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巨神迷宮譚  作者: みざり
10/14

【重量倍加】の魔法鞄

遅刻したサンタクロース





「終わりましたね」

「そうだね~」


 時刻は未だ昼を迎えることもなく、だと言うのに魔法工房『妖精の靴』の倉庫はきれいさっぱりと塵一つありません。

 倉庫整理、それは意外や意外、二日目にして終了することになりました。


「すごいですね。これもイアリアさんの作品なんですよね?」

「……そうだけど。スゴイのはわたしの作品じゃなくて、キイロがスゴイんだと思うよ?」


 どう足掻いても三日はかかると思っていましたが、ある魔道具マジックアイテムの存在によってその考えは否定されました。




   ◇




 話は再び『妖精の靴』を訪れたところまでさかのぼります。


「じゃあ、今日もよろしくね?」

「はい、といっても俺にできることなんて大したことじゃありませんけどね」

「ううん、そんなことないよ。来てくれるだけでも嬉しい。それに今日はわたしも一日付き合うよ」


 ここは工房ですが、お店も兼業していたはずで店番をしなくても良いのでしょうか?

 そう聞くと、


「元から収入の大半は別の場所に卸してるのがほとんどで、工房にまで来る人は珍しいから問題ないんだよ」


 とのこと。

 まぁ、問題ないのならいいかな? と仕事を始めることにしました。

 とは言ってもできることなんて、積まれた魔道具の山を切り崩してイアリアさんのところに持って行って、どう処理するか判断してもらうだけの簡単なお仕事です。

 はっきり言って、さしてやることも多くありません。

 イアリアさんも自分の作ったものなだけあってほとんどのものは一瞥しただけで仕分けていきます。

 切り崩した魔道具の山が少なくなれば、また山を切り崩してイアリアさんの前に積み上げるだけ。

 もはや単純作業になっています。

 なので、作業のほとんどはイアリアさんと何気ない会話をしながらになります。


「へ~、じゃあキイロは北の出身なんだ」

「ええ。イアリアさんはやっぱりここの出身なんですか?」

「ううん、わたしは西の方」

「俺の場合は見分を広めるためですけど、イアリアさんはなんでこっちに?」

「魔道具職人としてはやっぱり魔石の供給が大事だからね。それに迷宮は触媒になる素材も種類が多いし」


 そのぶん競争も激しいんだけどね、と何気ないように笑っていた。

 しかし、小さい体躯に騙されそうになるがこの迷宮街に工房を構えているだけあってただ者じゃないんだなぁ、と思わされる。

 自分は特に深い理由もなく、ここにいるけれどそれでもいいのだろうか?


「キイロ、どうかした?」

「ああ、いえイアリアさんはすごいなぁ、と思っただけです」


 そんなことを言うとイアリアさんが慌てだした。


「ほめても何もでないよっ」

「思ったことを言っただけなんですけどね」


 どうやら褒められ慣れていないらしい。

 あたふたとしているイアリアさんの様子が面白くて笑うと、魔道具らしき肩掛け鞄を投げつけられた。


「もうっ」

「あっはっはっは、すみません。でもすごいと思ったのは本当ですよ」


 やっぱりイアリアさんの表情はフードに隠れて見えないけれど、それでも睨まれているのがわかったから話を変えました。


「これは?」

「……魔法鞄マジックバッグの失敗作だよ」

「これ、魔法鞄だったんですか」


 魔法鞄――魔術による【空間拡張】によって実際の大きさよりも多くのものを収納できるようにした魔道具で、【空間拡張】だけでなく【時間停止】、【重量軽減】といった魔術式が組み込まれているため、時には何日もかけて迷宮に潜る探索者にとってはのどから手が出るほど欲しい魔道具の一つです。

 その有用性に反して【空間拡張】や【時間停止】といった術式は魔術においての最高難易度を誇る術式なので最低でも金貨百枚はする魔道具ですから、失敗作といえども売らない、なんて選択肢が出るようなものではないはずです。

