第百三十話 幕開け
「ダグーマ、力を貸すのだ」
鬼骨王がぽっかりと空いた天井に祈りを捧げると、オレにも祈りを捧げるように要求してきた。
「やむを得ん……」
体内に宿る三種の神器が、弾むように共鳴する。オレは持てるだけの魔力を、鬼骨王の祈りを捧げる空間へと重ねた。
すると何もない筈の空間に歪みが生じ、黄金の扉が現れた。
「ふぅ……成功だ。ダグーマ……この先の亜空間へと旅立ったら、黄泉に戻って来れる保証はない」
「そんなことでオレが怖じ気付くとでも? 答えは一つ……オレ達を弄んだ奴ら、悪しき神を滅ぼすまで。その後でお前も倒してやるぜ!」
「戯れ言を……行くぞ!」
鬼骨王……そして、オレとお雪も亜空間へと飛び込んで行った。
◇◇◇◇◇◇
亜空間――紫色に捻れた空間が何処までも続くだけで、他には何もない。どうやら、酸素だけはあるようだが。
いや、オレ達を歓迎しているのか、二体の豪傑が目の前に突如現れた。
「待っていたぜ!」
そう言い放つのは、以前黄泉の最果てで世話になった慶次だった。その後方には、不敵な笑みを浮かべた呂布が腕組をしている。
しかし、何処か様子がおかしい――体が透けて見えるというか、今にも存在が消えそうな程、心許ないものになっている。
「お前ら……どうしてここに? それにその体……」
オレがそう問い質すと、呂布が静かに口を開いた。
「どうやら私達は用済みのようらしい……見ての通り存在自体消えようとしている。前にも言ったが、私達は天照大神とスサノオに呼び出された死人……」
「だったら、今度こそ勾玉で……」
「無駄だ……運命には逆らえぬ。それより、最後の頼みを聞いてくれないか?」
神妙な面持ちの呂布――これから言い放たれる言葉はきっといいものではないと安易に予想できる。それに、消えかけた肉体を見る限り、そう残された時間はなさそうだ。
「わかった……言ってみろ」
「そう言ってくれると思っていた。私達を吸収……つまり、融合しろ!」
「融合だと?」
それはつまり、他の妖怪達と同じように同化しろということ。体内では息づいていられるが、肉体は滅びる。天照大神とスサノオは、それほどまでに強者なのだろう。
「時間がない……さぁ!」
躊躇いはある――都合よく使われた慶次と呂布。オレと鬼骨王も同類。その悔しさは、十分と言っていい程伝わってくる。
「タクマ……」
強烈な冷気を振り撒きながら、お雪が不安そうな表情を浮かべる。オレは悴む手を気にせずに、お雪の頭を無言で撫でた。
「ダグーマ。雑魚と融合しても何の足しにもならないが、ないよりはマシ……」
「鬼骨王よ、口を慎め! コイツらの悔しさ……お前には何故わからん?」
「……言い過ぎた」
鬼骨王も悪気があって言ったワケじゃない。自らの不安を打ち消す為に、強気の態度に出たのだろう。
一歩前に出る慶次と呂布――。慶次は鬼骨王の前に、呂布はオレの前に立ち静かに目を閉じた。
「どんなことがあっても歌舞伎通してくれぃ!」
鬼骨王に吸収される慶次――最後にいい残した言葉は、何よりも深く、何よりも力強いものだった。
そして、真っ直ぐな瞳を見せる呂布。
「死ぬなよ……」
たった一言をいい残す呂布――その優しさは、海よりも穏やかで心地好い。
そして、ここに二人の豪傑を失った――いや、死んではいない。共に戦う同士として生まれ変わったのだ。
「素晴らしい……」
呼吸を整えると、全身を流れる血潮のように溢れてくる力――まさに究極を越えたその先――限界突破。
「ダグーマ……感じるか?」
「あぁ……とてつもない力が備わったと同時にな……」
融合するまでは感じなかった、天照大神とスサノオの妖気。それは昏倒する程に容赦なく押し寄せる。
「ようやく来たようだな。さぁ、思う存分楽しんでいってくれ!」
捻れた空間から再び姿を現したスサノオ。
「退屈しのぎになれば良いのじゃが」
オレ達の後方からは、天照大神が姿を現した。
「お前ら……神だか何だか知らないが、ここに屍を晒せ!」
今までの力の比ではない。奴らも強いのはわかるが、オレと鬼骨王も劇的にパワーアップしたのだ。
「威勢がいい……。その力、慶次と呂布が裏切ったか? 面白い。天照! こっちも本気を出してあげよう」
「しかし、スサノオ。簡単に死なれては楽しみが減るぞよ」
「楽しみが減るだと? そういうつまらんジョークは、オレ達を倒してからにするんだな」
オレが鞘からデスブレイカーを引き抜くと、天照大神とスサノオは空高く跳躍した。そして、点と点を結ぶように交わると眩いばかりの光を放った。
あまりの眩しさに瞼を閉じると、そこには融合した新たな敵が立っていた。
「こ、これは?」
「この姿になるのは久方ぶりだな……我の名は月読命。さて、魔王ダグーマ、そして、鬼骨王よ。遠慮なく掛かってくるがいい……」
小柄ではあるが、八尺程の大剣を両手に携え紫色に彩られた異国の着物を羽織っている。
そして絹のような長い髪が邪魔してはっきりと顔はわからないが、何処かで見たことがあるような……。そんなものは問題ではない。倒せばわかること。
「鬼骨王よ、行くぞ!」
「ふん……我に指図するな」
オレと鬼骨王は魔界と黄泉の全てを賭け、今、最後の戦いに乗り出した。




