☆第百三十三話 救世主
眉ひとつ動かさず不敵な笑みを浮かべた月読命は、片手一本でデスブレイカーを受け流そうとしている。
「魔族ごときが……」
振り上げたデスブレイカーを放とうとしたその時、何処から聞き覚えのある声達が心に語りかけてきた。
「テイマーよ。今の貴様の力だけでは心許ない……。黄泉から我輩の力を送ろう」
「その声は酒呑童子!」
まるで時が止まったような感覚――実際に止まっているようだ。それと同時に酒呑童子の妖気が体内に流れ込み、強靭な肉体に変化した。
オレの攻撃力が1000上がった。
「お兄ちゃん! 負けちゃダメだよ。お姉ちゃんを守ってあげて!」
「その声は真琴!」
真琴の我慢強い心……そして、誰よりも優しい心がオレに備わった。
オレのMPが500上がった。
「おい! タクマ! 俺様の力も送るから、こんなくだらねぇ戦いに終止符を打ってくれ!」
「その声は甘寧!」
甘寧の持っている正義の心……仲間を思いやる心がオレに宿った。
オレのHPが2000上がった。
「タクマ、抜け駆けなんてさせないぞ! 俺にも出来ることをやらせてくれよな!」
「凌統まで……」
凌統の持っている機敏な動き、そして、仲間を尊敬する心が備わった。
オレの素早さが200上がった。
「助太刀いたすぞ。この弁慶……恩義は忘れない」
「弁慶……」
弁慶の人並み外れた力がオレに備わった。
オレの攻撃力が1000上がった。
「タクマ殿……そなたと出会えたこと感謝致します。どうか、ご無事で!」
「義経……礼を言うのはこっちの方だ」
義経の持つテクニック……そして、正義の心がオレに備わった。
オレの攻撃力とHPが500上がった。
「タクマさん……私……ん~ん、何でもないわ。生きて……生きて帰ってきて!」
「川姫……心配するな。オレは必ず……」
川姫の尊い命を大事にする心がオレに備わった。
オレのスキル能力が上昇した。
「みんな……みんなありがとう」
何故だろうか。魔王の時には感じなかった感謝の心――まるで完全に人間になったような気分だ。
いや、魔族と人間を融合したような……それとも違うノスタルジックな気分……。
「はっ……涙?」
頬を伝う一筋の涙……感情をコントロールすることさえ出来ていない。
「人間にも魔王にもなれていないのか」
「タクマよ。そうではない。お主は本当の意味で救世主になれたのじゃ。さぁ、行け! 悪しき神を倒し、この世界を救うのじゃ!」
「じいさん……言われなくったってそのつもりだ」
再び時が動き出す――。
お雪は実体を把握出来ない程に、限りなく透明に満たされていく。
「待ってろお雪! 二度もお前を死なせはしない!」
デスブレイカーは“闇”と“聖”の属性を纏い、激しく光りがその一点を導くかのように瞬いた。
「ふぉふぉふぉ。神への冒涜か?」
「お前のような神などこの世にいらないんだよ!」
目まぐるしく変わる背景の中で、デスブレイカーは全てを裁くかのように月読命の体を切り刻んだ。
月読命に7999のダメージを与え、MPを全て消費した。――HP1/10000――
「ク、クソ……倒し切れなかったか。死に損ないが!」
「お、己れ……こうなったら、自爆して貴様らもろとも粉々にしてやる! うっ……うっう」
「死ぬのは貴様の方だ!」
鬼骨王は、自爆しようとした月読命の首根っこを掴みあげ、鳩尾を貫く程に強烈な一撃でとどめを刺した。
「うがぁぁぁぁ……」
何とも悲痛な断末魔――煙のように消え行く過程で、天照大神とスサノオに分裂した月読命。
天照大神が悲しげな目を見せる。それは見慣れた顔……卑弥呼だった。
「卑弥呼……どうして?」
オレの問いに卑弥呼はか細い声で、“ごめんなさい”と呟き消えていった。
「終わったな。ダグーマよ」
「あぁ……最後は助けられたようだな」
「助けただと? 寝言を言うな。これからはまた敵同士……と、言いたい所だが、暫し休戦だ。さらば、友よ!」
鬼骨王は意味深な言葉を残しながら、この亜空間から離脱していった。
「ふん、鬼骨王。お前こそオレの好敵手だ。さて……お雪、オレ達も黄泉に戻ろう」
「タクマ……」
そこにはもはや魂と化したお雪がいた。
「お雪……何故だ! 奴は倒したのだぞ! じいさん、どうなってんだ?」
「恐らく“永遠の呪い”。愛する者と結ばれなければ、お雪は消えてしまうだろう……タクマよ、わかっているのじゃろう? お雪を取るのか? それとも、川姫を取るのか?」
事態は収まったかのようにみえた。しかし、最後に突き付けられた究極の選択。
オレの出した答えは……
お雪を取るなら、お雪へ
川姫を取るなら、川姫へ
最後の選択肢を選んでください。




