第三十三話 真琴の取って置き
川姫の投げ放ったDDは竹藪の中に転がり、5を示した。真琴の特性でもある"遊び"。この遊びがどれ程のものかで、勝敗が決まると言っても過言ではない。
DFDを使用したとしても、大天狗の攻撃を防げるのはせいぜい一回。それも偶数が出て、無効化したらの話だ。
真琴は大天狗と間合いを取り、キュッと唇を噛み締め懐から何かを出した。
「これは……」
それは手のひら程の大きさで、使い込まれた生地に、不気味に浮き出た不死鳥の模様があしらわれていた。確か異国の遊び道具……"お手玉"ってやつだ。
「ふふふ。遊ぼう……」
こんな時に何、悠長なこと言ってやがる。気でも狂ったか。オレがそう言おうとした瞬間、真琴は言い添えた。
「これはね、ただのお手玉じゃないんだ。ボクら妖怪の先祖の骨が中に入った、言わば血塗られたお手玉……そして、この不死鳥のあしらわれた生地はその血で染め上げられている……」
だからどうしたと言うのだ。そんな物で戦えるとは到底思えない。オレは期待していた真琴の攻撃に、肩を落とした。
「行くよ、喰らいな。血塗られたお手玉を」
真琴は空高く跳躍し、血塗られたお手玉を的確に大天狗の巨体に当てていく。一つ……また一つ……最後にもう一つ。
派手さもなければ、威力もないように思える。
しかし次の瞬間、オレは目を疑った。大天狗にヒットしたお手玉が地面に落下し、めり込みながら地響きを上げたのだ。
軽々と真琴が投げた血塗られたお手玉。実は常識はずれの重さだった。
「くぉ……くく……」
それと同時に、大天狗がもがき苦しむ。
「効いてるのか?」
いや、そうでもない。与えたダメージは然程でもないようだ。10ダメージ、10ダメージ、10ダメージ……合計30ダメージ。――HP291/460――
威力がないとまではいかないが、貫通パンチより5ダメージも劣る。
「やはり期待はずれか……」
そう口にすると、地面に着地した真琴が両手を広げる。
「吸収――っ!」
「何?」
血塗られたお手玉がヒットした場所から煙のようなものが沸き出て、真琴の手のひらに吸収されていった。
「何だと?」
オレが驚きを隠せずそう言うと、真琴はニッコリ笑い言った。
「ふふふ。一丁上がり」
――HP33/99――
「こ、こいつ……大天狗にダメージを与えながら、そのダメージを吸収しやがった……血塗られたお手玉……すげぇ、技だ」
オレが呆気に取られていると、輪入道が言い添える。
「主よ、まだ戦いは終わっておらぬ。真琴の攻撃は凄いが、勝った訳ではない」
「うぐぐ……お前より輪入道の方がよっぽど頭がキレるようだな」
「何だと? 貴様、もう一度言ってみろ」
「弱い奴程、よく吠えるってな……」
大天狗は真琴に喰らった傷口をペロリと舐めると、カランカランと巨大な下駄を鳴らし強固なパンチを降り下ろした。
またもや、狙いは真琴。この戦闘で輪入道への攻撃は一度もない。真琴から片付けようとしてるのは明白だ。
真琴は大天狗のパンチを喰らい、32のダメージを受けた。――HP1/99――
せっかく回復しても意味がない。しかし、ポジティブに考えると回復していなかったら、確実に今の一撃で真琴は死んでいた。
尚も大天狗は、真琴に向けて拳を振りかざす。真琴は全てを覚悟したのか、目を瞑った。
「真琴――っ!」
絶体絶命の大ピンチ。オレの叫び声は、虚しく竹林にかき消されていった。




