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巨神迷宮譚  作者: みざり
12/14

依頼達成




 シェリアさん改めシェリー婆さんの作るご飯はいわゆる薬膳というものなのでしょうか? さっぱりとして美味しいです。

 何でも材料となる薬草の類いはほとんどここの庭で育てたものを使用しているそうです。

 ただ難点を上げるならちぃっとばかし量が物足りないところですかねぇ。まぁ、食わせてもらってる身なので文句はありませんけど。


「ふぅん、じゃあ、あんた北から来たのかい」

「ええ。あっちじゃ狩猟をメインに生活してたので薬草もちゃんと見たのは初めてでしたよ」

「ふんっ、道理でものを知らないわけだ」


 ご飯を食べながら世間話をして、シェリー婆さんとは仲良く(?)なりました。

 何でも元々は旦那さんと薬屋をやっていたそうなのですが、その旦那さんが病気になったのを機に店を閉め、引退したんだとか。

 その旦那さんにも先立たれて今に至るそうです。ご家族は息子さんもいるそうなのですが他所の街を本拠地にしているのでなかなか会えないようです。


「午後からも仕事するんだろ?」

「はい、そのつもりですけど」

「ちょっと貸しな」


 そういって図鑑を手に取るシェリー婆さん。


「……ああ、こいつだ。午後にはこいつも薬草と一緒に抜いてきな」


 開けられた図鑑に描かれているのは毒草の項目。


「毒草も調薬に使うんですか?」

「なんだい、ホントに何も知らないんだね」


 呆れたように言われる。

 まぁ、知らないものは知らないのだからしょうがない。


「こういった毒草でもきちんと処理すれば薬になるのさ。まったく昔の冒険者なら簡単な薬ぐらいは自分で用意したってのにさ。そういった薬に頼るのは新人ばかりで大体の奴らが魔法薬ばかりを有り難がる。困ったもんだね」

「自分で作れるんですか?」

「まぁ、本職には敵わないけどね。そこは腕が違う」


 どこか得意げな様子を見せるシェリー婆さん。

 作れるなら作ってみたいものだ。イアリアさんからもらったなかには魔法薬の類いもあるが使いどころが難しいものばかりだ。

 だが、自分で作れるなら助かる。お金が掛からないのは良いことである。


「なんだったら、教えてやろうか?」

「いいんですか!?」

「なに、ちょっとした暇つぶしにはなるだろうからね」


 願ってもない申し出である。


「ま、その前に依頼の方をさっさと片しちまいな。話はそれからだ」

「はい、それはもちろん!」




 ◇




 とは言っても、やることは相変わらず草を抜いて、そのなかから薬草と毒草を取り分けるだけの作業。

 難しいことは何もないけれど、広さだけはあるから時間はかかる。

 なるべく急いでみたけれど、それでも終わらせられたのは半分というところだった。


「あ゛~、終わらなかった~」

「何言ってんだい、初めてにしたら上出来なもんだ」

「ふぅ、そうですか。まぁ、残りは明日ですね」


 終わらなかった分も明日には終わるでしょうから、それが終わったら簡単な回復薬の作り方も習いましょう。


「そうかい、ところでついでだからこれをギルドまで届けとくれ」

「構いませんけど、何ですかこれ?」


 渡されたのは二枚の書類。一枚は今受けている草むしりの依頼の完了報告ともう一枚は新しい依頼の申請書類だった。


「え、でも、これ……?」

「なんだい、あんたの仕事は今日の分はこれで終わりだろ。そっちの書類は今日と同じ依頼だから、明日来るならそれを受けてから来な」


 そっぽを向きながら言う、シェリー婆さん。


「ま、来るんならだけどね」

「はい! 絶対に来ます」

「あんた、探索者だろ。変わった子だね」


 ほれ、暗くならないうちに帰りな。そう言って、シッシと犬でも追い払うかのように手を払うシェリー婆さんは照れているのがまるわかりだった。

 じゃ、また明日と言って、俺はその場から立ち去った。




 ◇




「あら、キイロさん。珍しいですね、こんな時間に」


 ギルドのカウンターに見慣れた顔を見つけたのでそちらに向かうと、そんなことを言われる。

 まぁ、確かにこの街に来てからは基本的に昼までには大半のことは済ませるようにしてきたのでこの時間にギルドに来たのは初めてのことだ。

 だから、イーアさんの珍しいというのも間違いではない。


「ちょっとお使いを頼まれまして」

「お使いですか? それじゃあ、エシャナダさんから何か?」


 エシャナダさんは何かと忙しいので、足りない素材などは大抵ギルドの依頼で賄っているらしい。本当は素材も自分の眼で見極めてから集めたいと愚痴っていたのを聞いた。

 そんなわけでギルドに依頼を出すのをギルドに向かうついでにやったりもした。

 しかし、今日はエシャナダさんのお使いではなかった。


「いえ、今日はエシャナダさんのじゃありません」

「おや、そうですか? では、どちらから……」


 意外そうなイーアさんにシェリー婆さんから預かった書類を渡す。


「シェリー婆さんから、って言っても、わかりますか?」

「……驚きました」

「は?」


 脈絡もなくそんなことを言われても訳がわからない。


「ああ、いえ、シェリアさんのことは存じています」

「はぁ、でしたら驚いたというのは?」

「あの方の依頼をいつまでも達成できないのは当ギルドとしても沽券にかかわることでしたから、こちらでも色々と手を尽くしてきたのですが、依頼の達成報告を持ってきたのはキイロさんが初めてでしたから」