 そこら辺のことをイアリアさんに尋ねると、


「……えっと、それは」


 思いっきり、言葉を濁されました。


「言いにくいことなら言わないでもいいんですが?」


 もしかしたら魔道具作りの秘奧が関わるとか、あるかもしれませんし。


「ううん、そんなことはないんだけど……しょうもないことだから恥ずかしいの」


 内緒にしてくれる? と上目づかいにフードの奥から覗いたイアリアさんの眼は血ような深い紅に染まって、とても美しかった。

 不安げに揺れた瞳に思わずハッとする。


「え、ええ、誰にでも失敗はありますし、俺も一々そんなこと言い触らすような人間じゃありませんからね」


 そう請け負えば、イアリアさんの眼はまたフードの奥に隠れる。


「……そう、だよね」


 どこか納得したような様子を見せるとうん! と一つ頷いて語り出しました。


「えっと、ね。その魔法鞄には【空間拡張】【時間停止】【重量軽減】の術式を組み込んだものにするつもりだったの」

「まぁ、オーソドックスと言えばオーソドックスなものですね」

「うん。そうなんだけど術式を組み込むときに一部分、失敗があったみたいで」


 魔術式についてはあまり詳しくないので一部分が駄目になった程度でこうして失敗作として捨て置かれるのか分かりませんが、その一部分の失敗というのがイアリアさんの恥かしいがる理由なのでしょうね。


「【空間拡張】はちゃんと機能してるっていうか【時間停止】の分の容量を使ってまで機能してて、【重量軽減】に至っては何でか効果が反転しちゃって」


 魔道具というのは触媒に魔術式を組み込むことによって作られるのだが触媒に組み込める術式の容量は大体その魔道具に使われる触媒の品質やランクによっても変わってくる。

 そして、魔法鞄に使われるような触媒というのは得てして高品質、高ランクが当たり前だったりします。

 つまり、俺が今、手にしているこの魔法鞄は、


「魔法鞄を作るときに一番触媒の容量を使うのは【時間停止】なんだけど、その分まで【空間拡張】されてて、その上に【重量軽減】が【重量倍加】に変わってるから……」

「その結果が容量無制限・重量無制限の魔法鞄ですか」

「無制限は言い過ぎかな……?」


 ある意味スゴいことには違いないのでしょうが、そこまでいくと一種の兵器として使えそうですねー。

 でも、売れないということはないんじゃないか、と思いますけれど……。

 そこまで考えて、ふと気づく。

 【重量軽減】の術式と逆の効果を示すのは【重量増加】であり【重量倍加】なんて術式ではないはずである。


「あの【重量倍加】ってもしかして……?」

「う、うぅ~」


 イアリアさんが可愛らしく唸った。


「……そう。【重量倍加】は【重量増加】と違って割合じゃなくて倍率で重さを加えていく術式だよ」

「つまり、これに物を入れたら二倍の重さになるんですか」


 それは売れないでしょうね。


「二倍じゃないの。十倍」

「はい?」

「だから十倍なの」

「……え?」


 その言葉に固まってしまいます。視線をイアリアさんと魔法鞄との間を行ったり来たりと彷徨わせます。

 しかし、イアリアさんはしかと頷くだけです。


「それはなんていうか……」

「うぅ、わかってますから言わないでぇ」

「けど、まぁ、倉庫代わりとしてなら売れたんじゃありませんか?」

「そんなの恥かしくて出せないよぉ」


 そこら辺はいわゆる職人のプライドのようなものなんだと納得することにしました。

 まぁ、散々驚いてみましたが、ここで一つ問題です。

 俺の最大の特徴はなんでしょうか?


