第七十八話 言葉より態度
「タクマ、酒呑童子。助かったぜ」
甘寧と凌統は触手の呪縛から解き放たれたが、深刻な状況に変わりはない。
「甘寧、じいさんの言っていた通り、クラーケンの奴……再生しやがった」
「そのようだな……」
まるで他人事のように答える甘寧。その意図が掴めず拳を握り締めると、凌統が言い添えた。
「タクマ、ここは俺達に任せろ」
「どういう意味だ?」
腑に落ちないオレは、威圧的な口調で凌統に詰め寄った。しかし、凌統は眉一つ動かさず返した。
「邪馬台国に、草薙の剣を取りに戻れと言うことだ。再生を食い止めるには、それしかないんだろ?」
「だが、それでは……」
酒呑童子が加わったとはいえ、クラーケンはあまりに強敵。オレは首を縦に振ることが出来なかった。
「さっきから聞いていれば、ごちゃごちゃと……。要するに再生を食い止めるには、草薙の剣が必要なのであろう? ならば、テイマーよ。ここは、我輩達に任せよ。尤も、戦いが終わったら、勾玉と一緒に返してもらうがな……」
「酒呑童子……勾玉も草薙の剣も貴様には渡さない……。だが、協力してくれること、嬉しく思う」
オレがそう返すと、酒呑童子はニヤリと笑い薙刀を肩に乗せた。
「甘寧、凌統! 本当に任せても大丈夫か?」
「俺様を誰だと思っている? 鈴の甘寧だぞ」
「タクマ、案ずるな。酒呑童子もいる」
「二人共……よし、わかった。出来るだけ、早く戻るからな!」
「おう! 後方に脱出用の小舟がある。それを使ってくれ!」
「わかった」
オレはそう言葉を残すと、小舟に向けデッキを駆け出した。
「己れ――っ! 逃がさんぞ!」
クラーケンに背中を見せた途端、触手がオレに忍び寄った。
「貴様の相手は、この我輩だ!」
酒呑童子は、絡み付こうとした触手を一刀両断しながら怒号あげ、天に叫んだ。
「我こそは、酒呑童子。何人たりとも、ここを通さん! テイマーよ、早く行け――っ!」
「酒呑童子……済まない」
オレは脱出用の小舟を玄武池に晒し、死闘を繰り広げた戦場を後にした。
「クラーケン、覚悟しやがれ!」
背中に感じる甘寧の叫び声。しかし、振り返ると迷いが出てくる。オレは無心になり、オールを漕いだ。必ず戻ってくると、心に誓って。
◇◇◇◇◇◇
一方、義経達は――
卑弥呼は、いち早くタクマに草薙の剣を届けたいと考え、再びヤマタノオロチに姿を変え、一行を背に乗せ玄武池へと向かっていた。良かれと思ったこの行為が、災いをもたらすことになるとは知るよしもなかった。
「わらわが送れるのは、ここまでじゃ。ご武運を祈る」
「卑弥呼、ありがとね。後は、私達で何とかするから」
お雪達の礼も聞き届けず卑弥呼は、玄武池の手前にある山林に義経達を降ろし、再び邪馬台国へと戻っていった。
山林を抜け、玄武池の畔に辿り着くと、壮絶な戦いの爪痕が義経達の目に映った。大地に転がる妖魔達の亡骸。その数は、百を越えた。
「こ、これは? タクマ殿……生きていますよね?」
あまりの光景に、義経は独り言のように呟いた。間髪入れず、川姫が言葉を足す。
「当たり前じゃない。タクマが死ぬ訳ないし、甘寧や凌統の強さだって相当なものよ」
「いや、某が不安に思うことは、タクマ殿が無事甘寧殿達と合流出来たかと言うことです」
「それは……」
返答に困る川姫に、お雪は言った。
「確かめればいいだけのこと。早く草薙の剣を届けましょう」
お雪の一言で、足を止めた一行は再び歩みを進めた。
◇◇◇◇◇◇
時同じくして、クラーケンの残党である妖魔から軍馬を略奪したオレは、邪馬台国までの道程を急いでいた。
「皆、死ぬなよ……。もう少し、もう少しだ」
高ぶる気持ちを抑え、手綱を握る。粗末な鞍は、オレに余計な疲労感を与えた。しかし、立ち止まる訳にはいかない。大切な仲間の為……いや、大切な友の為、血豆が出来ても手綱を握り続けた。
「見えた――っ! 邪馬台国」
オレはここまで走り続けた軍馬の首筋に愛撫すると、手頃な木に手綱を縛り付けた。
「タクマ殿……どうしてここに?」
オレの姿を見た民が言う。
「話している暇はない。一本だたらはいるか?」
オレが声を大にすると、騒ぎを聞きつけ卑弥呼が姿を現した。
「おう、卑弥呼。一本だたらを知らないか? 草薙の剣が必要なんだ」
「何と! 一本だたらや義経殿達は、草薙の剣を携え玄武池に向かった所じゃ」
「何だと?」
「何かあったのかや?」
「西洋の悪魔……クラーケンって奴を倒すのに草薙の剣が必要なんだ」
「済まぬ。わらわが皆を玄武池へ送り届けたのじゃ……」
「気にするな。卑弥呼、世話になったな。オレは玄武池に戻る」
オレは卑弥呼にそう言い残すと、再び軍馬に股がり玄武池へと向かった。




