴族だろう。
私だけ扱いを変えられるのは不愉快だ。」
そんな風に思っていたのか。
「わかりました、それじゃあ敬語は…… 」
「だが、確かに敬語を使わずに話しかけられるのも不愉快だ。」
(どっちなんだよこいつ……。)
食い気味に否定してきて、口元は少しだけ笑っているように見える。何か思惑があるって感じだ。
「そこで、君に決闘を挑みたい。」
(……急に何を言い出しているんですか?)
「え、決闘ですか……?」
「先の戦闘で確信した。君は本気を出していないだろう?」
「そ、そんなことありませんよ!?」
俺のどこを見て本気を出していないと言えるんですかねぇ!?
俺はずっと本気で戦っていましたよ!?
「君が本気で戦い、私が勝ったら敬語を止めてもらう。
君が勝てば私はお前の願いをなんでも叶えてやろう。」
なんだそれ。
何でもするなんて、確かに上級の貴族だから家の金で大概のことはなんだってできるだろうけど、軽率に言って欲しくない。
どうせフォンバーグにお願いしたいようなことなんてないし、俺が受ける道理はない。
だが、同じ寮の、同じクラスの人間とは不和を生じさせたくない。
「仕方ない、いいですよ。」
「ならば、これから訓練場へ向かおう。」
「今からですか!?」
「もちろんだ。」
(疲れ知らずのお坊ちゃまなんだなぁ。)
俺とフォンバーグは二人で訓練場に向かった。
今の時間はみんなご飯に行っているのか訓練場には誰もいなかった。
「ちょうどいいな。」
「何がですか?」
「本気を出していなかったということは人に見られたくないのだろう?」
なるほど、気を使ってくれたのか。
「それじゃあ本気で戦ってくれなんて言わないで欲しい。」とは言えないな。
「早速始めよう。」
「審判はいらないんですか?」
「あぁ、君から攻撃してくれて構わない。」
俺とフォンバーグの二人が魔法陣の中に入ると、魔法陣は発光し始めた。
これで結界が貼られたのかな。
「アルタロム・ダレス。
我、カリス・フォンバーグの決闘を受けてくれるな?」
ハンカチを差し出して、言い慣れていそうな早口で聞いてきた。
決まり文句なんだよなこれ。
さっき受けたから断る必要も無いな。
「お受けします。」
ハンカチを受け取ってから距離をとる。
俺が構えるとフォンバーグも構える。
一応エルに教わった作法だけど、なんか鏡みたいで面白いんだよな。
さてと、本気で戦わないといけないんだっけな……
「じゃあ、行きますよ。」
俺が踏み込むと、フォンバーグは魔法の準備を始めた。
「水を司る神よ 我の命に応じ 雄大なる力をお貸しください」
水飛沫
反魔法 身体強化
フォンバーグが詠唱を終えても魔法は発動せずに混乱している。
「何かしたな、これしきのことで狼狽える私ではない!」
だが、すぐに割り切って剣撃を繰り出す体勢に切り替えた。
俺は剣術でフォンバーグには勝てない。
フォンバーグの使う王宮剣術は素早く動き回って相手を撹乱し、強力な一撃を叩き込む……だったな。
つまり、動き回ることの出来ないほど一気に間合いを詰めてしまうのが手っ取り早い。
「我が家の戦い方をよく知っているようだな。だが、それでは私には勝てんよ!」
フォンバーグの動きが変わった。
撹乱して動くようなものではなく、両手持ちの振り下ろしの構え……これはフォンバーグ家剣術。
「フォンバーグ家は剛健なる一族!
これこそが本来の姿!」
当たれば一撃必殺の剛剣。
まさに剛健な一族と言うに相応しい剣術だ。
当たればの話だがな。
剣は刃で相手を切る武器だ。逆に言えば刃以外では切る事は出来ない。
なら、やることは単純だ。
(読みやすい振り下ろし攻撃だからできるんだけどね。)
「っ……!?」
フォンバーグの剣と、四本の指が同時に地面に音を立てて落ちる。
あとは、痛みを感じて一瞬隙を晒したフォンバーグの首に剣を突きつけるだけだ。
「ま、参った。」
敗北を認めたフォンバーグが膝を着いた直後、魔法陣は光を失って、フォンバーグの切り落とされた指が元に戻った。
「一体何が起こっていたんだ、見えなかったぞ。」
「え、剣の側面手で叩いて軌道を逸らして、逆手に持ち替えた剣をフォンバーグの拳に突き刺しただけですが。」
なんだろう、なんかお口あんぐりしてる。
「ダレス、勇者学園に居る身で言うのもなんだが。君は実戦に慣れすぎていないか?
柔軟で型にはまらないというか……人を斬ることに対して躊躇はないのか。」
そういえば、そうだな。日本にいる時は自分が生き物を切るなんてこと考えたこと無かったな。
「生命魔法があるからと言っても相手を慈しむ心は忘れてはいけないぞ。」
「そう……ですね。」
慈しむ余裕があればこんなことにはなっていないよ。
「それと、急に魔法が使えなくなったのはどう言う魔法だ?詠唱はしていなかったようだが……。」
「あれは反魔法って言って、魔法の発動時に放出される魔力を吸う“技術“です!」
「技術だと?魔法ではないのか?」
「はい!」
技術であることは本当だけど……都合の悪い言葉は誤魔化すために存在しているんだよ。
「もうこんな時間か、詳しくは後日聞くことにしよう。
最後に、君の願いはなんだ?」
そういえばそんな約束していたっけ。
特に俺からお願いしたいことは無いのだがな……、答えないといけなさそうな雰囲気だ。
「そうですね、じゃあ。
軽率に「何でもする」なんて今後は言わないでください。
何でも なんて絶対にできませんから。」
「……わかった。その願い聞き入れた。
そして訂正しよう。君は十分に相手を慈しみ、愛を与えられる人だ。」
どうしてそういう評価になったのか分からないが、いい評価をされることは嬉しく思う。
「それと、これからは敬語はやめるね。
それでもいいかな、カリス?」
「名前で呼ぶことまでは願っていなかったと思うのだがな。いいだろう。
ただし、私も君をアルタロムと呼ぶことを条件に許可する。」
なんだか、敬語を辞めただけなのに俺とカリスの距離は少しだけ縮まったような気がする。




