第三十四話 背水の陣
「死ね――っ!」
大天狗の降り下ろしたパンチで、凄まじい風圧が襲う。
「そうだ。DFDを使えば……川姫! 一か八かこれを使うんだ」
オレは、川姫に向かってDFDを投げた。
「無理よ……間に合わないわ」
DFDは、川姫の目の前に音もなく転がった。
「万事休す……か」
――刹那。
遂に拳は地面まで到達した。
「おるぁぁ――っ!」
地面に突き刺さる程の大天狗の強力なパンチは、視界を遮る程の砂埃を巻き上げた。
「くそ……真琴まで死なせてしまったか……」
「ど~れ、プレスされたチビスケでも見てやるか」
大天狗は一旦捩じ込みながら、埋もれた拳を引き抜いた。何処までも非情な奴だ。
「ん? こいつは誰だ?」
大天狗の意外な言葉に、オレはその拳を引き抜いた窪みに目をやった。確かに真琴じゃない。しかし、見覚えのある長い銀色の髪……。
「まさか?」
オレはその窪みに埋もれた主を確かめるべく近付いた。
「お、お雪……何でお前が……」
変わり果てたお雪の姿。それは既に事切れた後だった。
「お……お姉ちゃんが……ボクの身代わりに……なってくれたんだ……」
「真琴! 生きていたのか!」
「死を覚悟して諦めたあの瞬間、お姉ちゃんがボクを突飛ばして代わりに……」
「そうか……お前だけでも生きててくれて良かった」
オレは真琴をそっと腕に抱き、川姫のもとへ運んだ。
「川姫、真琴を頼む」
「うん、わかったわ」
「さて……大天狗! 貴様だけは許しておけねぇ……」
「何だ……その目は! 気に食わないな」
「お前に気に入られたくなんかないぜ! さぁ、バトル再開だ!」
オレはDDを握り締めながら、一本だたらに武器を依頼した。
「一本だたらよ、妖刀村正をお願いしたい。お雪の仇だ。オレも一太刀浴びせたい」
「ならば、鍛え直したこの村正を。主よ、わかっているとは思うが報酬は頂くぞ」
「相変わらずしっかりしてやがる。だが、嫌いじゃないぜ……その性格」
妖しく光る村正――一本だたらの言った通り以前と輝きが違う。鞘から村正を抜き取りながら、握り締めていたDDを振った。出た目は3。
「輪入道、お雪の為にもこの戦い……必ず勝つぞ」
「御意」
輪入道は全身に炎を纏い、大天狗の脛に体当たりした。17ダメージ。更に輪入道の連続攻撃は炸裂し、17ダメージを与え合計34のダメージを与えた。――HP257/460――
そしてオレも血糊の付いた村正で、輪入道の攻撃でよろめいた大天狗の太股を斬りつけ25のダメージを与えた。返り血を浴びた村正は、より一層妖しく光る。――HP237/460――
"魂"だけでなく、目に見えるダメージ。輪入道の攻撃には到底及ばないが、力になれた気がした瞬間だった。
ただオレが攻撃出来るのは、一回の戦闘につき一回のみ……それ以上は、オレ自身が村正に魂を喰われてしまうらしい。つまり、もう奥の手はないってことだ。
「うぐ……チンケな攻撃をしおって……まだ我の恐ろしさを理解していないようだな?」
大天狗の恐ろしさは、十分過ぎる程理解している。だからと言って、引き下がるつもりはないがな。
「よし、輪入道よ。攻撃に備えるぞ」
「待って! ボク……まだやれるよ」
「真琴……」
真琴の気持ちは嬉しい。しかし残されたHPは1。たった1だ。このまま戦闘に参加すれば、今度こそ死ぬ……。
「真琴……、お前、自分が何を言ってるのかわかってるのか?」
「わかってるよ……でもね、ボクの身代わりになったお姉ちゃんの為にも戦いたいんだ」
フラフラになった真琴は、もはや風前の灯。立っているのも不思議なくらいだ。
「タクマさん、貴方の負けよ……。真琴の好きにさせてあげて」
川姫はそう言うとDDを握り締めた。
「止めろ――っ!」
オレの声も虚しく、DDは転がり落ちた。出た目は1。貫通パンチだ。
「お兄ちゃん、これがボクの最期の攻撃……お姉ちゃんを頼むよ」
「真琴――っ!」
真琴は最後の力を振り絞り、大天狗の顔面目掛けて貫通パンチを繰り出し35のダメージを与えた。――HP202/460――
「はぁ……はぁ……もうボクには力が残っていない……煮るなり焼くなり好きにして……」
貫通パンチを繰り出した真琴は、大天狗の前に倒れ込んだ。
「うぉぉ――っ! ちょろちょろとチビスケが! お望み通り殺してやるわ。死ね――っ!」
そうはさせまいとと川姫は、DFDを振った。どうやら今度は間に合ったようだ。
しかし、DFDはあろうことか奇数を示した。つまり、ダメージ半減……HP1の真琴に取っては無意味。
大天狗は、戦意喪失した真琴に容赦なく強力なパンチを繰り出し、半減するも16のダメージを与えた。――HP0/99――
「まだ、我の気は収まらん。死ね――っ! 風神の術――っ!」
大天狗は凄まじい風をかき集め、気絶した真琴に最大のスキルである風神の術を放った。
風は刃となり、傷付いた真琴の体を切り刻む……。半減したとは言え30のダメージ。
「真琴……真琴――っ!」
だから言ったのだ。やめろと……。
ほんのりと赤く染まった真琴の頬。原型をとどめない程腫れ上がってはいたが、満足そうな表情を浮かべている。
「やっとチビスケの奴、死にやがったか。弱いクセに我に歯向かうからこうなるのだ」
「貴様……貴様――っ! 許さねぇ……絶対にな」
オレは指がちぎれる程に、DDを握り締めた。




