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コバルトソフィア  作者: SHOW。
第三章
154/156

154 親代わりの来訪者(3)

 千尋と子矢は適度に寛ぎつつ、世間話をする。ただ世間話とはいっても、人工島内という限定され過ぎた環境での世論だ。内容は十五歳になって変わったことはあるのかとか、何をして遊んでいるのかとか、真面目なところだと島内の施設での不備や不具合の有無とかになる。

 子矢としては政府管制課の役員として、千尋は島民として、双方からの主観を遠慮なくぶつけ合う。


 大人に対する不信感は、多かれ少なかれ千尋にもある。だが子矢には幼少期のこともあり、全般の信頼を寄せてこそいないものの、他の政府管制課役員や、医師や、別途来訪者よりはマシな存在の人物にカテゴライズされている。

 包み隠さずなんでも喋り伝えるわけじゃない。だが、人工島と本土を繋ぐパイプ役を担う人だとは思っていて、必要最小限の持論は述べるのにはうってつけだと考えている。


「なるほど。輸入港の空調が寒い……ね。確かに自分もここに来るとき少し感じたな。貨物場所に置かれた食品とかが傷まないように温度を低く設定した煽りを受けたのかな?」

「かもしれません」

「千尋くんが指摘したところは来訪者も利用するところだし、改善はこっちでしとくよ。あとは学校の外壁破損か……こちらも後日対処させてもらう」

「はい。よろしくお願いします」


 千尋は学校の外壁破損よりも、空調設備の方の問題を強く指摘した。これは前者には、普通の人類では未知の領域である発現能力が関与したためである。だから苦し紛れなのは承知の上で、輸入港の空調をカムフラージュに使う。


「他に不満な点はあるかい? ここで暮らしているのは千尋くんたちだ。遠慮なく意見して欲しい」

「そうですね……これでも以前よりは段違いで進歩してますからね。そろそろもう、何が足りなくて、何か過剰なのかも、判別が付かないくらい充実しているなとは思いますね。現状はそんなところだと……」

「今は問題なさそうということでいいかな? また何か気になることがあれば言ってくれ。管制室の意見書でも構わないからね?」

「分かりました」


 千尋が頷いて、しばしの静寂が流れる。

 政府管制課と被害者の島民としての会話が停止したことを暗に示される。


「はは……なんか随分と堅苦しい話ばかりだったな」

「同感です。一緒に勉強の課題を片付けているときよりも、ゆとりのない会話でしたね」

「それは言い得て妙だな。まあ勉強をやってた頃の記憶なんでもう、二十年近く前になれば曖昧になっちまうもんだがなー……もうどうやって片付けてたかも思い出せない」

「そういうもの、なんですか?」

「ああ。ただ面倒で、なんでこんなことしてんのかって負の記憶だけはやけに鮮明……って。これ、余計に堅苦しくないか?」

「確かに……久々に逢って、勉強の話題なんて挙げるものじゃないですね」


 勉強がめんどくさがられるのは、島内も本土も一緒なんだなと千尋は内心で苦笑しながら、紙コップに残っている麦茶を飲み切る。

 管制室に招き入れられてから早々一時間が経過している。夕食を後回しにしているせいで、微かな空腹感で満たされないままだが、子矢との会話は親戚付き合いのように他人行儀ではあるけど退屈はしなくて、すぐにすぐ帰ろうとはならない。


「んー、せっかくだしもっと砕けた感じというか、自分が中学生の頃に盛り上がった話題でも投げ掛けてみようかな?」

「子矢さんの中学時代ですか?」

「そうそう。今ではこんなお役所勤めだが、自分にも千尋くんたちと同じ年齢だった時代があったんだよ」

「へぇ……」

 子矢の昔の話。中学時代の話。

 それは過去の話とはいえイコール、本土の中学生の話。

 千尋たち人工島民が、人工島に隔離される存在じゃなかったときに、そうやって暮らしていたかもしれない生活の一幕。

 千尋が気にならないわけがなかった。


「あのときのことは、ところどころあやふやなままだが、印象深いことが多かったよ。身体の急成長に付いていけなくて困惑しながらも、友達と呼べるヤツとバカやってたんだ。授業は居眠りの時間で、休日は野球したり、ゲームやったり……なんとも思ってなかった歳の近い女の子が色っぽく見え出して、中途半端にオシャレであろうと格好付けて、失敗して……笑い笑われあったもんさ。はは……ほんとうに、くだらないことしてたな」


 すると子矢が、子矢自身の思い出話に笑う。

 過去の、幾つかの若気の至りが蘇ったせいだ。


「へぇ……子矢さんは政府の関係者ですから、必死に勉強ばかりやってた人なのかなと勝手に想像してました」

「はははっ。確かにそういうヤツも管制課にも居るが、何も学校の勉強ばかりが勉強じゃない」

「というと?」

「スポーツやゲーム、髪や服などの身嗜み、恋愛を含めた人間関係などなど……なんでも頭を使わないと出来ないことばかりだ。でも頭を使っているって自覚は足りなかったな……あの頃は気が付かなかったが、振り返れば当時感じてた以上に、楽しい時間だった」

「それは今よりも、ですか?」

「ああ。金も酒もギャンブルも、大人の嗜みなんてもんは何一つなくて、思えば置かれた場所に縛られまくっていたが、人生で一番面白かったのは、きっとあの頃だ……こればかりは一生超えられる体験が出来そうにない——」


 この子矢の人生観を、千尋はまだ共感し切れない。理由は明白で、子どもの頃と大人である現在の比較のしようがないから。要約するなら、歩んだ人生の距離の違いだ。

 でも、置かれた場所で生きている……という言葉には、不意に胸に来るものがあった。目下千尋たちが、そういった状況に置かれているからだ。人工島も本土も中学生相当の年代だと、誰でもそうなのかと思わざるを得なかった。


「——とまあ、自分の前振りはここまでにして。千尋くんに訊きたいことがあってね……」

「僕に?」


 前振りとは何のことだろうかと疑問符を浮かべる。

 それに千尋に限って訊きたい内容にも心当たりがないと。


「うん……この島には可愛い子ばかりだけど、千尋くんが好きな子は誰かな? 、年甲斐もなく動悸が激しくなってしまう女の子、とかね?」

「ええ、好きな子……」


 千尋は当惑する。事務的な遣り取りの後で、茶々を入れるような色恋沙汰を訊かれるとは思ってもいなくて、やや気圧されたからだ。そんな表情も中学生らしいなと子矢は千尋の反応を見て、懐かしむ。

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