「ふむ」

「あ、ちょっと!?」


 ひとまず近くに落ちてある魔道具をカバンに詰め込んでいきます。

 イアリアさんの待ったの声が聞こえますが無視します。

 正直一つ入れた程度では変わりませんね。どんどん詰め込んでいきます。魔道具の山が一つ消えたあたりから、イアリアさんの声はなくなりました。

 言わずもがな、尋常ではない怪力こそ俺の最大の特徴であり、長所であり、短所であるわけです。

 それ故にたかだか建物一つ占領する程度の魔道具ならばたとえ十倍の重さになろうが大した問題にはなりません。




   ◇




「ふぅ……綺麗になりましたね」


 そうして冒頭に戻るわけですが、


「イアリアさん」

「ひゃいっ!?」


 ぼんやりとしていたのか、俺の呼びかけに慌てて答えを噛みました。


「とりあえず全部仕舞っちゃったわけですがどうしますか?」

「……どうします、って何が?」


 イアリアさんが首を傾げています。この人は小さい体格のせいもありますが仕草の一つ一つが可愛らしいですね。

 勢いに任せて魔道具を魔法鞄に詰め込み、倉庫の整理というのなら一応は片付いたことになるのでしょう。

 しかし、魔法鞄もそこに仕舞われた魔道具の数々も所有権は当然のようにイアリアさんにあるわけですし、もし彼女がこのやり方に文句があれば、俺はここに再び仕舞われた魔道具の数々をブチまけることになるわけです。


「んー、元々捨てても問題ないのがほとんどなんだしキイロがまとめて貰っちゃっていいよ?」

「いや、貰っても使い方がわからないのばっかりですし」


 貰えるのは嬉しいけれど大半は彼女の言う通り失敗作で、使い道のありそうなものもありそうなのも見てわかるわけでもありません。


「じゃあ、わたしが調べてあげるから、これからもお店に来てよ!」


 良いこと思いついた! といった様子のイアリアさん。

 まぁ、確かにそれなら問題はほとんどないでしょうが、


「いいんですか? 少し手直しすれば使えるものもあるんじゃないですか?」

「そういうのもあるかもしれないけど、そこまでしなくても売るものには困ってないし」


 正直に言えば、【時間停止】がなかろうが【重量倍加】が掛かっていようが魔法鞄が手に入るのはこちらとしてもありがたい。


「……それにこれっきりっていうのも寂しいから」

 

 なんてことを言われてしまったら断れません。

 まさに一撃必殺の殺し文句といったところ。


「わかりました。なら、預からせてもらいますね?」

「うん!」


 嬉しそうなイアリアさんを尻目にそんなに懐かれるようなことをしたか疑問に思いましたが、とりあえず彼女が嬉しそうだから、良いということにします。




 ――本日の成果

 『魔法鞄マジックバッグ』【空間拡張[極大]】【時間停止[微]】【重量倍加[×10]】

 その他魔道具たくさん





 余談と言えば、余談ですがイアリアさんの工房兼お店の倉庫には魔法鞄と同じように【空間拡張】【時間停止】が施されており、部屋自体が傷つかないように【保護プロテクション】といった補強がされていました。

 まぁ、要するにあの倉庫は建物のなかでは一番頑強な場所だったわけです。

 何が言いたいかというと、


 それはすっかり片付いた倉庫から一歩出たときのことでした。

 ギシッと嫌な音が一つしたかと思うと、


 ――ズンッ


「ぬわっ!」

「キイロ!?」


 床がスッポ抜けました。 

 建物一つと同等の広さを占拠した魔道具の数々、それが十倍の重さになれば当然ながら床の一つや二つ、余裕でブチ抜けるのは当たり前のことでした。

 これは早急にカバンに詰め込まれたものを減らしていかねばならない、と少しだけ現実を逃避した夕暮れ時でした。



まずは遅れたことをお詫びします。

それはそうとメリークリスマスですね。なんだか時の流れが早く感じる一年でした。


『巨神迷宮譚』ですが今年の更新は今回が最後となります。

そして次の更新ですが一月はレポートなんかがありまして、そちらに集中したいので恐らく一月中に一話更新した後は二月になると思います。

読んでくれている方々には申し訳ない。

これに懲りず読んでくれると嬉しいです。


では、良いお年を


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