第二十八話 酒呑童子と九尾の狐
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一方、ここは地獄谷――
九尾の狐が構える地獄谷の根城は崖っぷちに位置し、鉄壁の守りを誇っていた。低級妖怪は勿論、名のある妖怪でさえ行く手を遮る程だ。
しかし、酒欲しさに酒呑童子は崖をよじ登り、九尾の狐の根城へと辿り着いた。黄泉の国にその名を轟かす酒呑童子に取ってこの程度は、容易いことだ。
「九尾! いるか? 我輩だ」
九尾の狐は酒呑童子が来たことに気付いていたが、ひたすら無視し続けた。何故なら酒呑童子と同様に、九尾の狐もその存在を快く思っていなかったからだ。
「九尾! 居るのはわかってるんだ。中に入るぞ!」
酒呑童子は頑丈に閉められた鉄の扉を抉じ開け、ズカズカと転がり込んだ。酒呑童子は気付いていないが、九尾の狐はこういう荒い性格が嫌いだった。
「何だ、やっぱり居るではないか」
「酒呑童子か? マロに何用じゃ? 酒ならやらんぞ」
九尾の狐は黄金に輝く九本の尻尾を揺らしながら、冷たくあしらった。
「くっ……」
「やはり酒が目的か? もう一度言う。酒はやらん」
酒呑童子を睨み付ける九尾の狐の目は鋭く、豪腕である酒呑童子すら寄せ付けなかった。
「九尾よ、我輩は何もタダでくれとは言っていない。必要であれば、クリスタルを献上しよう」
「マロは、お前のそういう所が嫌いじゃ」
「何だと? 下手に出ればいい気になりおって……。酒をよこさぬと言うならば、力強くで奪うまでよ」
「本性を現したでおじゃるな? 者共、出合え――っ! 出合え――っ!」
何処から現れた何体もの"赤鬼"と"青鬼"が酒呑童子を取り囲む。赤鬼と青鬼達は、頭上の角を光らせ酒呑童子に向け槍を向ける。
「九尾よ、用意周到だな。我輩も貴様のそういう所が気に食わない」
酒呑童子はそう言うと、片っ端から赤鬼と青鬼を薙ぎ倒した。しかも、物の数秒でである。
「やはり、子供騙しは利かないでおじゃるな? よろしい……マロが自ら相手になるでおじゃる」
「望むところだ。貴様とは、何れ決着をつけたいと思っていた所だ」
「戯れ言を……」
この二体、黄泉を治める鬼骨王の部下の中でも定評があった。力の酒呑童子、そして、技の九尾の狐。妖怪達からも憧れの的とされ、どちらが強いか黄泉でも注目されていた。
「さぁ、何処からでも掛かってくるでおじゃるよ」
「大した自信だな。ならば遠慮なく行くぞ!」
酒呑童子は、九尾の狐の何倍もの太さのある腕を振りかざした。
「な、何――っ!」
しかし、その場所に既に九尾の狐は居らず、酒呑童子の豪腕は虚しく空を切ったのである。
「馬鹿力だけの、単細胞でおじゃる。攻撃はこうするのでおじゃるよ」
九尾の狐は九本の尻尾を自在に操り、酒呑童子の足元を掬い上げ転ばせた。更に、床に大の字になり天に腹を向けた酒呑童子に九本目の尻尾で追撃する。
「うっ……ぐっ……さすが"技の九尾の狐"と言われるだけのことはある。だがな、戦闘と言うものは力こそ全て」
酒呑童子は後退する九尾の狐の尻尾を掴み上げ、二度三度と床に叩き付けた。しかし、これしきの攻撃で参る九尾の狐ではない。
酒呑童子の目に向け、灼熱の炎を放つ。貯まらず酒呑童子は握り締めていた尻尾を離した。正に一進一退の攻防である。
「思ったより、やるようだな」
「そっちこそでおじゃる」
二体は一度間合いを取り、体勢を整える。闇雲に戦闘をしない所が、低級妖怪との格の違いだ。
「酒呑童子、酒を分けてやっても構わぬぞよ」
「どういう、風の吹き回しだ? 我輩に怖じ気づいたか?」
「マロが怖じ気づく? 悪い冗談を……。但し、条件があるでおじゃる」
「何だ、言ってみるがいい」
「マロの部下になるでおじゃる。さすれば、酒は好きなだけ分けてやるぞよ」
「貴様の部下だと? 冗談も休み休み言え! と、言いたい所だが……」
酒呑童子は思った。この条件を飲むことは恥であるが、九尾の狐を殺る気になれば、いつでも殺れる。今は何よりも酒が先決だ。
「よし、その条件受け入れた」
酒呑童子は九尾の狐の条件を聞き入れ、部下になった。
「よろしく頼むぞよ。それでは宴にするでおじゃる」
九尾の狐も馬鹿ではない。酒呑童子の浅知恵など、お見通しだ。
それぞれの思惑を胸に、ここ地獄谷の夜は更けていった。




