第百二十九話 真実
鬼骨王の妖気が最高潮に高まり、空間にとてつもない振動が伝わった。
「死ね――っ! 死ね――っ! 全てを……全てを無き者にしてやるわ!」
まさに鬼の形相――今となっては後の祭りだが、もっと早く手を打つべきだった。
蒼白い炎が鬼骨王の両手に絡み付き、俺達を見下ろす。
「何か手立てはないの?」
不安を隠せない真琴が、憂いの言葉を口にする。それに相応しい言葉など見付からない。
「オレが……オレが皆の盾になる。皆はここから逃げるんだ!」
「そんな……そんなことしたらお兄ちゃん死んじゃうよ……」
「心配するな。オレは死なない……」
「でも……」
「早く行け――っ! 皆も早く! これはオレの命令だ!」
大切な仲間――命令などという言葉は使いたくなかった。仲間同志――テイマーであろうと、上下関係はない。それがオレの考え方だ。
「真琴殿……タクマ殿もこう言ってます。信じてやるのです!」
「義経さん……」
「然らば……御免!」
「うっ!」
義経は駄々をこねる真琴の鳩尾に、強烈な拳をお見舞いした。
真琴はぐったりと肩を落とし、義経にもたれ掛かった。
「義経よ、済まない……」
「いえ。タクマ殿……ご武運を」
義経は真琴を担ぎ上げ、甘寧達もオレの言い分を聞き入れた。
「時間がない! 早く!」
皆を守るように両手をいっぱいに広げ、地獄の灯火に備える。これに耐えれるかで、戦況は大きく変わる。
「ザコ共がぁぁぁ! 誰が逃がすと言った!」
全員の脱出が終わる前に、技を繰り出そうとする鬼骨王――ギロリとオレを睨み付けると、両手に育った蒼白い火の玉が膨れ上がった。
「クソ……」
間に合うかもわからない状況で、その技へと飛び込もうとしたその時――
オレよりに先にそこへ飛び込む巨体があった。
――酒呑童子だ。
「酒呑童子! お前何を! お前も脱出するのだ!」
「テイマー……我輩、テイマーと出会えたことを誇りに思う」
「やめろ――っ! そんなことをしたら……」
しかし、時すでに遅く、とてつもない爆風と共に辺り一面は閃光と砂埃で視界は遮られた。
「うぐっ……」
瓦礫の破片がオレの体に突き刺さる……だが、そんな痛みより、酒呑童子の生存確認の方が先だ。
「酒呑童子――っ! 生きていたら返事をしろ!」
徐々に視界が開け、朽ち果てた王座の横たわる二体の巨体を捉えることが出来た。
どちらも血だらけで、無惨な姿を晒している。生きているかと言えば疑問だが、それでも希望は捨てない。
オレは恐る恐る酒呑童子に近付く。微かに漏れる息――だが、もはや虫の息――
「酒呑童子?」
「テ、テイマー……我輩……鬼骨王は?」
「何も言うな。今、オレが確かめてやる」
辛うじて生きていた酒呑童子――こうなると、鬼骨王も生きている可能性が高い。
目の前にうつ伏せになっている鬼骨王――ピクリとも動かない。
「やった……のか?」
思わず口角をあげると、ずしりと重い拳が吹き飛ばされた王座のあった床を叩き付けた。
「許せん……我をここまで追い込むとは」
「やはり生きていたか? 鬼骨王よ! 立て! サシで勝負してやるぜ!」
「笑止!」
立ち上がろうとする鬼骨王――その背後から異国の着物を纏った美しい女と、焦げ茶色の腰巻きを纏った強面の男が不敵な笑みを浮かべながら、破壊された天井から舞い降りてきた。
「術がこんなに早く解けるとは。つまらぬ……鬼骨王! いつまで茶番をしているのじゃ!」
「ぐはっ!」
異国の着物を纏った女は、そう言いながら鬼骨王を蹴りあげる。涼しい顔をして、相当な破壊力だ。
すると、今度は強面の男が前に出た。
「だな……もういい。お前ら全員死ね!」
「何なんだお前らは!」
「わらわは、天照大神。そして、この人相の悪いのがスサノオ。そなたらにはもう飽きた。ゲームは終わりじゃ」
「ゲーム?」
「そう、ゲームじゃ。退屈しのぎにそなたらを争わせたまでじゃ。呂布と慶次から、わらわ達のことは聞いておるのじゃろう?」
天照大神……そして、スサノオ。確かに聞いたことがある。確か、呂布や慶次を黄泉の最果てに呼びつけた……。
「天照、どうせ死ぬ奴らにこんなこと言っても無駄だぜ!」
「そうじゃな。早急に亜空間に戻って、黄泉と魔界を破壊する準備に取り掛かるのじゃ」
天照大神とスサノオは、そう言い残すと破壊されて天井から空へと消えていった。
「何ということだ。オレ達は弄ばれていたのか……」
「ダ、ダグーマ……。我と手を組め……」
「何だと? 正気か?」
「我も貴様と手を組むなど虫酸が走る。だが、奴らの強さは計り知れない……我でさえ、術に惑わされていたのだから……」
確かにコイツと組めば、何とかなるかもしれない。だが、今まで争ってきた鬼骨王と……。
「早くしろ! 迷っている暇はない!」
「しかし……」
「タクマ! やるしかないわよ!」
二人の会話に割り込む聞き慣れた声――
「お雪! 何故、戻ってきた?」
「鬼骨王に掛かっていた術が解けて、私の力が戻ったのよ。しかも、何倍にもなってね」
「ダグーマ……早くしろ。かはっ」
血ヘドを吐きながら懸命に訴えかける鬼骨王――
「そんな体で何が出来る?」
「タクマ、大丈夫。皆を回復してあげるわ」
コイツを回復させるのは心苦しい――しかし、他に方法はない。
「お雪……回復を頼む」
「任せて!」
お雪が強く念じると、オレと鬼骨王……そして、酒呑童子の傷が回復した。
「テイマー、我輩はここで待つ。どうやら我輩では役不足のようだしな」
「酒呑童子よ、お前には散々助けられた。ゆっくり休んでいろ」
「御意」
「さぁ、鬼骨王よ。亜空間とやらに案内しろ! 知ってるんだろ?」
「無論……ついてくるがよい」
「私も行くからね。回復役も必要でしょ?」
天照大神とスサノオが向かった亜空間――そこで全てが終わる。
黄泉の王……鬼骨王。力を取り戻したお雪。そして、魔界の王であるこのオレは、諸悪の根元である天照大神とスサノオを追って亜空間へと向かった。




