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巨神迷宮譚  作者: みざり
11/14

『草木図鑑』

大変お待たせしました。

いえ、待ってる人がいるかもわかりませんがねー。



 ようやく依頼も五つ目です。

 しかし、エシャナダさんは未だに『イグドラ』に色を付けられないようで、猛獣も斯くやと言った様子で唸っていました。

 このままでは迷宮に素手で潜ることは確定になりそうです。

 ちなみにイアリアさんの依頼の後に受けたのは『畑の岩を退かして欲しい』、『畑にある切り株を引っこ抜いて欲しい』、『貧民街にある古い家屋の解体』がありました。

 どれも力任せに解決できることで簡単に終わらせることができて、助かりました。

 畑の仕事に関しては両方合わせても一日掛からず終わり、お礼に貰った野菜は美味しかったです。

 古い家屋の解体は、そこをねぐらにしている人たちと一悶着ありましたけど、貧民街の顔役とやらに話を通したら許可が出たのでさっさと壊したら周りの人が黙ったのは何でなんでしょうね? 特に顔役のあんぐりと口を大きく開けた間抜け面が印象的でした。


 そんなわけで五つ目の依頼なわけですが、なんかその依頼を受注すると言ったら皆が哀れむような視線を向けてきたのは何故なんでしょう。

 依頼内容は『草むしり』、場所は暗黒区との境界に面した工業区といったところ。

 依頼書にあった建物は周りと比べると古い建物でした。基本的に暗黒区に近いということでそこまで立派な建物があるわけではありませんが、ここだけはその周りからも一時代ぐらい古く見えます。

 まぁ、そんなことは仕事には関係ないので依頼人との顔合わせをするとしましょう。


「すみません、依頼を受けてきたものですけどー」


 そんな風に声を掛けると奥から出てきたのはお婆さんでした。

 ある意味、イアリアさんとは対照的ですね。


「ふんっ、またかい。前とは違う奴みたいだけど、今回はちゃんとやってくれるんだろうね」


 おっと、いきなり悪態をつかれましたよ。


「あははは、前の人がどんなだったかは知りませんけれどできる限りやらせてもらいますよ?」

「はン、こちとら報酬払ってんだからやるのは当然じゃないか」


 ついといで、そう言われ案内されたのは建物のなかを抜け、その奥にある中庭とでも言うような場所。

 庭というには少し広い気もしますが他に言いようもないので、ひとまず中庭で良いでしょう。

 そんな中庭ですが、雑草が覆い茂り荒れ果てています。


「依頼の草むしりはここだよ」

「はぁ、広いですね」

「ふんっ、元々は薬師やってたんだ。これでも昔に比べればまだ狭い方さ」


 その言葉を聞き、何故この建物が工業区にあるのかを理解します。

 イアリアさんの扱うような魔法の込められた薬品である魔法薬ポーションとは違い、薬草などを使った普通の薬にはポーションほどの効果は存在していませんが一般人だけでなく


探索者、冒険者にも需要があります。

 理由はただ一つ。安い、その一点に尽きます。

 魔法のように特殊な技能を必要のない薬剤調合はその分コストが掛かりませんから安くなるのは当然のことですし、ランクの低い者にとっては実にありがたいアイテムです。

 けどまぁ、今は関係ありませんね。

 問題は思っていたよりも草むしりの範囲が広いことでしょうか。せいぜい一般家庭の庭程度を想像してましたから予想よりも時間が掛かりそうです。イアリアさんの工房といい、一々スケールが違いますね。


「これ全部抜いていいんですか?」

「ふんっ、馬鹿言うんじゃないよ。薬師やってるって言っただろ。役に立つもンは残すに決まってんだろ」

「あれ、引退してたんじゃないですか?」


 てっきり引退していると思ったのですが違ったのでしょうか?


