第八十三話 罪と罰
一進一退の攻防を繰り広げたこの戦いも、終演が近いとオレは感じていた。
シーサーペントをテイムし、戦力的には此方が圧倒的有利。再生の出来ないクラーケンなど恐れることはない。
「シーサーペント、お前……自分が何をしているのかわかっているのか?」
シーサーペントの行為が、クラーケンの逆鱗に触れたことは言うまでもない。だが、テイムしたからには、守る義務がある。
「シーサーペントよ、恐れるな。オレが必ずお前を守る。取り敢えずは、カード化するんだ」
オレがそう言うと、シーサーペントは安堵の表情を見せた。そして、この場は一旦カード化した方が得策と考えた。
「これで勝った気になるなよ。我を倒した所でバックベアード様を初め、他の西洋の悪魔がお前を生かしておくまい……」
「西洋の悪魔だか何だか知らないが、オレの敵じゃない。水虎よ、畳み掛けるぞ!」
「御意」
オレはクラーケンに引導を渡すべくDDを振った。出た目は1のクリティカルだ。
水虎はクラーケンの剥き出しになった臓物を抉り出すかのように、その爪で引き裂いた。クラーケンに98のダメージを与えた。――HP44/500――
玄武池に染み出すクラーケンの血……もはや、血の海と化していた。
「我輩の出番だな……」
続けて酒呑童子が身を乗り出す。酒呑童子のことだ。軽く捻りあげるだけでも倒せるであろう。
「き、貴様……。鬼骨王の仲間であろう? 何故、人間に味方をする。妖怪は、プライドというものがないのか?」
「何だと? 黙れ! 喰らえ、我輩の薙刀無双を!」
酒呑童子は血の海を蹴りあげ、薙刀でクラーケンの脳天へと会心の一撃を喰らわした。クラーケンに120ものダメージを与えた。――HP0/500――
クラーケンは意識を失い傷付き倒れたが、酒呑童子は尚も攻撃を続けた。
「死ね――っ! 死ね――っ! 貴様のような奴に何がわかる?」
当然、事尽きたクラーケンに返事をする術はなく、ただただ無惨なまでに血肉を晒していった。敵とは言え、あまりに残酷な光景。
「酒呑童子よ、もういい。奴はもう死んでいる」
オレがそう言うと、酒呑童子はクラーケンの亡骸を貪りながら、
「勘違いするなと言った筈だ。我輩は、鬼骨王が戦士……。貴様らと仲良しゴッコする気はない!」
と、力強く言い放った。
クラーケンは死に際に、良心を持ち始めた酒呑童子の本来の悪しき心を呼び覚ましたのだ。
「そうか……お前とは上手くやれると思っていたのだが……」
「そう言う考えが甘いのだ。今回は見逃してやるが、次に会った時はタダじゃおかないぞ! さらばだ」
酒呑童子はそう言い残すと向こう岸まで泳ぎ、鬼赤壁へと消えていった。
「やはり、分かり合えないものなのか?」
後味の悪い展開に項垂れると、甘寧がオレの肩を叩いた。
「アイツもわかってる筈さ。今は素直に感謝すべきだな」
オレは甘寧の言葉で気持ちが和らいだ。いつか、分かり合える日が来ると。
◇◇◇◇◇◇
船が向こう岸へ到着すると、雲行きは一転し暗黒に包まれていた。それを助長するかのように雷鳴が轟く鬼赤壁。この先に、甘寧達の仲間がバックベアードに囚われている。
「さぁ、皆。魔合肥はこの先だ。急いで行くぞ!」
「タクマ殿……」
「どうした義経」
「某と弁慶は、邪馬台国に戻ります」
「ここまで来て戻るというのか?」
「今の某達では、役に立つとは思えません。今一度、修行をして参ります。ですが、決戦の時は必ず駆け付けます故……」
「そうか……弁慶、お前も同じ気持ちなのか?」
「そう言うことだ」
「ならば、止めはしない。また会える時を楽しみにしているぞ!」
義経と弁慶は、頷くと再び船に乗り込んでいった。
二人を見送った後、オレはこのことを後悔していた。何故なら、クラーケンが煙化せずクリスタルを放出しなかったからだ。
クラーケンが生きているかも知れないという僅かな疑念……それを払拭する為に、オレは甘寧に言った。
「悪いが先に行っててくれ。ちょっとばかり胸騒ぎがするもんでな。義経達の様子を見てくる。な~に、直ぐに戻るさ」
「わかった。無理はするなよ」
「甘寧、お前こそな」
「タクマさん、私達も行くわ」
「川姫の言う通りよ。もう、離れるなんてイヤ」
「仕方ないな。ついて来い!」
こうしてオレ達は、一旦別々の道を歩むことになった。




