第十五話 一つ目兄弟との死闘
オレは後悔していた。手元にある川姫から貰った薬草……これをセットしていれば、ここまで窮地に追い込まれなかったはず。
しかし、まだ負けが決まった訳じゃない。DDで6の怨念が出れば、二体の動きを封じることが出来る。
ふと病田の霊を見ると、ほぼ瀕死の状態。確率は1/6――賭けるしかない。
意を決しDDを振ろうとしたその時、懐に何かあるのを感じた。手探りでその"何か"をまさぐる。
「これは、真琴が使ってたイカサマのダイス……。勝てる! 勝てるぞ」
オレは二口女の視線を警戒しながら、そっとDDとすり替えた。成功だ。
「早く、DDを振りなさいよ。それとも降参する?」
「降参? オレが降参する訳ねぇだろ! 行くぞ!」
オレは、大袈裟にイカサマのダイスを振った。馬鹿め……。二口女の奴、気付いていない。当然、出た目は6。
「よし、病田の霊! 反撃だ」
「……御意」
病田の霊は最後の力を振り絞って、怨念を放った。
「うぐぐっ」
「兄者! 動けないよ」
この時を待っていた。勝機はまだある――。
病田の霊は更に攻撃を重ねる。動きを封じた一つ目小僧と三つ目小僧に、容赦なく尖った骨を突き刺し、それぞれ10のダメージを与えた。――HP28/48――HP1/51――
残虐なまでにその骨は、二体をいたぶった。動きを封じられている上に、今回放った骨には返しが付いている。抜こうとすれば、肉が引きちぎられるであろう。敵ながら同情する。
「兄者……もう駄目だ」
「三つ目! 諦めんな」
「美しい兄弟愛だな? 二口女よ。どうやら形勢逆転のようだな」
「ふふふっ。それはどうかしら? お前達! "アレ"を披露してあげなさい」
「二口様……ですが、あれは……」
「お黙り! やると言ったら、やるのです」
「兄者! もう"アレ"に賭けるしかないよ」
「お前がそう言うなら……」
一つ目と三つ目は、傷付いた体を庇いながら互いの両手を合わせた。
――刹那。眩い閃光が走り、二体は一つになった。
「我こそは、四つ目……。こうなってしまっては、貴様など赤子も同然。さぁ、我の腕の中で、もがき苦しむがよい」
意図的に融合を……一難去ってまた一難ってとこか。
妖怪百科事典が、慌ただしく捲れる。しかし、どのページにもそれは記されていなかった。
「妖怪百科事典にも記載されていないだと?」
どうやら融合というより、突然変異らしいな。しかし、こっちにはイカサマのダイスがある。早いとこケリを着けないとな。
「病田の霊! ターンはこっちだ。行くぞ!」
オレが狙うべき目は1か2。つまり祟りのスキルだ。絶対的破壊力――これさえあれば融合だろうと、突然変異だろうと問題ない。
そして、オレはイカサマのダイスを振った。出た目は1。しかし、イカサマのダイスは1を示した後、音もなく崩れ去った。
「何だと?」
もうイカサマのダイスは使えない。この攻撃で決めなくては後がない。
「……主よ、問題ない……」
肩で息をしながら、病田の霊は笑みを浮かべる。そして、雷を集め四つ目の頭上に放ち25のダメージを与えた。
更に攻撃は続く。四つ目は爛れた皮膚を抑え、病田の霊を四つの目で見つめる。
病田の霊は、その四つの目に骨を突き刺し10のダメージを与えた。
「ぐぁぁぁ、目が……」
視力を失った四つ目は、床に膝を付いた。そして、そのまま倒れ込むと、融合した体が再び二体に戻った。
「三つ目――っ!」
「兄者――っ!」
まるで魂が抜け落ちたように浮遊すると、一つ目小僧と三つ目小僧はオレに手を差し伸べて来た。
「一つ目! 三つ目! その男は敵だ! 早く戻りなさい!」
二口女の言葉を無視して、二体はオレに手を伸ばす。そう、これはテイムを示唆する。オレは迷わず手を伸ばし、二体を受け入れた。
「よっしゃ、テイムしてやったぜ! この勝負もオレの勝ちだな」
「己れ――っ!」
「よし、お前達、カードに戻れ」
「主よ、戦い終えたこの者達に興味がある」
「病田の霊、どういうことだ? まさか……」
「そう、この者達と融合がしたい」
「そういうことか。なら、オレからも頼む。お前らもそれでいいか?」
一つ目と三つ目は、静かに頷いた。
「よし、融合だ」
三体は眩いオーラに包まれると、光の中に消え去った。
そして、姿を現したのは……
巨大な顔に、鋭い眼光……病田の霊の倍はあるであろう大きな口。
「私の名は、見越し入道。主よ、以後お見知りおきを」
「うむ。見越し入道だな。宜しく頼む。では、カードに戻ってくれ」
「御意」
新たに生まれた見越し入道は、カードになりオレの手に収まった。
「さぁ、二口女! どうだ? 仲間にも愛想つかされた気分は?」
「己れ――っ! 己れ――っ! こんな茶番は終わりだ。私自ら引導を渡してあげるわ」
「お前が? やめておけ! こっちは手の目だ。お前に勝てる訳がない」
「うるさい! 早くしろ!」
二口女はナース服をはだけさせながら息巻いた。露になる胸元にも気付いていない。
「わかった。手の目! 相手になってやれ」
「御意」
二口女は先程までの美しい顔とは異なる、鬼の形相を見せた。




