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第五十九話 茨木童子の正体

「な、何をする。わらわにそんなことをすれば、卑弥呼も死ぬぞ!」


「知ったことかよ!」


 オレはどうにでもなれと、村正で茨木童子を斬りつけた。すると、茨木童子は血を吹き出しもせず、気を失うようにその場に横たわった。


「駄目か……やっちまったのか?」


 オレが諦めにも似た言葉を発すると、風もないのに羽衣がフワリと揺れた。


「んん……」


 茨木童子が僅かに声を発する。いや、声のトーンがさっきと違う。何処か幼さの残る優しい声だ。


――刹那。


 その背後から、まるで魂が抜け落ちるように、凄まじい光の渦が巻き起こり、もう一体の体が現れた。


「うぐ……己れ――っ! せっかく若さと美貌を手に入れたというのに……」


 そう発するのは、恐らく茨木童子の正体。若さと美貌を手に入れる為に、卑弥呼の体を乗っ取ったようだが、素の状態でも十分綺麗だ。

 グラマラスなボディに、虎柄のビキニ。そして、金色に靡く肩まである髪。それを形成する整った顔立ちは、卑弥呼の引けを取らない。


「お前が、茨木童子だな?」


「み、見るな。醜いわらわを……」


 これは相当な重症だ。これ程の美貌を持ちながら、自分は醜いと思ってやがる。意外とネガティブだ。


「茨木童子よ、お前は醜くなんてない」


「つ、つまらぬお世辞はよせ。わらわを怒らせたこと……後悔させてやる。弁慶! 何をボサッとしておる。お前もわらわの援護をするのじゃ。こんな所でやられたら、酒呑童子に何を言われるかわかったもんじゃない」


「す、すみません。直ちに」


 弁慶はそう茨木童子に返事をすると、その横で護衛に回った。


「なぁ、茨木童子。酒呑童子とはどういう関係だ?」


 オレは聞き覚えのある名に反応し、茨木童子に尋ねた。


「お前に話す義理はない」


「そうか……ならば、一つ面白いことを教えてやろう。酒呑童子はオレ達に負け、尻尾を巻いて逃げていった。正確には逃がしてやったんだけどな。そこにいる弁慶が証人だ」


「弁慶、それは本当か?」


「はい。しかし、酒呑童子は力を出し切れなかったようですが……」


「それを聞いて安心した。酒呑童子が、こんな輩に負ける筈ないものな。ホッホッホ」


 チッ。下品な笑い声だ。何だか知らないが、酒呑童子は全開じゃなかったようだ。それは兎も角、ここは茨木童子を何とかしないとだ。


「茨木童子よ、後悔するのはお前の方だ! 行くぞ!」


 女を相手にするのは趣味じゃないが、このままではまた、卑弥呼の体を乗っ取られる恐れがある。オレは深い溜め息の後、水天坊を具現化しバトルフォースを展開した。


「義経は援護を頼む」


「某はいつでも、大丈夫です」


「うむ、心強いな。川姫とお雪は、卑弥呼を頼む。気を失ってはいるが、生きてる筈だ」


「オッケー。こっちは私達に任せておいて。ねぇ、川姫」


「う、うん」


 お雪は元気よく返したが、川姫は納得がいかないようだ。川姫には、申し訳ないと思っている。川姫をバトルに参加させたいのは山々だが、万が一のことを考えてだ。

 オレと義経にもしものことがあったら、お雪や卑弥呼を守ってやる奴がいないからだ。まぁ、そんなことは到底あり得ない話だが。


水天坊 LV19 ランクB 特性 水に強い


HP256

MP50

攻撃力57

素早さ45


1 クリティカル

2.3 通常攻撃

4 ミス

5 おばけ胡瓜

6 水遊び


義経 レベル22 ランクB 特性 円明流


HP166/225 MP67

攻撃力55

素早さ65

スキル『剣術』『弓術』『回復術』


 そうか……忘れていた。義経は弁慶とバトルの途中。つまり、HPは現状維持って訳だ。

 てことは、弁慶も同じ条件って訳だな。


弁慶 LV20 ランクB 特性 薙刀 身代わり


HP235/290 MP10

攻撃力59

素早さ20

スキル『薙ぎ払い』『身代わり』


 義経が背後から仕掛けた攻撃は、ダメージを受けてなかったってことか。

 そして問題の茨木童子だが……。


茨木童子 レベル20 ランクA 特性 崩壊


HP295 MP200

攻撃力55

素早さ60

スキル『金棒』『崩壊』


 酒呑童子と五分といった所だな。勝てない相手ではない。ただ、"崩壊"っていう意味のわからないスキルが妙だ。まぁ、いい。戦えばわかるってもんだ。

 このバトル、先手を取ったのは義経だ。義経は茨木童子に狙いを定め、走りながら鯉口から鍔を撫でると、容赦なく茨木童子に刃先を向けた。


「茨木童子。某の剣術を受けてみよ」


 膝丸は眩い光を放ちながら、肉を切り裂く音を奏でた。


「何――っ!」


 義経が一旦膝丸を鞘に収めると、血を流していたのは茨木童子ではなく、弁慶だった。弁慶は55のダメージを受けた。――HP180/290――


「でかしたぞ、弁慶。褒めてつかわす」


「有り難き幸せ」


 何と弁慶は茨木童子を庇い、全身で義経の膝丸を受け止めたのだ。

 そういうことか……。仲間に体を張らせ、自分は無傷。オレが一番嫌いなタイプだ。ならば、もうコイツを女だと思うまい。

 オレの躊躇いが消えると同時に、茨木童子は幾多のトゲを備えた金棒を具現化し、水天坊へと襲い掛かってきた。不意をつかれた水天坊は、その金棒をまともに喰らい55のダメージを受けた。――HP201/256――

 通常攻撃だけなら、義経に引けを取らない。もし、茨木童子が、卑弥呼の体との相性が良かったらと思うとゾッとする。


「さぁ、水天坊……お前の番だ。おもいっきり暴れてこい」


 オレが振ったDDは、6の水遊びを示した。

 水天坊は天を仰ぎ水をかき集めると、それを茨木童子と弁慶に向け放った。水遊びとは名ばかり――それはまるで鉄砲水のような凄まじい威力だった。茨木童子と弁慶に、それぞれ68のダメージを与えた。――HP227/295――HP112/290――

 全体攻撃となれば、弁慶も庇うことは出来ない。

 オレ達は、序盤から有利な立場に立った。

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