第七十六話 巨大な刺客
酒呑童子の活躍で玄武池を出航出来たオレ達は、向こう岸の鬼赤壁へと船を急いだ。あれ程取り囲んでいた大船団は一気に引け、スムーズに事が進んでいた。しかし、それも長くは続かず、またしてもオレ達の行く手を遮る災厄が襲い掛かった。
「甘寧、見てみろ! 巨大な渦が近付いているぞ! 避けるんだ!」
いや、正確には渦に引き寄せられていると言った方が妥当だろう。
「タクマ、わかってる。さっきからやろうと思ってるんだが、船の制御がきかない……」
「何だと?」
一抹の不安が過る。もしや、この事態を招いたのはクラーケン? そしてオレの予想は、現実のものになった。
「だ、駄目だ。吸い込まれる。衝撃に備え、何処かに掴まってくれ」
甘寧の諦めにも似た言葉を受け止めると、オレはデッキにへばりついた。その瞬間、強い衝撃と共に渦の中から、滑りのある吸盤を持った化け物が現れた。
「貴様がクラーケンか?」
オレがそう言うと、巨大な体と長い触手で船を抱き込みながらその化け物は返した。
「我を知っているとは光栄だな。そう、お前の言う通り我は西洋の悪魔……クラーケンだ。どうやら、我が命を与えた雑魚共は倒したようだな? 少しは楽しめそうだ……尤も、我の相手にはならないようだが」
苛立ちを隠せずクラーケンを睨みつけると、甘寧がオレの横に駆け寄った。
「能書きはいい! 俺様の船からその汚ねぇ腕を離しやがれ!」
「威勢がいいな。そうか、お前がバックベアード様が言っていた鈴の甘寧だな?」
「バックベアード? もしかして、デカイ目ん玉の妖怪のことか?」
甘寧は怒りを露にし、身を乗り出した。そう言えば過去に言っていた。タチの悪い妖怪の所為で、仲間とはぐれたと。
クラーケンはビー玉のような丸く光る目を細めると、高らかに笑いながら返した。
「グハハハッ! 察しがいいな。孫権達のように馬鹿ではないようだな」
「何? おい! 孫権達は無事なんだろうな?」
「さぁな。バックベアード様のことだ、なぶり殺してることだろう……」
「貴様――っ!」
「甘寧! 落ち着け! こんな烏賊野郎の言うことなど信じるな。孫権は、甘寧の仲間なんだろ? だったら、そう簡単にはくたばらないさ。ここで冷静さを失ったら、コイツの思う壺だ」
「タクマ……そうだな。俺様としたことが。思わず熱くなっちまったぜ」
「と言うことだ、烏賊野郎! 悪いが、そこを退いてもらうぞ!」
オレは水虎を具現化し、バトルフォースを展開した。
水虎 LV26 ランクA 特性 水吸収
HP365 MP62
攻撃力78
素早さ58
1 クリティカル
2.3 通常攻撃
4 ミス
5 黄金の爪
6 津波
「三人で一気に畳み掛けるぞ!」
甘寧と凌統も、水虎に続くように身構えた。
甘寧 LV27 ランクA 特性 一騎当千
HP370 MP22
攻撃力97
素早さ76
スキル『一騎当千』
凌統 LV27 ランクA
HP350 MP172
攻撃力88
素早さ70
スキル『鼓舞』
「じいさん、クラーケンの奴のステータスはどうなっている?」
「残念じゃが、奴は口だけではないようじゃ」
クラーケン LV28 ランクA 特性 水吸収
体 HP500 MP50
攻撃力60
素早さ55
触手×4 HP80 MP0
攻撃力20
素早さ15
スキル『召喚』『再生』
――クラーケン……西洋の悪魔と恐れられた、召喚を得意とする巨大な烏賊の妖怪。人間界のノルウェー近海を拠点とし、多くの船を襲っていた。その実力が認められ、バックベアードにスカウトされた。――
「じいさん、胴体と触手が別物じゃないか」
「そのようじゃ。しかも、百々目鬼のように、再生が可能のようじゃ……」
「何かいい方法はないのか?」
「草薙の剣なら、或いは……」
「そうか……」
草薙の剣は、一本だたらが鍛え上げてる最中。当然、手元にはない。となれば、今は草薙の剣抜きで戦うしかない。
「タクマ、そう気を落とすな。俺様達は、今やれることをやるだけだ」
「そうだな、甘寧、凌統! オレに続け!」
「おうよ」
「任せておけ」
甘寧と凌統は、オレと共に覚悟を決めた。
◇◇◇◇◇◇
一方、こちらは邪馬台国。
怪我の治った義経達は、一本だたらが草薙の剣を鍛え上げている工房に集まっていた。
「一本だたら殿、どうですか?」
「待っていろ。今、仕上げに取り掛かる所だ」
一本だたらは草薙の剣を天井に向けて掲げると、その刃先を様々な角度から見つめた。
「出来た……出来たぞ。我ながら素晴らしいデキだ。これに叶う剣はなかろう」
「おぉ、何とも眩い輝き」
「我の……今世紀最大の自信作だ」
一本だたらは歓喜の中滴り落ちる汗を拭い、満足そうな表情を浮かべた。