 達成報告を持ってきたのが俺が初めてって、シェリー婆さんは普通に良い人だったんですけどね。


「だから、驚いたと?」

「ええ。しかも追加の依頼まで持ってきたとなればこちらとしても今後のためにお話を聞きたいところです」


 そんなことを言われても大したことはしてないのだけれど。


「それを判断するのはこちらですから、キイロさんこのあと時間は空いていますか?」

「ええ、一応問題ありませんが」

「でしたら、隣の酒場で適当に料理でも頼んで待っててもらっててもいいですか」


 いいですか、とは問いかけてきてはいるが有無を言わせない圧力があった。

 了承して、依頼の報酬をもらって酒場に向かった。




 ◇




 酒場は夜を前に徐々に人が増えていたが混雑するほどではなく、問題なく席に座れた。

 ギルドの酒場はギルドに加入したばかりのメンバーのことも考えて、それなりの値段でかなりの量を食えることで知られている。

 頼んだのはミートボールパスタ、ミートボール自体はわりと広く知られている料理なのだがその大きさが違った。

 赤子の拳ほどもあるそれはなかなか食いごたえがあった。昼がさっぱりしてた分、余計にそう感じる。


「お待たせしました」


 イーアさんの格好は先ほど変わりなく、手にはいくつかの書類と筆記用具があった。


「んぐんぐ、」


 タイミング悪く口にものを入れていたので口から言葉が出ることはなかった。

 慌てて飲み込もうとする。


「ああ、すみません。そう急がなくとも大丈夫ですよ」

「んぐ、そうですか?」

「はい、ただ食べながらで良いので話してもらっていいですか?」

「それじゃあ、こんな格好で失礼します」


 と言っても本当に何から話したものか。

 シェリー婆さんの依頼で特別に何かしたわけでもないから、どう話せばいいのか、どこから話せばいいかわからない。


「最初から話してもらえますか。まぁ、こちらの都合で時間をもらっているわけですから料理も好きに頼んでもらっても構いませんので」


 そんなわけで途中で料理を何品か頼みながら、今日あったことを一から話していった。

 料理は特に肉が美味しかったです。

 オークの肉だというそれは出荷の出来ないクズ肉を使ってるらしいので量のわりには随分と安い印象がありました。

 あとで聞いた話では、迷宮の十階層から出るオークですが探索者たちからすれば汚い実態を知ってるだけにあまり食いたがらないらしいです。

 美味しければ問題ないと思うんですけどね?


「ふむ、これまで聞いていた依頼を受けた人たちとは話が違いますね」

「そうなんですか?」

「ええ、なんでも草を抜いたら怒られたとか、そんな話ばっかり聞きますから」


 それを聞いて納得しました。


「それ抜いちゃいけないのまで抜いたんだと思いますよ」

「抜いちゃいけないもの?」

「はい、シェリー婆さんの庭の草は俺が見つけただけでもいくつか珍しい種類の草も生えてましたから」


 鉄血草なんかもそうだし、その後にも何度か珍しい種類のものは見つかった。

 あの『草木図鑑』の情報がどこまでの正確さがあるかはわからないが、それでも専門家であるシェリー婆さんの持ち物なのだから少なくともまったくの嘘ということもないだろう。

 そういった本に稀少とある草を無造作に抜かれれば怒るのも当然だと思う。


「なるほど、ということは今度からそういった注意も依頼を受けさせる際には注意しなければなりませんね」

「まぁ、言えばシェリー婆さんも図鑑を貸してくれますから」

「そういう風に素直にわからないと言うのが難しいんですよ」


 苦笑しながらイーアさんは言う。


「今日はありがとうございました。また何かあればよろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそご飯美味しかったです」

「それは良かった」


 ついでとばかりに発行されたばかりのシェリー婆さんの依頼を受注してからギルドからの帰路につく。

 腹も膨れたし、今日は良い気分で眠れそうだ。

 ふらふらと歩く夜道は昼間とは違った喧騒に包まれていた。

 あの風さえも凍りつき、耳が痛くなるほどの静寂に覆われた故郷の夜とはまったく異なる夜を持つ異郷の地。

 夜を楽しいと思える日が来るとは考えてもいなかった。


「……これも故郷を出てきた甲斐があった、ってことなんですかねぇ?」


 まぁ、考えても仕方ない。

 エシャナダさんには特に何も言ってないけれど、あの義理堅いドワーフのおっさんのことだから、自分のことを待ってるかもしれない。待ってもないかもしれないけれど。

 もし待っているのだったらいつもの酒場で、今日あったことを肴にしながら飲み交わすとしよう。




 


これで依頼編は終了。

まだ薬作りとか書いてませんけど、いい加減迷宮に潜らないと話が進みません。

次話『迷宮に素手特攻カチコミ』をお送りします。

サブタイトルに関しては適当ですけど、大体そんな感じのお話になる予定です。

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