第五十一話 一難去ってまた一難
この期を逃せば全滅だってあり得る。例えDFDを振ったとしても、確率は半分……未来は明るくない。
「うがっ……全員纏めてくたばれ――っ!」
迷ってる暇はないな。オレがやらなければ。
握り締めた村正は、再びオレの血管を流れるように魂に吸い付く。一度暴走してるだけに、村正に対する免疫力が低下しているようだ。
「タクマ殿! 逃げるのです」
「生憎、オレは往生際が悪くてな。心配するな……悪いようにはしねぇ」
「ぐがぁぁ」
邪魅の降り下ろす豪腕と、オレの振り抜いた村正が交差する。何かを斬る音と金属音が、辺りに響いた。
「うっ……」
鋭い爪を浴びたオレは、肩から大量の血を流した。若干目眩を覚えたが、何とか生きてる。
「邪魅は?」
オレが後方を振り向くと、邪魅は直立不動のまま微動だにしない。
「生きてる……のか?」
オレがそう言った瞬間、邪魅は崩れながら前のめりに倒れた。邪魅に50のダメージ。――HP0/860――
「やった……やったぞ!」
邪魅は緑色の液体になり、やがて蒸発した。残されたクリスタルは、規格外の多きさだ。
「タクマ殿! やりましたね」
「あぁ……うぐっ」
「動いてはなりません。今すぐ某が治療をします」
義経によって、傷付いたオレの肩は完治した。
「すまないな、義経」
「いえ、此方こそ」
「それより義経よ、これからどうするつもりだ?」
「お邪魔でなければ、某も一緒に旅についていきたい。それに他に捜している奴もいるのでな」
「お前のような奴が仲間になってくれるなら大歓迎だ。なぁ、真琴?」
「う、うん」
「何、照れてやがる」
「べ、別に照れてなんかいないよ」
「可笑しな奴だ。まぁいい。おい、お雪、川姫、じいさん、もう出て来てもいいぞ」
オレがそう言うと、邪魅から避難していたお雪達が姿を現した。
「あやつを倒したのか?」
「あぁ。結構危なかったけどな」
「信じられん。鬼骨王でも手におえんかった邪魅を倒すとは……。これはひょっとすると、鬼骨王を倒せるやも知れんな」
「倒せる? 倒せるかもじゃなく、倒すんだよ」
「いや~。愉快、愉快。タクマには恐れ入った」
「それより、皆。新しい仲間を改めて紹介する。義経だ」
「宜しくお願い致す」
義経は、深々と頭を下げた。礼に始まり礼に終わる。義経に取っては、ごく当たり前のことのようだ。
「それより、じいさん。邪馬台国まではあとどのくらいだ? 早くヤマタノオロチって奴をぶっ飛ばして、草薙の剣を手に入れたいんだよ」
「そう慌てるでない。邪馬台国は五条霊大橋を越えた先じゃ」
「五条霊大橋?」
その言葉に、いち早く反応したのは義経だった。オレは、何かあるなとこの時思った。
「義経や、五条霊大橋を知っておるのか?」
「いえ、人間界にも五条大橋という橋があるので」
「ほう、そうじゃったか。人間界の五条大橋は、さぞ立派なんじゃろうな」
「えぇ。京都を流れる鴨川に架設された橋で、旅人にも親しまれている立派な橋です。そして、某が"アイツ"と出会った場所でも……」
「アイツとは何じゃ?」
「某が捜している、相棒でもあり好敵手でもある男です」
珍しく身の上話を話す義経に、オレ達は言葉を失った。義経には、義経なりの事情を抱えてるだなと思った瞬間でもあった。
「五条霊大橋に行ったら、その人に会えるかもね」
オレ達を差し置いてお雪が言う。オレも丁度、そう思っていた所だ。
「そうと決まれば、早速出発するぞ!」
オレ達は、邪魅と戦いを繰り広げた地獄岩を後にし、五条霊大橋へと向かった。道中、妖怪とも遭遇したが、輪入道、真琴、義経の活躍もあり、難なく突破出来た。
「あれじゃ、あれが五条霊大橋じゃ」
妖怪大翁の言う先には、弧を描き木造でできた何とも頼りない橋が見えて来た。
半分腐りかけ、苔がびっしりと生えたその橋の下には川はなく、代わりに亡者達が手招きをしている。ここに落ちたら、アイツらの仲間入りだ。
「気持ち悪い橋ね」
川姫の言うことも尤もだ。想像していた橋とだいぶ異なる。早いとこ通過したいものだ。
「皆、急ぐぞ」
急いで橋を通過しようと、思わず歩幅が大きくなる。それと同時に感じる悪寒……いや、妖気?
弧を描く橋の頂点に達しようとしたその時、その妖気は現実の物になった。
「やっぱり来たか。待っていたぞ! さぁ、勾玉を返してもらおうか」
その声の主は、縮れた髪の頂点に五本の角を蓄え、燃えるような赤い肌をしていた。身の丈は、一丈八尺(約六メートル)はある感じだ。おまけに十五個の瞳は、目が合っただけで金縛りになりそうだ。
オレは思った。コイツが酒呑童子だと。
「お前が酒呑童子だな?」
「だったらどうする?」
「成敗するまでよ」
「笑止! 人間ごときに何が出来る。我輩を誰だと思っている? 酒呑童子だぞ――っ!」
そのけたたましい声は五条霊大橋にこだまし、悲痛な叫びをあげる亡者達を黙らせた。
「義経よ、コイツは強敵だ。邪魅と五分……いや、それ以上かも知れない」
「某に恐れるものはない。タクマ殿、いざ参りましょう」
「頼りにしてるぜ」
オレと義経は、その眼光を跳ね返す程の気を開放した。




