第三十八話 オレの中のオレ
九尾の狐とのバトルは、オレ達の優勢で事が進んでいた。灼熱の炎が輪入道に効かないと知った今、九尾の狐になす術はない。尤も、真琴には大ダメージを与えることは出来るのだが……。
「もう、ヘマはしないでおじゃる。灼熱の炎がなくても、マロには九本の尻尾があるでおじゃる」
良かった。もう少し頭のキレる奴かと思ったが、灼熱の炎が真琴にも効かないと勘違いしてやがる。
オレは思わず口角を上げた。
「何をニヤついてるでおじゃる。死ぬのがそんなに嬉しいでおじゃるか?」
「死ぬ? オレ達が? 笑えない冗談はよせ」
「そう言っていられるのも、今のうちでおじゃる。」
九尾の狐は素早い身のこなしで輪入道に近付き、黄金の尻尾を鋭い鎌に変え、何度も切りつけ30のダメージを与えた。――HP140/170――
何だ、大したことないなと思った瞬間、九尾の狐は体を反転させ、鋭い尻尾の鎌をしなやかな鞭に変えた。その視線の先に見据えるのは"真琴"。するとその鞭に変えた尻尾で、真琴を叩き上げ同じく30のダメージを与えた。――HP80/110――
想定外の全体攻撃。技にキレがあるのは確かだ。だが、こっちが優勢なのは明白。早い所、片付けたい。
「真琴、私達の攻撃よ」
「うん、任せておいて」
川姫が出した目は3。……ミスだ。ここに来て痛恨のミス。しかし、DDには逆らえない。
「ごめん、真琴……」
「お姉ちゃん、仕方ないよ。ここはお兄ちゃんに任せよう」
「あぁ。オレ達に任せ……うっ……」
再び走る電気のような違和感。オレの中で、何が起きようとしているんだ。
「タクマ、さっきより顔色悪いけど大丈夫?」
「お、お雪……。大丈夫だ。心配するな」
深呼吸をして、DDを振る。マジで早く決めないとヤバそうだ。
出た目は3。通常攻撃だ。それを見届けた輪入道は、九尾の狐ににじり寄る。
輪入道は車輪に火花を散らせ、九尾の狐の懐に潜り込み、旋回しながら空高く突き上げ20のダメージを与えた。更に落下してくるのを見計らい、体当たりで20のダメージを与えた。合計40のダメージ。――HP202/320――
「いいぞ! その調子……だ。うぐっ……うぐっ……」
「どうしたの? タクマ!」
「タクマさん!」
「うごぉぉぉ!」
オレの中で芽生える何か……。まるで、何かに洗脳されるような感覚。それに気付いた時は既に遅く、オレは一本だたらから妖刀村正を奪い取り、魔族の姿へと変えていた。正式には、元の魔王の姿と言った所だ。強固な爪、紫色の肌がそれを物語っている。
「はぁ……はぁ……血だ。血が欲しい……」
自分をコントロール出来ない。何故だか無性に血が欲しい。
「こりゃ、いかん。タクマの奴、村正に魂を喰われおった」
「妖怪大翁様、するとあの時の……」
「うむ。禁じ手じゃな」
「ねぇ、妖怪大翁様、川姫! 何の話?」
「大天狗とのバトルの際、禁じ手である二度目の村正を使ったのよ。そしてタクマさんは今、その村正に洗脳されかけてる……」
じいさん達が話していることは、オレの耳にも届いた。しかし、もはや自分を制御出来ない。血が欲しくて堪らないのだ。
「うぉぉぉ」
蓄積された村正の血糊が、オレの中に染み込む。
「真琴……逃げろ……オレの理性があるうちに……」
「そんなこと出来ないよ……かはっ」
返答を聞く前にオレは村正で真琴を斬り付けていた。40のダメージ。――HP40/110――
「まだだ……もっと血が欲しい……」
「主よ、気を確かに」
「輪入道! 邪魔だ! そこを退け!」
「どぁぁぁ……」
オレは輪入道を斬り付け、40のダメージを与えた。――HP100/170――
オレは何てことをしているだ。大切な味方を……。
「駄目だ……浴びる程の血が欲しい」
「な、何でおじゃるか?」
オレは輪入道の先にいた九尾の狐を、必要以上に斬り付けた。40のダメージ。――HP162/320――
「かはっ……何なんでおじゃるか?」
「九尾の狐よ、一時休戦じゃ。タクマの奴、村正に魂を喰われおった。このままでは、皆殺しにされてしまう」
「どうすればいいでおじゃるか?」
「魂を浄化するしかあるまい。即ち、倒すしか手立てはない……」
「そんな……タクマは私達の味方よ」
「お雪、わかっとるわい。しかしじゃ、このままじゃ、ここにおる全員が殺られてしまうじゃて」
「妖怪大翁、そういうことなら、マロも手伝うでおじゃる。その方がマロも都合がいいでおじゃる」
「そうはさせないわ。でも、今はアンタの力も借りなきゃいけないようね」
「川姫! 正気なの? タクマは味方よ」
「わかってるわよ。でも、このままでは……」
済まない皆――。こうしている間にも、魂がどんどん喰われてやがる。一体どうなってんだ。
「皆……早く……オレを倒してくれ」
オレは声を振り絞りそう言った。
◇◇◇◇◇◇
一方、その様子を見守っていた酒呑童子となまはげは……。
「酒呑童子よ、何か面白いことになって来たぞ」
「うぃぃぃ。面白いこと? 我輩には関係ない。……ん? 酒を切らしたか……なまはげ、ここはお前に任せた。我輩はこの隙に、九尾の根城に酒を取りに行ってくる」
「お、おい! 酒呑童子! チッ、使えない奴だ」
なまはげは引き続き、タクマ達の様子を伺うことにした。