「なんだい? 人を年寄り扱いするつもりかい」

「いえ、決してそういうわけではっ……」

「ふんっ、どうだか」


 ギロリと睨まれ、慌てて否定します。

 おっかないお婆さんです。


「まぁ、引退してるのは確かだが腕を腐らすわけにもいかんからの」

「ふぅん」

「そんなことはどうでもいいさ。さっさと仕事しな」


 どこか誤魔化すようにそんなことを言われる。


「……あの」

「……なんだい?」

「とても、言いにくいのですが」

「男ならはっきり言いな!」

「俺、薬草とか区別つきません」


 お婆さんはため息を吐いた。




 ◇




「まったくどうなってんだい、最近の若いのは」


 ブチブチと文句を言うのは、シェリアだなんて似つかわしくない可愛らしい名前が判明したお婆さん。

 ちなみにシェリアさんは俺が薬草の区別がつかないことを知ると建物の奥に引っ込むと分厚い本を持ってきました。

 タイトルは『草木図鑑』とまんまな名前の本でした。

 どうやらこの図鑑で確認しながらやれ、ということらしい。


「まさか文字も読めないってんじゃないだろうね?」

「いえ、流石にそれは……」

「どうだろうね。ま、わかんないことがあったら聞きに来な。あたしゃ、家の奥にいるからね」


 まったく老人に労働させんじゃないよ、と言いながら建物に入っていく。

 よし、やるか。と気合を入れたところでシェリアさんから声が掛かる。


「そうだ」

「ぅひっ!?」

「なんだい? 変な声出して」


 訝しげな顔をされましたがなんでもないと先を促す。


「この籠に薬草だけ摘んで持ってきな。いいかい、薬草だけだからね」

「薬草だけで良いんですか?」

「ああ、他は今は必要ないからね」

「わかりました」




「薬草~、薬草~、雑草、雑草、雑草、毒草~、雑草、雑草」


 意外と楽しい草むしり。

 故郷は氷で覆われた大地。そこに作物が実ることはありませんし、生えているのも特殊な処理の必要なものばかり。こうやって草木と触れ合うのは何気に初めてで楽しいです。

 前回の畑仕事は障害物をどけただけで畑仕事自体を手伝ったわけじゃありませんでしたから、今思えば少しもったいなかった気がしますね。

 それにシェリアさんから借りたこの『草木図鑑』は綺麗な絵があって見やすいです。


「雑草、雑草、雑草、雑っ、ん~?」


 ペラペラと紙をめくる音。

 難点は自分に植物を見分ける技能がないのでわからない植物を調べるのに時間が掛かることですねー。


「これも一応薬草の一種ですか」


 『鉄血草』と図鑑に描かれているそれは名前の通りに真っ赤な植物で、その葉が造血剤の材料になるようです。


「ふんふん、植物にも色々とあるもんですね~」


 気づけば朝から始めて、もう日は丁度真上に差し掛かっています。

 シェリアさんに渡された籠も結構な量になっていますし、一回切り上げましょうか?

 流石に半日同じ体勢で仕事をしていたわけですから体もバキバキです。

 立ち上がり、伸びをする。凝り固まった体がほぐれて気分が良い。


「とと、シェリアさんに薬草持って行かないと」


 しかし、立ち上がってみると自分の草の抜いた部分は一部に過ぎず、まだまだであることが理解できた。


「こりゃ、午後からも頑張んないとなぁ」




 ◇




「シェリアさん、薬草採ってきましたよー」


 声を掛けるが返事はない。

 仕方がないので奥に向かうと、部屋の一つでシェリアさんが何やら作業をしていた。


「シェリアさん?」

「……ん? ああ、あんたかい」


 部屋のなかには薬草のようなものから、生物の体の一部と思われるものまで実に様々なものが置いてあった。

 これ、全部が調薬の素材なんだろうか?


「ふむ、ちゃんと根っこごと持ってきたようだね」

「……? ええ、図鑑にもそう書いてあったので」


 あの『草木図鑑』にはその薬草の使える部分から採取方法まで色々なことが書いてあった。

 だから、その書いてあるように根っこごと取ってきたのだが、それがどうかしたのだろうか?


「ふふん、まぁ、いいさ。これなら及第点をやろう。昼食ったら続きをやっとくれ」

「はい、頑張ります」


 昼飯を買いに外に向かおうとする。


「おや、どこに行くんだい?」

「いえ、食事をしに」

「なんだい、それくらいこっちで用意するさ」

「いやいや、そんな」


 遠慮すんじゃないよ! と言ってシェリアさんはどこかに、恐らくキッチンにだろうが、向かっていった。

 ううむ、なんとなく逃げるタイミングを逃してしまった気がする。

 ここはありがたくご相伴に預かるとしようか。



 

本当はバレンタインまでに更新しようと思ってたんですが、なにが悲しくてバレンタインに部屋にこもってお婆さんの話を書かなくてはならないのかと思ってしまったら、もう筆は動きませんでした。

あ、一応これからは週一で更新するようにしたいと思います。

まぁ、詳しくは活動報告に上げたいと思いますけど、そこまで見てくれる人がいるかしらん?

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