第十六話 手の目VS二口女
サモナー自ら、出陣するとは見上げたものだ。二口女がどれ程の戦闘力を持っているわからんが、立ち塞がる敵は撃破するのみ。いつしかオレは二口女の色気に打ち勝ち、そう思っていた。
「手の目! 準備はいいか? バトルフォース展開だ」
「御意……」
手の目 LV8 ランクD
HP54 MP17
攻撃力18
素早さ16
1.2 通常攻撃
3 炎の息
4 鉄の爪
5 睨み付け
6 ミス
手の目もなかなか強くなったものだ。早急に二口女を撃破し、勢い付けたい所だ。イカサマのダイスがなくなった以上、小細工は利かない。
そして、開かれた妖怪百科事典には、二口女のステータスが刻まれていた。
二口女 LV12 ランクE
HP37 MP31
攻撃力5
素早さ25
スキル 『誘惑』『噛み砕き』
――二口女……その美貌は、妖怪の中でも群を抜いている。しかしながら、後頭部の巨大な口は醜いことこの上ない。強固な牙は、何でも噛み砕いて飲み込む――
二口女……オレは今からお前を女だとは思わない。テイマーとサモナー……雌雄を決してやるだけだ。
「さぁ、私から行くよ!」
二口女は手の目の前で体を反転させ、後頭部の巨大口を近付けた。開いたその口は、想像していたより遥かに大きい。
「んがぁぁ……」
唾液を纏った鋭い牙は、容赦なく手の目の肩の肉を引きちぎる。血染めのナース服は、より一層濃いのもに染め上がった。手の目は15のダメージを受けた。――HP39/54――
サモナーだからと馬鹿にしていたが、思ったよりやる。通常攻撃と比較すると、噛み砕きのスキルは三倍の威力だ。しかし、手の目はそれくらいの攻撃ではびくともしない。現に今も、あれほどのダメージを喰らいながらも、薄ら笑いを浮かべてる。
「よし、手の目! 反撃だ!」
オレはDDを転がした。出た目は3。スキル発動、炎の息だ。何とも幸先のいいスタートだ。
「行け! 焼き尽くせ。何なら一撃で仕留めて見せろ!」
「……御意」
手の目にしては珍しく、ワンテンポ遅れた返事。そんな違和感があったが、オレは手の目の攻撃を見守った。
手の目は息を深く吸い込み、二口女に狙いを定め炎の息を放った。たちまち炎は燃え広がり、二口女は火だるまになっていく。
「熱い……熱いわ……」
血染めのナース服は次第に燃え始め、二口女の悩ましげなボディが露になった。
「熱い……ねぇ、助けて……助けて」
その声を聞いて、手の目は一旦、炎を吐くのをやめた。
「手の目! 何をしている。焼き尽くすんだ!」
「熱い……熱い……」
「主よ、出来ない……」
「お前、オレに逆らうのか?」
手の目は頭を垂れたまま、身動き一つしなくなった。やがて、二口女を包んでいた炎は消え去った。
「馬鹿な男……でも、嫌いじゃないわ……手の目と言ったわね、そんな甘い考えを持っていると、命を落とすわよ」
二口女は無抵抗の手の目に再びかじりついた。致命傷とまではいかないが、手の目の命とも言うべき手のひらを噛み砕く。手の目は15のダメージを喰らった。――HP24/54――
「手の目! しっかりしろ! 目を覚ませ! このままだとやられるぞ」
「すまない……主。もう大丈夫だ。ご采配を……」
何処か寂しげな表情――その表情を形成するのは鼻と口だけだが、オレはそう感じ取った。
「まさか、お前……」
オレは一つの疑念を抱きながらも、DDを振った。今の手の目に取っては酷なことかもしれないが、これは命を賭けた戦い。私情は持ち込めないのだ。例えどんな理由があろうとも――。
DDが示した目は2。通常攻撃だ。
「御意」
腹をくくったのか、今度はすぐに反応した。
若干、皮膚の焼けた異臭を放つ二口女の下腹部に重いパンチを浴びせる。
「うっ……」
二口女は吐血しながら、よろめいた。与えたダメージは18。――HP19/37――
「手の目、それでいい……」
「…………」
オレの言葉に、手の目は何も答えなかった。煮え切らない様子の手の目。
そんな時、オペ室の奥のドアが開いた。
「何だ? 騒々しい」
それは見越し入道と五分を張る程の大男。見るからに悪どい真っ赤な顔に、縮れた髪の毛。頭の天辺には、黒光りした角が二本。そして鋭い爪。魔族に通ずる妖気さえ感じる。
「あ、鬼童子様! 助けて下さい。こやつら強くて……私の手には負えません」
「はぁ? カラ傘や、一つ目兄弟はどうした?」
「不覚ながら、こやつらに……」
「ほう、それでワシに助けろと?」
「はい、お願いします」
こいつは厄介なことになってきやがった。そう思ったオレの目に、信じられない光景が映し出された。
「この役立たずが! こんな奴らに負けたとあっちゃ、酒呑童子様に申し訳が立たぬわ。死んで詫びろ!」
鬼童子は、その鋭い爪で二口女を切り裂いた。
「ぐはっ……」
鬼童子は返り血を拭いもせず、オレに言った。
「客人よ。ワシはお前を許さぬ。第二病棟……13号室で待っておるぞ。逃げようなんて考えるなよ。がははは」
鬼童子は下品な笑い声を上げると、オペ室から立ち去った。
「二口女――っ!」
鬼童子がオペ室から立ち去ったのと同時に、手の目は二口女に駆け寄った。
「私は馬鹿な女……利用されているとも知らずに……かはっ……」
「二口女、死ぬな!」
「本当、アンタ馬鹿ね。私みたいな女……」
「自分を責めるな。目を開け」
「……アンタみたいな男もいるのね……」
二口女がそう言うと、二人は強く抱き締め合った。そして眩い光が二人を包み込む。
やがて、その光が消え去ると、一人の男が現れた。予想外の融合である。
「主よ。我が名は居着きの雷。消え去っていった"手の目"と"二口女"の代わりに鬼童子を成敗したい。それが、我の願いだ」
「居着きの雷か。宜しく頼むぞ」
居着きの雷をカード化すると、施錠されたドアも開いた。ようやく、オレはお雪達と再会できたのだ。




