第八十二話 仲間という言葉の重み
甘寧達の乗る船に這い上がったオレと酒呑童子は、体に纏わり付く水気を切り再び戦闘態勢を取った。場所が場所だけに、作戦を練り直せねばならない。
水虎は水中戦が得意だが、問題はこのオレ。流石に水中では、DDを振ることが出来ない。
「どうすれば、有利に戦える?」
無意識のうちにオレが独り言を言っていると、酒呑童子がそれに答えた。
「水虎が囮になっている間、我輩がクラーケンとシーサーペントを叩く。テイマー……貴様は、ここでそのサイコロを振るのに専念しろ。そうしなければ、水虎を操れんのだろう?」
元を辿れば敵である酒呑童子。そいつに手の内を見せるのはシャクだが、酒呑童子の言うことも一理ある。今は、魔族と黄泉の崩壊するかも知れない瀬戸際だ。
「酒呑童子よ、やってくれるか?」
オレは、寸なりと酒呑童子の意見に同意した。しかし、それを見ていた川姫が口を挟んで来た。どうやら、酒呑童子の言動を信用していないようだ。
「タクマさん、騙されちゃ駄目よ。コイツは鬼骨王の仲間……。いつ裏切るかわからないわ。私が真琴で援護するわ」
「川姫……。気持ちはありがたいが、今の真琴では太刀打ち出来ない……。酒呑童子を信じてやってくれないか? 責任はオレが取る」
「川姫殿、某達の負けです。タクマ殿の言う通りにしましょう」
「義経さん……でも……」
「今は酒呑童子が裏切らないことを祈るだけです。それに某達ではどうすることもできません……」
義経がそう言い添えると、川姫は渋々首を縦に振った。しかし、義経を含め甘寧達も悔しい表情を見せていた。――不甲斐ない……言葉にはしなかったが、そう言っているかのようだ。
「皆、気にするな。必ずこの戦況を乗り切る。それに、酒呑童子だって以前のように悪い奴ではなくなった筈だ」
「テイマー、勘違いするな。我輩達の野望に、西洋の悪魔が邪魔なだけだ」
「それだけ理由があれば、十分だ。じいさん、シーサーペントのステータスを頼む」
「ふむ。任せておけぃ」
シーサーペント LV25 ランクA 特性 水に強い
HP250 MP25
攻撃力110
素早さ60
スキル『巻き付き』『鋭い牙』
――シーサーペント……大海蛇とも呼ばれ、巨大な体で船ごと丸飲みする海洋の主。元々、西洋の妖怪だったがクラーケンに敗北し、その身を預けている。忠誠を誓っているが、クラーケンを良く思っていない――
そう言うことか。オレの脳裏に、一つの考えが思い浮かんだ。
――コイツをテイムすればいい――
思うだけなら簡単だが、実際に出来るのかどうかは疑問だ。オレは、この事を言葉にせず戦闘態勢を取った。
酒呑童子は再び玄武池に飛び込むも、攻撃は仕掛けない。予定通り水虎を囮にして、後から攻撃を仕掛ける算段だ。
「水虎よ、やむを得ず囮になってもらうが、悪く思うなよ」
「主……我に気遣いは無用。主に従い、立ちはだかる敵を倒すのが我らが使命」
「嬉しいことを言ってくれる……」
囮になることを承諾した水虎。それは、オレ達の間にある信用で成り立つもの。伊達にここまで、テイマーの熟練度を上げてきた訳じゃない。オレはそんなことを思いながら、DDを振った。
DDが2の通常攻撃を示すと水虎は、クラーケンへと水を掻き分けた。水の抵抗を物ともせず押し寄せると、触手を失った肉体に鋭い拳を繰り出し78のダメージを与えた。――HP230/500――
勝負はここからだ。クラーケンとシーサーペントの攻撃を引き受けなければならない。
クラーケンに攻撃を仕掛けたシーサーペントが、うねりを上げ水虎を取り囲む。予測不可能なその動きは、素早さに分がある水虎を呆気なく捉えた。まるで雑巾を絞るように、回転を加え締め付け120ものダメージを喰らった。――HP245/365――
攻撃力だけならクラーケンよりシーサーペントの方が上。恐らく再生するクラーケンに持久戦に持ち込まれ、敗北したのだとオレは悟った。
「シーサーペントよ、お前程の実力者が何故クラーケンのような奴に従う?」
「私は……」
オレの問いに、一瞬攻撃の手を緩めるシーサーペント。それを見たクラーケンがすかさず、
「シーサーペント、余計な問いに答える必要はない!」
と、シーサーペントに牙を向けた後、水虎の喉元に噛み付いた。シーサーペント、水虎共々60のダメージを受けた。――HP190/250――HP185/365――
「ほら見ろ! シーサーペントよ。クラーケンは、お前のことを利用しているだけだ」
「シーサーペントよ、そんなことはない。これは我なりの鼓舞の仕方だ」
真っ向から否定するクラーケン。しかし、シーサーペントはクラーケンに疑いの目を向けていた。
“これは、チャンスかもしれない”――オレがそう思っていると、水柱と共にクラーケンの背後に酒呑童子が現れた。
「油断したな? 我輩の力を存分に思い知るがいい……」
「い、いつの間に!」
水虎が囮になり注意を引き付けている間、酒呑童子はクラーケンの背後に回り込んでいたのだ。
酒呑童子はクラーケンの体を抑え込むと、十字を切るように薙刀で切り裂いた。クラーケンに、88のダメージを与えた。――HP142/500――
酒呑童子の一撃で、ますます無様な姿になったクラーケン。しかし、減らず口は健在だ。
「シーサーペント、何をしている。早く我を助けろ――っ!」
「あっ、はい」
一瞬の躊躇を見せるシーサーペント。賭けに出るならここしかない。
「シーサーペントよ、本当にお前の主はクラーケンでいいのか? お前を仲間だと思っていないのだぞ!」
オレがそう言うとシーサーペントは動きを止め、クラーケンに尋ねた。
「クラーケン様。私は本当に仲間じゃないのでしょうか?」
「仲間? 何を寝惚けたことを……。召喚された者に答える権利はない!」
「そうですか……」
シーサーペントはガックリとした表情で一度水面に顔を浸した。依然として水虎を締め付けたままだが、心なしか緩んで来た気がする。やるなら今だ。
オレは船から身を乗り出し、シーサーペントに向けて叫んだ。
「オレはお前の力を必要としている……一緒に来ないか?」
言葉を選んだ結果、そんな台詞を叫んでいた。どうなるかは、オレのテイマーとしての素質、そしてシーサーペントの気持ち次第だ。
「シーサーペントよ、騙されるな。これは何かの陰謀だ」
「シーサーペント、お前は仲間だ!」
オレとクラーケンの顔を交互に見るシーサーペント。そして、水虎を解放すると巨大な体は、クラーケンへと向かって行った。
「よし、よし、いい子だ」
不敵な笑みを浮かべるクラーケンに忍び寄るシーサーペント。その距離は例え仲間でも考え難い程、接近していた。
「な、何だ。あまり近寄るな………ふぐっわ」
シーサーペントは、クラーケンに牙を向けたのだ。そして今度はオレがいる船に近付いて来た。
「感服した。私を仲間にして欲しい……」
「断る理由なんてない。こっちから、頼むぜ。シーサーペントよ」
オレはシーサーペントの鱗に触れ、意志を伝えた。遂に、シーサーペントをテイムしたのだ。
「さぁ、クラーケン。お前に勝ち目はないぞ!」
勝利を確信したオレは、玄武池に僅かに吹いた風を全身に受けた。




