双鋏剣
遅れて申し訳ありませぬ。
指がかじかんでパソコン打ちづらかったんです。
いえ、言い訳ですね。
「~♪」
鼻歌交じりに迷宮の通路を歩きます。
どうもどうも、皆さん。毎度おなじみのキイロです。
今日は久しぶりに迷宮に潜っています。
今いる階層は十階層ですから敵にも変化が見られて、ゴブリンや大鼠といった雑魚は鳴りを潜めて、オークがメインに見受けられるようになってきました。
「フゴッ」
噂をすればなんとやら、前方から一匹のオークが現れます。
オーク、わりと汚いイメージの強い印象がありますが実際その通り。汚いし、臭いしと戦う側としては良いところのない存在ですが、食料として考えたときにはこれ以上ないほどの美味ではあります。ただまぁ、外のオークと迷宮のオークを比べたときには貞操の危機がないだけ迷宮の方が幾分かマシというのが探索者や冒険者といった職を生業にしている女性からの意見だったりします。
そんなオークですが強さはどうかと言われると意外と強かったりします。
ぱっと見、二足歩行する二メートル大の豚といった彼らですが見た目からすると意外なほど素早く、またその厚い脂肪は武器を阻み攻撃は通しにくく、その巨体から繰り出される一撃は人の体など容易く砕きます。そんなわけでオークの見た目から油断して、命を散らす冒険者や探索者のルーキーは少なくありません。
それ故にオークは『初心者の壁』だの『初心者キラー』と言った呼び方もあるぐらいです。
とまぁ、長々と語ってはみたものの所詮はオーク、なんのドラマもなくあっけなく死んでしまいました。
やったことと言えば、接近して拳で殴っただけですが、今回は血で汚すなとエシャナダさんからも言われているので砕くのではなく、首の骨を折るようにしましたけれど。
『イグドラ』は未だに着色が上手くいかないのでエシャナダさんに預けているので、加減もそう難しくはありません。
せめて複数で来ない限り大した手間もかかりません。
それに今回は『イグドラ』の変わりということで小手をエシャナダさんから受け取っていますから手が汚れることもありません。『武器は駄目でも防具なら良いだろ』とエシャナダさんも随分と気を回してくれます。ありがたく使わせてもらいます。
「こうなるとあれですね。ここの主を倒して下の階層にさっさと向かうべきでしょうね」
十階層ごとに存在する階層主。
それまでの階層含めて最も強い存在でこれが倒せない限り、その階層より下には向かえません。
ちなみに十階層の階層主はオークソルジャー、鎧を着たオークといったところでしょうか? それでも技量も通常のオークよりも上ですし、武器も木のこん棒から鉄製に変化しているので通常のオークとは一線を画す魔物ではあります。
ゴブリンなどもそうですが魔物の上位種というのはたとえ最弱の魔物であってもそれまでとは異なる強さを持っているので厄介な存在です。
けれど、所詮は鉄でしかなくアダマンタイトでもない限り砕くのに苦労することはありませんし、アダマンタイトでも苦労するというだけで素手で砕けないわけじゃありません。
というわけで、これといった問題なくたどり着いた階層主のいる大部屋。
少しは楽しめると良いんですけどねー。
流石というか、階層主から感じる威圧感はオークの比ではありません。
その構えも堂々としたもので下手したら旅の途中で見かけた騎士などよりも高い技量を感じさせます。
ここで出現するオークソルジャーの武器はランダムで、剣、槍といったものになるそうです。
しかし、今、目の前のオークソルジャーが構えているのは剣、槍といった武器ではありませんでした。
「何故そのチョイス」
思わず呟いてしまったのも仕方ないでしょう。
何せ構えられたそれは、俺の首など容易く挟み込めそうなほどに大きなハサミ。
片刃だけでもショートソードと同じぐらいのサイズはありますが、ハサミはハサミでしかありません。
「……フゴッ」
オークソルジャーの姿もこうなると先ほどは堂々と構えているように見えたオークソルジャーの姿もどことなく困惑しているように思えるのは気のせいでしょうか?
