第三十話 なまはげよ、永遠に
「一本だたらよ、考えとは何だ?」
「その前に、我を具現化して欲しい」
「わかった」
オレは言われるがまま、一本だたらを具現化した。一本だたらは、ストレッチをしながら言った。
「なまはげと、一時的に同化する」
「同化?」
すかさず妖怪百科事典に目を通す。
――同化……魂が抜け落ちていない者に対し、一時的に融合する行為。しかし、戦闘に負ければ、どちらの魂も成仏出来ず亡者と化す――
いい作戦だ。しかし、デメリットもある。この戦闘に負ければ、なまはげも一本だたらも失うことになる。
「主よ、ご決断を……なまはげの魂が抜け落ちてからでは、話にならない」
「わかってる……わかってるが……」
「タクマ、やるしかないわよ」
「お雪……」
「タクマさん、勝てばいいだけの話」
「川姫……」
「そうだな。やってみないと、わからないしな。よし、一本だたら頼む」
「御意」
一本だたらは返事を返すと、なまはげの亡骸に手を触れ体内に吸収された。やがて、血だらけになったなまはげは、雄叫びを上げながら、再び大地に立った。――HP55/110――
一時的に生き返ったのはいいが、HPの回復量は半分。一歩間違えれば、ニ体を失う。
「一本だたらの為にも、やるしかない……」
オレはDDを握り締め……。
「ちょっと待った。攻撃はこっちの番だ。同化もターンに含まれることも知らないのか?」
「なまはげ、そうなのか?」
「残念ながら、カラス天狗の言う通りだ……しかし、主よ。攻撃に耐えて見せる」
なまはげはカラス天狗の攻撃に備え、身構える。なまはげと一本だたらの魂は共鳴し、凄まじい妖気を見せた。どっちにしても、この攻撃に耐えなきゃ話にならない。
オレが一つ溜め息をつくと、カラス天狗はここぞとばかりになまはげに襲い掛かった。
カラス天狗の鋭いクチバシは、なまはげの傷付いた体に追い打ちを掛ける。飛散した血は、オレの足元にポタリと落ちた。なまはげは、22のダメージを受けた。――HP28/110――
なまはげ……そして一本だたらよ、よく耐えてくれた。後はオレがDDでいい目を出すだけだ。オレは足元に落ちた血糊を付着させ、DDを振った。
しかし、出た目はまたしても6……ミスだ……。
カラス天狗は、不発に終わったこちらの攻撃を見届けると、ニヤリと笑みを浮かべ風を集め始めた。
「木の葉乱舞か……なまはげ、一本だたら……不甲斐ないオレを許してくれ……」
オレが諦めの言葉を発すると、懐で何者かがざわめく。
――真琴だ。
「お兄ちゃん、諦めるのは早いよ。あれがあるでしょ。一反木綿から貰ったアレ」
真琴にそう言われ初めはピンと来なかったが、血糊の付着したDDを見てオレは思い出した。
「DFD……そうか、これがあれば、あと一回は攻撃を凌げる。さっき喰らった木の葉乱舞のダメージは40。つまり、最低でも半減出来るから、助かるって訳だ。真琴、ナイスだ。恩に着る」
オレはカラス天狗の木の葉乱舞に備え、DFDを振った。DFDは偶数を示した。
「ツイてる。偶数、すなわち無効化だ」
風を集め終わったカラス天狗は、木の葉乱舞を放ったが、当然なまはげには効かない。
柔らかな風がなまはげを通り過ぎると、風は止んだ。
「勝機! なまはげ、止めを刺してやれ!」
勢い良く振られたDDは、4の包丁を示した。更にはMPを20消費しての付加攻撃まで発動した。
「なまはげ、お前の力を見せて来い!」
「御意」
カラス天狗は恐れをなしたのか足元が震え、逃げる気配さえない。しかし、敵は敵。殺るか殺られるかだ。
なまはげは稲妻を帯ながら鋭く光った包丁をちらつかせ、カラス天狗に詰め寄った。
「泣く子はいねぇがぁ」
敵とは言え、同情する末路。包丁に稲妻が付加された喰らったカラス天狗は、58ものダメージを受け、断末魔を上げた。
煙のように消えたカラス天狗は、一万円の価値はあるであろうクリスタルを残し、この世を去った。
そして、なまはげも最期の時を迎えようとしていた。
「主よ……今まで世話になった……また何処かで会いたいものだ……」
なまはげはそう言うと、離脱した魂は光の中に消え去った。そして、一本だたらは離脱し、再びカード化した。
「なまはげよ。お前の死……無駄にはしない」
オレは今まで世話になったなまはげを手厚く葬り、祈りを捧げ勾玉が捧げてあるであろう茅葺き屋根の家に一歩踏み出した。
「誰がここを通すと言った?」
そう話すのは、戦闘を陰で見守っていた土天狗だ。
「土天狗よ、お前の主は死んだ。何処へなり消えろ……」
オレは土天狗を相手にせず、更に歩みを進めた。カラス天狗を倒した今、土天狗達を相手にしている場合ではない。
「聞こえなかったか? 誰がここを通すと言ったと言っている」
「天狗ちゃん、タクマに勝てるわけないでしょ? 逃げた方が身の為よ」
「お雪、そいつに近付くな! 様子がおかしい」
「えっ? きゃぁぁ」
オレの忠告も虚しく、お雪は土天狗の重いパンチを喰らい気を失った。
「貴様! こんなことしてただで済むと思ってるのか?」
オレがそう言うと、土天狗は不敵な笑みを浮かべ言い添えた。
「随時、舐められたものだ。弟達よ、覚悟はいいな?」
「はい、兄上」
「勿論」
天狗三兄弟は融合し、カラス天狗の倍ではあろう大きさになった。過去に、一つ目小僧と三つの小僧の融合は見たことがあるが、ここまで桁違いな融合は初めてだ。
「待たせたな。我こそは"大天狗"(おおてんぐ)。貴様らなど、踏み潰してやるわ――っ!」
とてつもない妖気。その声だけで、天狗の里の竹林は大きく揺れた。




