第七十七話 背徳の遊戯
◇◇◇◇◇◇
草薙の剣が手元にない今、触手の再生を考慮して戦いに挑まねばならない。仮に取りに邪馬台国に戻ったとして、甘寧と凌統だけに任せるには荷が重い。
「甘寧、凌統! 再生するとは言え、必ず弱点はある筈だ。臆するな!」
オレがそう言うと、
「わかってるって」
と、甘寧と凌統は口を揃えて言った。その息の合ったコンビネーションを見ると、“やれる”という錯覚さえ感じる。いや、錯覚のままにする訳にはいかないのだ。
「まずは俺様から行かせてもらうぞ! 烏賊野郎、その触手を船から離しやがれ!」
甘寧は触手の一本を蹴り上げると、青龍刀で根元から触手を叩き斬った。触手に97のダメージを与えた。――HP0/80――触手……残り三本。
「まずは、一本ってね。再生したらまたぶった切るまでだ」
「甘寧に負けてられないな。俺も行かせてもらうぜ!」
凌統もまた方天戟を振るい、触手を一旦宙に浮かせた後、鋭く切り裂いた。触手に88のダメージを与えた。――HP0/80――触手……残り二本。
「二人に活躍されたらオレ達もやるしかないな。水虎! 頼んだぞ!」
オレは、素早くDDを手元から離した。出た目は6の津波だ。複数相手に効果的な、全体攻撃とは幸先がいい。
水虎は、玄武池の水を背後にかき集め、龍神の如くそれを放った。しかし、クラーケンは残った二本の触手を全面に押し出し、鋭く光る牙を晒した。その様子を見て、オレは自分の犯した過ちにようやく気付いた。
「しまった! 奴も水虎と同じく、水吸収だ!」
「今頃気付いても遅いわ!」
クラーケンは歓喜をあげながら、水虎の放った津波を楽しんだ。本体や触手に中途半端なダメージを与えていなかったのが、不幸中の幸い。仮にダメージを与えていたならば、相当な回復をしていたに違いない。
「済まない。甘寧……凌統……。真琴にしておけば良かったな」
「タクマ、誰にでもミスはある。物は考えようだ。水虎もクラーケンの水系の攻撃を吸収出来るってことだろ?」
確かに甘寧の言う通りだ。それに、真琴の力では残念ながら太刀打ち出来ない。どっちにしろ、オレは水虎に頼るしかなかったのだ。となれば、6の目を出さないようにするのがオレの役目。
「ここにも、馬鹿がいるとはな。我は水を制する者。その我に津波を仕掛けてくるとは、呆れて物も言えんな。さて、今度はこちらから行くぞ!」
クラーケンは粘液を撒き散らしながら、その牙で甘寧に狙いを定めた。甘寧は、バックステップで回避しようとするも滑りのあるデッキの所為で、その牙を両足に喰らった。甘寧は、60のダメージを受けた。――HP310/370――
更にクラーケンは、体勢を崩した甘寧の右足を触手で掴み上げ、デッキへと叩き付けた。甘寧は、20のダメージを受けた。――HP290/370――ダメージは然程ではないが、触手は絡み付いたまま離さない。
「甘寧――っ! しっかりしろ!」
拉げた鈴がデッキに転げ落ちる中、凌統が援護に入る。しかし、凌統もまた触手の餌食になってしまった。
「お前も掴み上げてやるぞ!」
クラーケンは宣言通り、触手で凌統の胴体をするりと掴み上げデッキに叩き付けた。凌統は20のダメージを受けた。――HP330/350――
「く、くそ。離せ!」
掴み上げた触手は、もがく凌統の体をより締め付けた。
「二人共、今助けるぞ!」
とは言ったものの、津波以外全体攻撃を持たない水虎は、一人ずつしか救出出来ない。それを察してか、甘寧が声を荒げた。
「俺様は大丈夫だ。先に凌統の奴を助けてやれ」
「甘寧……何を言う! 攻撃力の高いお前の方が先だ!」
「美しい……実に美しい。友を思いやる心。まさかこんな所で見れるとはな。安心しろ! 何れにせよ、二人共殺してやるぞ!」
「くっ……そんな……そんなことはさせねぇ! 甘寧、済まない。先に凌統を助けさせてもらう」
胴体を締め付けられた凌統の方が先だ。呼吸が上手く出来ない為か、顔が青ざめている。選びたくはないが、甘寧には我慢してもらうしかない。
「その戦い、ちょっと待った――っ!」
突然、玄武池から顔を出した化け物……。いや、仲間というべきか?
「酒呑童子――っ! やはり、生きていたのだな?」
「当たり前だ。我輩は、テイマー……貴様を倒す前に死ねん!」
「戯れ言を……」
オレは、ずぶ濡れになった酒呑童子をデッキへと引き上げた。
「酒呑童子よ、百々目鬼は倒したのか?」
「あぁ。しぶとい奴だったが、何とかな。さて、我輩も混ぜてもらうぞ!」
「ふん。好きにしろ!」
オレは口ではそう言ったが、力強い味方が傍にいることに感謝した。それに、何処と無くアクが抜けたような感じ……悪くない。
酒呑童子 LV25 ランクA 特性 盗む
HP400 MP60
攻撃力88
素早さ69
スキル『盗む』『薙刀無双』
流石、酒呑童子。死闘を繰り返しただけあり、過去にやり合った時より格段にパワーアップしてやがる。だが、現時点では味方。素直に好意に甘えるしかない。
「酒呑童子よ、オレは凌統を救出する。お前は、甘寧を頼む」
「容易い……任せろ」
オレは酒呑童子の意思を確認すると、DDを振った。DDは、5の黄金の爪を示した。
水虎は、真っ先に気を失いかけた凌統に駆け寄り、そのきらびやかな黄金の爪で吸盤ごと触手を切り裂いた。触手に104のダメージを与えた。――HP0/80――触手…」残り一本。
「おるぁ! こんな物に捕まってるな!」
酒呑童子も甘寧に駆け寄り、甘寧に嫌味を吐いた後、隼のように薙刀を振り回し触手を切り裂いた。触手に88のダメージを与えた。――HP0/80――
甘寧と凌統の救出に胸を撫で下ろしていると、クラーケンは不気味な笑みを浮かべた。
「喜ぶのはまだ早いぞ!」
クラーケンがそう言うと、倒した筈の四つの触手がワラワラと再生したのだ。
「こ、これが再生……」
わかってはいたが、その脅威を目の当に少なからず焦りを感じた。




