第八十五話 狂い出す戦略
「人間め……今度こそ倒してやるぞ!」
クラーケンはそう言って、縄に縛られた義経に触手を浴びせ気を失わせると、シーサーペントに向け恐怖を与えた。
「裏切り者には制裁を喰らわせねばな……」
シーサーペントは蜷局を巻きながら、竦み上がった。クラーケンの倍はあるであろう巨体であるが、完全に萎縮してしまっている。
「シーサーペントよ、死ね――っ!」
クラーケンは玄武池から這い上がり、陸に構えるシーサーペントに迫った。その速さは陸上生物と錯覚させる程だ。どうやら弁慶を吸収したことにより、陸上でも行動が可能になったようだ。
やがて、その触手は薙刀に変化し、シーサーペントの強固な鱗を無惨にも引き裂いた。恐らくこれは体内に息づく弁慶の技……。シーサーペントは90のダメージを受けた。――HP160/250――
その様子を見た真琴は、シーサーペントの傷口を撫でながら言った。
「君はボクより強い。勿論、あんな烏賊野郎よりもね。さぁ、立って!」
「私が強い?」
クラーケンに恐怖を与えられ怯えたシーサーペントは、自分を過小評価し過ぎていた。裏切ったことへの戒めなのか、もはや以前の自信は消失していた。
誰しも自分に自信は持てない。本来オレが言うべきことを真琴が代弁してくれた。
「さぁ、お姉ちゃん反撃だよ」
「うん。叩きのめしちゃってね」
川姫は笑顔で真琴に答えると、DDを放り投げた。出た目は2の長い髪だ。
真琴は髪を一つに束ね天に伸ばすと、クラーケンに向かって一直線に放った。触手に負けないくらい滑らかな動き。絡み付いた長い髪はクラーケンを締め付け75のダメージを与えた。――HP675/750――
「シーサーペントよ、見たか? これが真琴の攻撃だ。攻撃力はお前の方が上であろう?」
「わからない……」
「ならば、それを証明して見せよう!」
オレは、DDに願いを託し手のひらから放った。出た目は6の鋭い牙だ。シーサーペントが自信を取り戻すには持ってこいの攻撃。
躊躇いながらも、シーサーペントはクラーケンに迫った。ギロリと睨むクラーケン。
「今なら許そう。犯した罪を……」
「私は……私はこの者達についていくと決めたのだ!」
シーサーペントの奴……吹っ切れたようだ。自ら至近距離に迫ったクラーケンの腸に、その牙は炸裂した。クラーケンは汚物を吐き出しながら、のたうち回った。クラーケンに120のダメージを与えた。――HP555/750――
「それでいい……」
「ぐはっ……」
クラーケンは恨むような目付きでシーサーペントを下から見上げた。しかし、もう迷いはない。シーサーペントは臆することなく、それを跳ね返すかのような鋭い目付きで睨み付けた。
「どうやら、もうお前に仲間はいないようだな。水虎よ、シーサーペントの後に続け!」
「御意」
オレは転がしたDDを回収すると、再び運命を委ねた。DDは、それに答えるかのように5の黄金の爪を示した。
水虎はクラーケンの触手を掻き分け、その患部へと引き続き追い打ちを掛けた。臓物を回収出来なくなった腸は、ピチャピチャと音を立て大地に転がった。クラーケンに107のダメージを与えた。――HP448/750――
「はぁ、はぁ……ならば奥の手。これならどうだ?」
突如、呻き声をあげるクラーケン。その口からは粘り気のある粘液が排出された。そして、ある程度垂れ流されると、見覚えのある男が視界に入った。
「べ、弁慶!」
「どうだ? これで手は出せまい?」
弁慶を前面に押し出し、盾にするクラーケン。
「くっ……卑怯な……」
「……気遣いは無用だ……コイツを……コイツを倒してくれ」
弁慶はそう言うと、事切れたかのように意識を失った。
未だ義経も救出していないというのに、この有り様。やはりここは、村正を使うしかないようだ。
「一本だたら、村正だ」
オレは一本だたらにそう言うと、報酬のクリスタルを差し出した。
「主よ、これだけではクリスタルが足りぬ」
「何だと?」
この期に及んでクリスタルを要求する一本だたら。まるで沸騰するかのように頭に血が昇る。しかし、一本だたらとはそういう契約だ。
「一本だたらよ、クリスタルは後で支払う。今は一刻を争う時だ」
「やむを得ないな」
渋々それに一本だたらが同意した時だった。クラーケンは態勢を整え、触手で全体攻撃を仕掛けてきたのだ。
真琴、水虎、シーサーペントはそれぞれ65のダメージを受けた。――HP185/250――HP315/380――HP95/250――
「くそ……先手を取られたのであれば村正は次のターンまでつかえないか……」
クラーケンと一体化した弁慶に攻撃する訳にもいかない。手詰まった感は否めない。
「タクマ殿……構わず弁慶に攻撃を……」
気絶から復帰した義経が言い放つ。
「そんなことしたら、弁慶が……」
「弁慶の意思を尊重して下さい。例え、死してもタクマ殿を恨むことはないでしょう。弁慶とはそういう男です」
「気が付いたか? 貴様はまだ眠っていろ!」
「うぐぁ……」
クラーケンは再び義経に触手を鞭のように振るい、気絶させた。
「貴様……」
「何だ……文句があるなら掛かってこい!」
クラーケンは不気味に笑うと、弁慶を更に前に押し出した。




