第五十七話 茨木童子降臨
卑弥呼の体を乗っ取っている茨木童子を倒すべく、オレ達は上へと続く螺旋階段を駆け登った。
最上階へと辿り着くと、これまでの雰囲気とは一転して、建物の中とは思えない異国の庭園のような空間が広がっていた。
「ここが最上階か……」
オレがそう呟くと、遥か前方でこの庭園に似つかわしくない、西洋アンティークの椅子に鎮座する女が手招きをして来た。途端に、禍々しい霧が立ち込める。
「おいで……わらわの傍においで……」
霧の先にうっすらと見える、幼さの残るパッチリとした目元。所謂、童顔ってやつだ。しかしだ。それとは裏腹に、純白の羽衣を覆いつくす程の黒く艶のある長い髪は、高貴な印象を与えた。この人物こそが卑弥呼――いや、卑弥呼の体を借りた茨木童子。
「アンタが卑弥呼か?」
オレは様子を探るように、卑弥呼の体を借りた茨木童子に問い掛けた。
「そうじゃ。わらわが卑弥呼じゃ。旅の者よ、よくここまで来たのう」
茨木童子の奴……あくまでしらを切るつもりだ。
「卑弥呼さんよ、オレ達が何にも知らないとでも思っているのか?」
「何のことじゃ? わらわにはわからんが……」
「さっきは危うく、お前の罠で死に掛けた。白状したらどうなんだ? 茨木童子さんよ!」
「何と! バレておったか……」
しかし、茨木童子は驚きもせず、眉ひとつ動かさない。
「何だ、随分とご立腹じゃねぇか?」
「当たり前じゃ。お前達ごときに何を慌てればいいのじゃ?」
「チッ! その態度……気に入らねぇな 悪いが倒させてもらうぞ」
「ホッホッホッ――っ!」
「何が可笑しい」
「お前達の攻撃パターンは、四天王達との戦いでお見通しじゃ。大人しく刃の餌食になれば良かったものを……四天王も使えんのう。やはり捨てゴマは捨てゴマでしかないようじゃ。ホッホッホッ」
コイツ……部下を殺した挙げ句、何とも思っちゃいない。しかし、攻撃パターンを見破られたんじゃ……そうか、水天坊がいたな。幸い、石熊童子と輪入道が融合したのに気付いていないようだ。
「茨木童子、残念だったな。こっちには新たな妖怪がいるんだ。出でよ、水天坊」
「何と! 新たな妖怪を手に入れてたとは……ホッホッホッ。ますます愉快」
茨木童子は高らかに笑った。気でも狂ったか。それとも奥の手でもあるのか? 答えは後者だった。
「わらわを倒せば、卑弥呼も死ぬ……さぁ、その妖怪で、わらわを倒すがよい」
「くっ……そう言うことだったのか……」
これでは、手も足も出ない。茨木童子を倒しても、卑弥呼まで殺してしまっては意味がないからな。
――テイマーよ――
その時、オレの心の中に何者かが語りかけてきた。オレは悟った。その声の主が体を乗っ取られた卑弥呼だと。
「アンタ、もしかして卑弥呼か?」
――察しがいいのう。わらわは卑弥呼じゃ。そなたの心に語りかけておる。テイマーよ、頼みがある。わらわに気にせず茨木童子を倒すのじゃ――
「そんなことしたら、アンタの命が」
――気にするでない。わらわの不注意で招いたことじゃ。このままでは、民に申し訳が立たぬ――
「何かいい方法ないのかよ……」
――残念じゃが、茨木童子が自ら、わらわを開放するしか方法ない――
「何だ。あるんじゃねぇか。可能性がゼロじゃないならオレはそれに賭ける。卑弥呼、少し痛い思いするが我慢してくれ」
オレが一つの決断をすると、心の中に響いていた卑弥呼の声は消え去った。どうやら、オレに全てを託したらしい。
「何をさっきからブツブツ言っておるのじゃ? 死への恐怖で、狂いでもしたか?」
「残念だったな。生憎、オレは往生際が悪いもんでな。一つ言っておこう……死ぬのはお前だ!」
オレは迷いを打ち消し、バトルフォースを展開した。茨木童子は、オレの意外な行動に目を丸くした。
「ちょっとタクマ、そんなことしたら卑弥呼が……」
「大丈夫だ。オレを信じてくれ。さぁ、下がるんだ。川姫、そして義経も」
三人はオレの言葉を信じ後退した。さて……やるしかない。上手く卑弥呼から茨木童子を開放出来る自信はないが、これしか方法はない。
水天坊 LV19 ランクB 特性 水に強い
HP256 MP50
攻撃力57
素早さ45
1 クリティカル
2.3 通常攻撃
4 ミス
5 おばけ胡瓜
6 水遊び
どうやらランクも上がり、技も一新されたようだな。これは楽しみだ。
さて、問題の茨木童子だが……。
卑弥呼(茨木童子) LV25 ランクA 特性 神々の力
HP150 MP180
攻撃力50
素早さ80
スキル『神々の力』
何だ、このステータスは。高ランクのくせに弱すぎる。さては、茨木童子の奴……卑弥呼の力を引き出せていないな? これは容易い。
「待たせたな、茨木童子。さぁ、相手になってやるぞ」
「お前のような奴は、痛い目に合わないとわからんようじゃな」
茨木童子は可憐に舞いながら、羽衣をヒラヒラてさせ水天坊に袖口で斬り付け50のダメージを与えた。――HP206/256――
思った通り大したことない。茨木童子も自分の攻撃に納得がいかないのか、首を傾げてやがる。
「こ、こんな筈じゃ……」
「何だ、その攻撃は! Aランクが聞いて呆れるぜ。水天坊、お前の力を見せてやれ」
「御意」
オレの振ったDDは、5のおばけ胡瓜を示した。
水天坊は、身の丈程ある巨大な胡瓜を抱え、そのまま茨木童子の懐に突進し79のダメージを与えた。茨木童子は軽々と吹き飛び、庭園に置かれた燈籠へと激突した。
「ちょっとやり過ぎたかな……」
砕けた燈籠の下敷きになった茨木童子は、まだ起き上がらない。水天坊に手加減するように言えば良かったなと反省していると、聞き覚えのある足駄の音が聞こえてきた。
その音にいち早く反応したのは、義経だ。
「べ、弁慶! 無事だったのか?」
「…………」
義経が声を掛けるも、弁慶はそれを無視してその横を通過した。
「おい、弁慶。何故、無視をする?」
「…………」
オレも弁慶に声を掛けたが、反応は同じだ。そしてそのまま弁慶は、燈籠の下敷きになった茨木童子を救出した。
「茨木童子……大丈夫か?」
「弁慶……か。すまぬ。どうやらわらわは、この体を上手く使いこなせないようじゃ」
「弱気なことを……ここはこの弁慶にお任せ下さい」
「すまぬな。弁慶……」
「さぁて、お前達。こんなことしてタダで済むと思うなよ!」
「弁慶……一体どうしたんだ?」
「弁慶? 気安く俺様の名前を呼ぶんじゃねぇ」
弁慶は目を血走らせ、背中から薙刀を取り出した。




