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巨神迷宮譚  作者: みざり
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無味乾燥

遅れてごめんなしゃあ



 携帯食料もぐもぐ。

 うむ、パサパサとした食感ともはや無味に近い味。

 まぁ、はっきり言ってマズイですよね。

 もっと上等な携帯食料なら香辛料なども使ってあって美味しいらしいですが、迷宮で食べる分には腹が満たせればそれで充分なんですよねぇ。


「むぐむぐ、……ん?」


 突如、背後から現れたオークアサシンが手にした短剣を突き付けて来る。

 しかし、その短剣が振るわれるよりも速く、振り向くこともせずオークアサシンの首を『ウルク』の刃で挟み、


 ―――ジャキン


 刎ねる。

 このオークアサシン、十一階層から出現しだした魔物ですがこういう風に背後からの不意打ちがメインの攻撃になるのでこの十一階層から先はなかなか気が抜けません。

 とはいえ、所詮は十一階層程度の魔物ですから気配を消すのがそこまで上手いわけでもないのですが。


「しかし……」


 幸い、携帯食料は既に口の中。

 けれど首の落ちたオークアサシンから噴き出した血の匂いは口に物を入れた状態で嗅ぎたいものではない。


「手でやるべきでした。失敗です」


 まぁ、反省は次に生かすとして、何やら前方が騒がしいです。

 迷宮にありがちな剣戟の音ではありません。

 どちらかと言えば、ガチャガチャとした走って言うかのような音ですね。

 それに音の主はこちらに近づいて来ているようです。


「すまん! そこをどいてくれ!」


 何やら慌てた様子の探索者一行。

 そのうち一人は顔を真っ青にして仲間に担がれています。

 しかし、先頭を走る探索者には見覚えがあります。

 基本的に今まで同業者には係わってきていないので知り合いなんかいないはずですけれど。


「君は!?」


 どうやら向こうはこちらに覚えがある様子。

 いけませんね。

 こちらは思い出せていないので話しにくいではないですか。


「クランツ!」

「っ! すまない、今は急いでるんだ。通してくれ」


 クランツと言う名前で思い出しました。

 この人、エシャナダさんと最初にギルドに行った時に声を掛けてきた人ですね。

 確か『聖者の外套』とかいうパーティーだったはずです。


「通る分にはお構いなく、といったところですがそんなに急いでどうしたんですか?」


 その問いにクランツさんたちはわずかに逡巡する様子を見せたが悩む時間も惜しいとばかりに語る。


「……異常個体だ」

「またですか」

「……また?」

「いえ、こちらの話です」


 先を促すと相手も急いでいるからだろう、話の続きを語り出す。


「オークアサシンの異常個体で、毒持ちの奴がいたんだ。それに気配の消し方も並みでなかった。なんとか退けたが最初の一撃で仲間がやられた」

「ちっ、俺が気づけばよかったんだ」

「クルト、気にするなとは言わないが今はそれを言っても仕方ない」

「それはそれは」


 クランツさんの仲間、クルトさんが悔しそうに言うが、ご愁傷様としか言えない。

 まぁ、でも運は良かったのかもしれないなぁ、と思う。


「ふむ、まぁ、情報のお礼にどうぞ」

「これは?」


 ポーションホルダーから引き抜いた薬の一つを投げ渡す。

 生憎とほとんどの毒を治せる魔法薬は持っていないし、通常の解毒剤も毒の種類がわからないので解毒剤は渡せないが、何も解毒剤だけが毒に対する対処法ではない。


「遅延剤です。飲ませれば地上までは保つんじゃないですかねぇ?」

「っ、助かる!」


 背負った仲間を下ろし、渡した遅延剤を飲ませている。

 遅延剤は毒の効果を遅らせることができるらしい。しかし、魔法薬が主流となった今は使われる機会の減った薬の一つだ。

 まぁ、元が毒の効果を薄めたものらしいから多様もできないし、人気もないらしかった。


「こちらもどうぞ」


 もう一つ薬を投げる。

 こちらを窺うクランツさんに薬の説明をする。


「そっちはスタミナポーションです。まぁ、魔法薬でもないので効果はお察しですけどないよりはマシでしょう」

「何から何まで助かる。この礼は必ずしよう」

「ふんふん、まぁ、後で飯でも奢ってください。それと探索者の先輩にこんなことを言うのは余計なおせっかいかもしれませんが……」


 迷宮で気を抜くのはどうかと思いますよ?


 迷宮の地面を踏み砕き、飛び散る破片の一つを蹴り飛ばす。

 勢いよく飛んだ破片はクランツとその仲間たちの隙間を綺麗に通り抜けてその後ろ、誰もいなかったはずの空間に飛んでいった。


「……ッ」


 辛うじて飛んでいった破片を躱したのは真っ黒な衣装に身を包んだオークアサシン。


「キイロ君!?」

「まぁ、一応確認しますけどコイツがその異常個体ですか?」


 クランツさんたちも慌てて武器を構える。

 クランツさんたちは決して弱いわけではありません。純粋に今回の相手が強すぎるだけで。

 『ウルク』といい、このオークアサシンといい本当にオークとは思えないほどに能力が高いですね。


「ああ、そうだ。コイツがレイシャをヤった奴だ!」


 その言い方ですとそのお仲間さんが死んだみたいだ、と思うのですがどうでしょう?

 なんて思っている間にもオークアサシンの気配が消えていく。


「逃がすかぁっ!!」


 踏み砕いた破片を握り潰し、より細かい弾丸に変えて投げつける。

 さっきの蹴り飛ばした破片が点の攻撃とするのであれば今度のは面による制圧攻撃。

 魔術が使えればこんな手間はいらないのですけれど、生憎、使えないのですからしょうがない。


「……ッ」


 バラバラと撒き散らされた無数の石弾は手加減したこともあって、オークアサシンは未だに生きていた。

 それでも問題はない。

 一瞬でも足が止まれば、『ウルク』を使うのに何の問題もなくなる。

 きっとオークアサシンの見た最期の光景は自分の命を刈り取るために開かれた鋼の顎。


 ―――ジャキン


 『ウルク』は何の抵抗もなくその刃を閉じた。

 命の刈り取る音のなんと冷たいことか。


「はい、終わりっと」


 振り返ればクランツさんたちは唖然とした様子で武器を構えたままの格好をしていた。


「お仲間さん、連れて行かなくていいんですか?」

「あ、ああ。……そうだな、行かなくてはな。君はどうする?」


 どうするか?

 このままクランツさんたちと一緒に地上に戻ってもいいかもしれませんが、もう少し『ウルク』を試したいので遠慮しておきましょう。


「もう少し潜りますよ」

「そうか。では、地上に戻ったら『翡翠の樹亀』という宿に来て欲しい。俺たちはそこを拠点にしているから」

「『翡翠の樹亀』ですね。わかりました」


 『聖者の外套』の他の仲間も口々に別れを言って、地上への道をたどり出した。


 さーて、もう一狩り行きましょうか。

 

 


週一で更新するとか言って、このザマで申し訳ないです。

非常に私事ですけれどバイト始めまして、なかなか慣れるまでが大変でした。

ようやくシフトも決まったので安心して書き始めたんですが、春休みももうすぐ終わるんだけどー!?(泣)

ちなみにクランツさんのこと覚えてた人います?

わっちは忘れてて名前なんだっけ? ってずっと考えてました。

読み返せばいいだけのことなんですけどねー。

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