「……まぁ、だからと言って容赦するわけもないですけど」
見たところハサミ自体は通常よりかは大きくとも戦闘で使うには適していません。
ユニークな武器をお持ちのようですけれど、戦闘を楽しめそうにはありませんねぇ。
「……ふっ」
「ピギィッ!?」
一足飛びでオークソルジャーとの間合いを詰める。
突然、目の前に現れた標的に慌てた様子を見せるがもう遅い。
まだハサミの間合いではあるけれどもこのタイミングでは刃を開くことは難しい。
なら、注意するのは鋭い刃先による刺突だけ。
―――ジャキン
「チィッ!?」
「フゴゴッ」
これは予想外。
いえ、ある意味想定すべき事態でした。
「フゴー」
オークソルジャーの両手に握られた一対の片刃の剣。
そう、ハサミは二本の剣からなっていました。
敢えて名付けるなら『双鋏剣』といったところでしょうか。
振られた剣を避けるためにオークソルジャーから距離を置きます。
「面白い仕掛けですねぇ。オークのくせして良い武器持ってるじゃないですか」
「フゴゴゴ」
これは笑っているのでしょうか?
まぁ、なんにせよ。予想外のギミックがあったとは言え、先ほどの状況からリカバリーできるだけの実力はあるのでしょう。
思ったよりも楽しめるかもしれませんね。
◇
「あっはっはっは!!」
「ッフゴー、ッフゴー」
予想以上に楽しいです。
このオーク、かなりの技巧派でした。
一応、能力抑え目にしているとは言っても通常のオークソルジャーであるならばとっくの昔に死んでいてもおかしくはない程度には本気です。
こちらの力任せの連撃を、その技量によってなだめ透かし逸らし、受け流す。
はっきり言えば、階層主といえどもこんな浅い階層で出てきて良いような存在ではありません。
初見であれば探索者として中位の人間だって死ねるでしょうね。
考えたくはありませんが、このオークソルジャーは階層主であると同時に異常個体だったのかもしれません。
異常個体、迷宮において希に出現する特殊な魔物。
明らかにその階層とは釣り合わない強さを持った存在です。
大体は現れた階層にプラスして十階層の強さ程度になることが多いそうです。
しかし、今回のオークソルジャーは階層主。
階層主はそれまでの階層の魔物よりも強く、五階層分の強さがあるとされます。
とすると、このオークソルジャーは二十五階層の魔物と同等ということです。まぁ、素人判断ですから正確なことは言えませんが。
というか、いい加減戦闘のこと以外を考えるのは止めにしましょう。
「息は整いましたか? 準備はよろしいですか? 名残惜しいですけれど、次で最後にしましょう」
―――そろそろお腹が減りました。
そう言って、今日初めて構えを取る。
腰を落として、右手を前に左手を後ろに。
こちらの本気を感じ取ったのかオークソルジャーも構えを取る。
すべてを受け止めるかのように広げられる両腕、武器はだらりと下げられている。
その構えからはどんな攻撃が来るか予想が着きません。
まぁ、どんな攻撃だろうと、らしく正面から食い破るとしましょう。
「では、参りましょうか」
「フゴッ!!」
応えるように上がった声に笑みがこぼれる。
決着は一瞬。
胸を拳の形に陥没させたオークソルジャーが吹き飛ぶ。
繰り出した一撃は多くの流派において正拳突きと呼ばれるもの。
基本にして奥義とも言える技。
対してオークソルジャーは恐らくカウンター狙いのものだったのだろう。
懐に飛び込んだ自分を噛みちぎるかのようにその一対の剣を閉じようとした。
「残念でしたね。俺相手にカウンターは効かないんですよ」
倒れたオークソルジャーに語りかける。
当然の結果だ。
俺達、北部辺境の民はその理外の膂力によってあらゆる防御を食い破る。
「もし俺にカウンターを決めたいのであれば受け止めるのではなく、流すなり避けるなりするべきでした」
「……ふご」
次があればそうする、とでも言うかのように小さく鳴く。
「あははは、次があれば今度も真正面から戦いますよ。少なくとも俺はそうしてきましたから」
もうオークソルジャーの声はない。
「これは貰っていきます。まぁ、あなたのような武人の使ってた武器ですから俺の相棒も許してくれるでしょう」
手に取ったのは鋼というには黒っぽい金属でできたハサミのような剣。
「名前を与えましょう。できれば、あなたの名前を与えたかったのですけどね」
魔物のなかにも言語を解し、独自の言語を持っている存在はいる。
そういったことは特に亜人系の魔物に多く見られる。そのなかには当然オークもいた。
しかし、オークの言葉はわからないから聞きようもない。
「でも、そう。『双鋏剣ウルク』というのはどうでしょう?」
返事を期待していたわけでもない。
少し寂しく思いながらも一人、声に出す。
「これからよろしくお願いしますね?」
知ってか知らずか、手にした『双鋏剣ウルク』は鈍く光を反射したような気がした。
オークが予想以上に強くなった。
オークがオークさんに昇格した(´・ω・`)
???「Affair? Are an affair?」
???「After all the plant,not the enemy of the charm of this metallic luster」
!!?




