第四十七話 剣豪! 義経の剣さばき
「その声は義盛殿ですね。お懐かしゅうございます」
――うむ。今一度言う。その者を斬ってはならぬ――
「どうしてでございますか? あと一歩の所を……」
あと一歩? よく言いやがる。
「おい、義経よ。戦闘中だぞ! やるのかやらねぇのか?」
――その声は我を倒したテイマー。折り入って頼みたいことがある。義経も我の声に耳を傾けよ――
「何がどうなってんだよ」
「タクマ殿、義盛殿は何か考えがあってのこと。暫し休戦を」
「仕方ねぇな。で、要件は何だ? カラス天狗……いや、義盛さんよ」
――うむ。生前我は、剣術を志す者の為に円明流を広めた。その中に、そこに居る義経もいた。我は世の為、人の為と努めたのだが、弟子の何人かはそれを悪用した。我はそれを阻止するべく、妖怪を頼り黄泉へ参った――
「黄泉へ参ったって……」
――そう、その為に自害したのだ。しかし、黄泉へ来てカラス天狗になった我は、鬼骨王の甘い言葉に乗せられ、罪のない妖怪を惨殺してきた。無論、円明流を悪用した弟子達もだ――
「義経、お前の師匠は、結構酷いことしてたんだな。真琴が融合する前のべリアルだって、コイツにポルターガイストにされてたんだぜ」
「そうでしたか……」
義経は義盛の悪事を聞き、言葉を曇らせた。いくら妖魔とは言え、元は人間。良心が痛むのも無理はない。
――あの件は、済まなかった――
「謝って済む問題じゃないよ」
「真琴、結果として融合出来たんだから、その辺にしておけ。義盛さんよ、続けてくれ」
――うむ、忝ない。我は殺害した弟子や妖怪達を、この地獄岩に手厚く弔った。しかし、亡者となった奴らの怨念はあまりに巨大で、"邪魅"という妖怪を生み出してしまったのだ。そこで我は妖力の鎖で繋ぎ、地獄岩ごと封印した。封印は上手くいった。しかし、我はそれと引き替えに幾つかの力を失った――
「成る程、それでなまはげと戦った時、抜刀術を使わなかった訳だ。いや、使えなかったと言った方が適切か?」
――その通りだ――
「地獄岩の封印は、義盛殿が施したのですね」
義経はショックのあまり、地面に膝をついた。しかし、元を辿れば善意からのこと。オレは嘆く義経の肩を、ポンと叩いた。
「義経よ、誰しも過ちは犯す。義盛さんの場合、それを処理するには荷が重すぎたってことだ……」
「わかってます……わかってますけど、殺戮を繰り返した人が師匠だなんて……某の気持ちが貴方にはわかりますか?」
尤もな意見だ。しかし、義盛さんには同情する。
「義盛さんよ、話の続き……あるんだろ?」
――実は、我がそなたに浄化されたことで、地獄岩の封印が解けようとしている。そこで、力を合わせて邪魅を葬って欲しいのだ――
「乗り掛けた船だ。オレはやるぜ。義経、お前はどうするんだ?」
「某は……某は、義盛殿……貴方を見損ないました。しかし、この者達に力をお貸ししましょう」
――義経よ、不甲斐ない我を許してくれ。テイマーよ……いや、タクマ殿。義経を頼みましたよ――
「あぁ、任せておけ」
オレがそう返すと、義盛の声は二度と聞こえては来なかった。
「ねぇ、皆見て! 地獄岩が……」
慌てた様子で、お雪が駆け寄った。
お雪に言われるがまま地獄岩に目をやると、それまで強固な封印を守ってきた鎖が一本……また一本と引き千切られていった。
そして空は厚い雲に覆われ、紫色の霧が立ち込めた。いよいよ"邪魅"が封印から解けるらしい。
大地が震え、巨大な地獄岩にヒビが入っていく。
「もはやこれまでか……タクマ殿……」
「あぁ、この妖気……只者ではない。義経よ、期待しているぞ」
オレが義経にそう返すと、頑強な岩の切れ間から無数の亡者が飛び出した。
「ここは某にお任せを」
義経はそう言い放つと、襲い掛かる亡者達を一体残らず真っ二つに切り裂いた。
横たわる亡者達は、恨めしそうな顔で絶命していく。何ともおぞましい光景だ。
「さすが、義経だ。頼りになる」
「喜ぶのはまだ早い……いよいよ、邪魅のお出ましのようです」
亡者達が出尽くすと、その岩の切れ間から鋭い爪を持った右腕が現れた。続けて左腕。遂にはその全貌を明らかにした。
「ぐががが……ワシをこんな岩に閉じ込めやがって……」
立ち上がった邪魅は、地獄岩を遥かに凌ぐデカさだ。例えるなら一つの山。そのくらいデカイ。
「お~い、タクマ。ガマの油を手に入れたぞい……って、コイツは邪魅。遂に復活しおったか……」
邪魅の復活と同時に、妖怪大翁と川姫が帰ってきた。
「お雪、ガマの油よ」
「川姫、ありがとう。でも、この義経さんに治してもらったの」
「まぁ、何て素敵なお方」
「お前達、お喋りは後だ。離れていろ……邪魅はハンパじゃねぇ」
「わ、わかったわ。タクマさん、この薬草を使って」
オレは、川姫が放り投げた二つの薬草を受け取った。
「サンキュー、川姫。さて、義経よ。準備はいいか?」
「某はいつでもいける」
義経は身構え、オレは再度真琴のバトルフォースを展開した。
「じいさん、邪魅のステータスを頼む」
「お主ら、本当に邪魅と戦う気か? 無謀な……止めても無駄なんじゃろ?」
「あぁ、無駄だ」
妖怪大翁は渋々邪魅のステータスを開示した。
邪魅 LV??? ランクA 特性 鋭利な刃物に弱い 全体攻撃
HP860 MP58
攻撃力35
素早さ10
スキル『様子を見る』『力を溜める』
――邪魅……亡者達の妖怪の怨念が具現化したもの。伊勢三郎義盛、後のカラス天狗の手により地獄岩に封印されていた。地獄岩は、別名地獄の牢屋とも呼ばれている――
桁違いのHPだ。しかし、攻撃力は然程でもない。注意すべき点は全体攻撃。
立ちはだかる強敵を前に、オレは何故かワクワクしていた。




