第五十三話 五重の塔の罠
酒呑童子を追い払い、弁慶を仲間に加えたオレ達は、五条霊大橋を渡り邪馬台国までやって来た。
邪馬台国は、強固な壁に囲まれていて、言うなれば城塞のような佇まいだ。
ここに目的の、草薙の剣がある。そして、その為にはヤマタノオロチを倒さなくてはいけない。
「さて、ここが邪馬台国じゃが、ヤマタノオロチのいる祠に赴く前に、あやつに挨拶せねばなるまいな」
「じいさん、あやつって誰だ?」
「この国を治める"卑弥呼"(ひみこ)じゃよ」
「卑弥呼? そいつも鬼骨王の仲間なのか?」
「違う、違う。卑弥呼は中立の立場じゃ。何より、邪馬台国が黄泉と独立してるのがその証じゃ」
「そう言えば、邪馬台国はこの世(人間界)とあの世(黄泉)の狭間にあるって言ってたよな?」
「うむ。その通りじゃ。つまり、邪馬台国は関所のようなもんじゃな」
妖怪大翁は、一通り話し終えると突然足を止めた。
「どうしたんだ、じいさん」
「何やら様子が可笑しい……」
オレも薄々それに気付いていたが、言葉にしなかっただけだ。
邪馬台国に足を踏み入れ暫く歩いたが、人の気配がまるでない。て言うか、人が住んでる気配がない。尤も、ここに住む住人が人とは考え難いのだが。
「ちょっと、待っておれ」
妖怪大翁はそう言うと、何軒か建ち並ぶ民家を片っ端から当たった。
「誰か居らぬか? うむ。ここにも居らんか……」
「妖怪大翁殿、まずはその卑弥呼と言う人物を訪ねてみましょう」
「俺も義経の意見に賛成だ」
「じいさん、義経と弁慶もこう言ってる。まずは卑弥呼に会いに行こう」
「そうじゃな……」
卑弥呼が居る場所は、案内されなくてもわかる。前方に佇む趣のある五重の塔が、恐らく卑弥呼の住みかだ。
そして、その遥か後方には、大量の御札の貼られた禍々しい祠が佇んでいる。ここにヤマタノオロチが潜んでいるに違いない。
オレの予想を裏切ることなく、妖怪大翁は五重の塔へと歩き出した。
「卑弥呼や、居らぬか? ワシじゃ、妖怪大翁じゃ」
妖怪大翁がその門を叩くも、反応がない。
「変じゃな……。留守なのか?」
妖怪大翁は先陣を切って、中へと足を踏み入れた。
――刹那。
何処から飛んできた矢が、妖怪大翁に向け放たれた。
「妖怪大翁様、危ない! うぐっ……」
それを庇った川姫の腕に、矢が突き刺さった。
「川姫――っ!」
「へ、平気よ、タクマさん。ガマの油もあるしね。ふぬっ……」
川姫は躊躇することなく矢を引き抜くと、傷口にガマの油を塗り込んだ。さすが女は強い。いや、川姫が強いだけか。
オレがそんなこと思っていると、矢を放った輩が姿を現した。その風貌は、何処か酒呑童子に似ている。
「余計な真似をしおって」
「誰だ、お前は!」
「小僧! 口の聞き方に気を付けろ。俺は酒呑童子が四天王の一人……猪熊童子だ」
「猪熊童子?」
「おっと、抜け駆けは許さねぇ。オイラは酒呑童子が四天王、虎熊童子だ」
また変なのが現れやがった。真っ赤な体に、虎皮のパンツを履いた男だ。コイツも酒呑童子に似てやがる。
「何だ、何だ、騒々しい」
「おう、星熊。何か変な奴らが来やがったんだ」
「何だ、人間じゃねぇか。わざわざ喰われに来るとはご苦労なこった。酒呑童子、四天王の一人星熊童子が相手になってやる」
コイツは他の奴らと違ってやたらゴツい。そして、顔には北斗七星のような傷があり、"独眼"だ。
「兄貴達、抜け駆けはよくねっス。酒呑童子が四天王、金熊童子っス」
まただ。コイツはやたら金ピカで、趣味の悪い鎧を着てやがる。
「なぁ、お前達は何なんだ?」
「今、オイラ達が説明したろうが」
そう答えるのは、虎熊童子だ。
「酒呑童子の四天王なのは、わかった。それより卑弥呼をどうした?」
「はぁ? 兄貴、コイツ……俺らを舐めてるっス」
「金熊童子だっけ? 別に舐めてねぇよ。ただオレは、卑弥呼を何処へやったと言っている」
「俺らに答える必要はないっス」
「なら、力ずくで聞くまで。その前に、お前達に良いことを教えてあげよう。義経、言ってやれ」
「ふむ、酒呑童子は、某達に恐れをなして尻尾を巻いて逃げていった」
「何だと?」
「猪熊、落ち着け。出鱈目だ。オイラ達より強い、酒呑童子が負ける訳ねぇ。嘘か本当か、酒呑童子四天王の恐ろしさを見せてやるまでよ」
「上等だ。四体纏めて葬ってやるぜ! なぁ川姫、」
「もう、メチャクチャなんだから。いいわ、その代わり私は真琴ね」
「あぁ、川姫頼んだぞ」
川姫は頷き、戦闘の準備に取り掛かった。
「義経、行けるか?」
「タクマ殿、何もそこまで強引に……」
「義経、酒呑童子の四天王なんて、たかが知れてる。問題ない」
義経は納得のいかない様子だが、冷静に戦闘の準備を進めた。
問題はコイツ(弁慶)だ。実力は義経の折り紙つきらしいが、どうもイマイチ信じられねぇ。
「弁慶、お前も頼んだぞ」
「タクマ殿、任せてくれ。俺の力を見せる絶好の機会だ」
オレの考え過ぎだろうか。その返答に、違和感はない。むしろ、好感が持てた。
「弁慶、期待してる」
オレが言葉を足すと、五条袈裟の袖を捲り紐で襷掛けにした。露になった黒い素肌は、イカ墨のようだ。しかも、左腕には摩利支天、右腕には大天狗の文字が不気味に刻まれていた。
「さぁ、四天王共、泣いて喚くなよ」
オレは前代未聞の四対四のバトルに興奮を覚えながら、輪入道を具現化した。




