第百三十二話 月読命VSお雪
「はぁ……はぁ……オレは、全身全霊込めて月読命にデスブレイカーを放ったつもりだ……。なのに……」
「ダグーマ、屈するな。奴の自己修復の力がそれだけ優れているというだけの話」
「ふぉふぉふぉ。さすがは鬼骨王。魔界の王より、よっぽど頭がキレる。死んだ方がマシ」
「何だと? もう一度言ってみろ!」
「何度でも言ってやるさ。貴様のような奴は生きてる価値さえない。さぁ、諦めてここに屍を晒せ!」
圧倒的な力は認めよう。だが、このままでは終われない。
神であっても、“絶対”などと言う言葉などないのだ。
「タクマ。まさか諦めてなんかないわよね?」
「当たり前だ。お雪、頼んだぞ!」
「そうこなくっちゃ。ご采配を!」
「うむ」
手元から離れた年期の入ったDD。それは自らの意思を持ったように転がり落ち、4の氷の抱擁を示した。
お雪はフワリと空を舞い、静かに月読命へと忍び寄る。
冷気を伴う突風はこちらにも及ぶ程に強烈で、突き刺さるような痛みさえ感じる。
「雪女ごときが神に背くか?」
「アンタにはわからないのよ。弄ばれた者の気持ちが!」
お雪の右手が月読命の肩に触れる。その瞬間、水が氷になり氷結していく。
「たかが氷。ふぬ!」
月読命は横目で凍てつく肩を見つめると、次第にそれは溶けていった。
「まだよ!」
今度は左手も反対側の肩に触れる。すると、先程より強力な冷気が月読命を襲った。
「だから、無駄だと言っている!」
「それはどうかしら?」
お雪はそう言うと、背後から抱き締めるように月読命にしがみついた。MP50消費MP250/300――
「な、何だ? 離せ!」
「離せと言われて離す馬鹿がいるわけないでしょ? 鬼骨王! さぁ、今のうちよ」
ある意味、お雪の体を張った憑依。ダメージを与えるというより、自己修復の妨害をするつもりなのだろう。
「お雪! 今すぐ離れろ! そんなことをしたら、お前までダメージを受けてしまう!」
「お雪まで倒せるのなら、都合がいい。死ね! 月読命!」
オレの言葉を全く聞き入れない鬼骨王は、月読命に向けて冥界の鉄槌を繰り出した。
禍々しい妖気が月読命と共にお雪も巻き込んでいく。
「お雪――っ!」
凄まじい爆風と共に煙に巻かれ、視界を遮る。
これくらいのことでお雪が死ぬ筈ない。そう思いながら、もう一度その名を叫んだ。
「お雪――っ!」
「タ、タクマ……私は無事よ」
「チッ……我としたことが、感情移入してしまったか」
「鬼骨王……月読命は?」
「恐らくまだ生きているだろう。月読命よ、下手な芝居はよせ。生きているのはわかっている」
「ふぉふぉふぉ。つまらん……つまらん技だ――っ!」
開けた視界から月読命は姿を現し、怒り狂い亜空間に雄叫びをあげた。
しかし、お雪の作戦は上手くいったらしい。月読命の体力は回復しないままだ。
月読命とお雪に2000のダメージを与えた。――HP8000/10000――HP6500/8500――MP30消費MP170/200――
自己修復が出来ないとなればこっちのもの。だが、お雪の体が何処まで耐えれるか――それが問題だ。
「タクマ! 早く……私が動きを封じている間に……」
鬼骨王の冥界の鉄槌を喰らったにも拘わらず、お雪は再び月読命にしがみつく。
攻撃を催促するお雪――オレに鬼骨王と同じことが出来るか。
◇◇◇◇◇◇
何だ……この感覚は――。脳内再生されていく懐かしい日々。
「人嫌いなつるべ火に好かれるなんて、アンタにはテイマーとしての素質があるのかもね」
「テイマー? アンタ、一体誰だ!」
「私は雪女のお雪――。それより、人間がこんな所に来るなんて、穏やかじゃないわね」
「オレだって、好きで来た訳じゃない……。第一、ここは何処だ?」
そうだ。これは初めてお雪と出会った場面。
「やっと開いたわ。タクマ無事だったのね……」
「お雪、ちょっとごめん。川姫に話がある」
「んん~ん」
これは……二口女を倒し、お雪を冷たくあしらった場面――
「良かった……本当に良かった。お雪……おかえり」
「ただいま……」
これは……お雪が生き返った時のこと――本当に色々なことがあった。
「クソ……オレの頭の中はどうなっているんだ。こんなんで、お雪ごと月読命を攻撃できるのか?」
「タクマ……早く! もう限界……」
「離せ! 小娘が。神の力を教えてやろう!」
オレが攻撃を躊躇った所為で、月読命はお雪を振り払い、軽やかなバックステップで一旦距離をおいた。
「雪女め……お陰で自己修復の機能がマヒしてしまったではないか。まずは雪女……貴様を血祭りにあげてやろう!」
月読命は天に両手をを翳すと、亜空間が流れ出る妖気をその手に集め出した。
「くっ。この空間ではこの程度の妖気しか集まらんか。まぁいい。もがき苦しむ姿を見るのもまた格別。死ね! 神の手!」
月読命は宣言通り、お雪に向かって“神の手”なる技を放った。
見た目は地味だが、その手に青白く燃え盛った妖気の集合体は、黄泉に生息する妖怪全てを集めても足りないくらいだ。
「お雪! 逃げろ!」
「ダメ……あまりの妖気で、足が……足が動かないわ」
「無駄だ。無駄だ! 妖怪など消えてなくなれ!」
「きゃぁぁぁぁ!」
月読命の手がお雪に触れた途端、青白く燃え盛った妖気は激しさを増し、その体を溶かし始めた。
「月読命――っ! やめろ! お前の相手はこのオレだ!」
溶けかけたお雪――オレの怒りは頂点に達し、気付けば月読命に向かってデスブレイカーを振り上げていた。




