第百二十三話 いざ、鬼骨城へ
オレの体内に息づく三種の神器――。
それだけではない。自らの命を張った栄螺鬼の魂までもが、宿っている。
無論、その命も無駄には出来ないということだ。
「タクマ……これが本当のアンタの姿なのね……」
お雪がうっとりとした目でオレを見る。思えば散々遠回りしたが、やっとこの時を迎えたのだ。
「お雪……オレは必ず鬼骨王を倒してやるぜ。そして、お前の力も取り戻してやる」
お雪にそう返すと、慶次と呂布がオレの前に立ち塞がった。
「見事! 全ての究極進化を遂げたようだな。その力、本物か私の方天画戟を受けてみよ」
「同じくこの慶次の、大剣も受けてみろ! 漢なら、タクマ……お前一人で歌舞いてみな!」
呂布の構える方天画戟は一段と怪しく光り、慶次の持つ大剣は鋭さを増した。
「本気でいいんだな?」
どうやらこの二人は、オレの真の力を見極めないと納得がいかないようだ。
どのみちこの二人とは手合わせしたいと思っていた所だ。それにオレが力を振るったとして、コイツらは死人――死ぬことはない。
「舐められたもんだな。こいつは楽しみだぜ!」
呂布より先に襲い掛かってくる慶次――栄螺鬼との一戦では目を疑うくらいのスピードだったが、今は止まってさえ見える。
オレは迫りくる慶次に狙いを定め、デスブレイカーの鞘に手を掛けた。
「慶次! 出過ぎだぞ! 自重しろ!」
「何っ!」
さすが呂布――瞬時にオレの力を見抜きやがった。だが、既に遅い。
「抜刀術……」
「ぐはっ……」
慶次を捉えたデスブレイカーの威力は、草薙の剣の何倍もあるのだろう。
死人である慶次でさえ一瞬息が止まり、大地に跪いた。
「こ、これが究極進化……」
慶次はそう言うと大剣を放り投げ、大地に胡座をかいた。
「もう終わりか?」
「あぁ、今のタクマには勝てねぇ。なぁ、呂布?」
「そのようだ。しかと、その究極進化見届けたり。タクマ、お雪よ……鬼骨城は、この先の妖怪魔境にある。私の赤兎馬をやろう」
呂布はそう言うと口笛を鳴らすと、何処から気性の荒い馬が飛んできた。
「赤兎馬は稀代の名馬。一日に千里を駆ける実力を持っている。だが、乗り手を選ぶがな……」
ある意味、オレは呂布に試されている。この赤兎馬を自由に乗りこなすことが出来なければ、その器がない――そう言っているようにも思えた。
「赤兎馬……今日からオレが主だ!」
蹄で大地を蹴り上げ、激しい鼻息を晒す。気性の荒さは留まることを知らない。
オレは赤兎馬に臆せず、黒く靡く鬣に触れ、首筋に右手で愛撫した。
「ヒィィヒン!」
両前脚を宙に浮かせ、威嚇する赤兎馬――だが、オレは妖怪をテイムする時の要領で接した。
すると赤兎馬は漆黒の鎧に鼻先を擦り、まるで赤子のように大人しくなった。
「タクマ、どうやら赤兎馬はお前を主と認めたようだな」
呂布は安堵の表情を浮かべると、口角を上げた。
その横では、お雪も慶次から馬を譲り受けていた。
「こいつは凄ぇ! 松風もお雪に懐きやがったぜ!」
お雪が慶次から譲り受けた松風――この馬も赤兎馬と引けをとらない風貌。これ程の体格を持った葦毛など見たことがない。
「慶次、呂布よ。すまない……世話になったな。戦いが終わったら……いや、何でもない」
オレは戦いが終わったら、死人から開放できる術を考えようと言い掛けたが、呂布の言葉を思い出し言うのを止めた。
「お雪よ、そろそろ行くぞ!」
「えぇ」
華やかな飾り付けをされた鞍に股がり、鐙に爪先を通す。
手綱の手応えを感じると、赤兎馬に拍車を掛けた。
あっという間に遠ざかる黄泉の最果ての祠――慶次と呂布は、オレ達が去っていくのをいつまでも見守っていた。
◇◇◇◇◇◇
一日中、赤兎馬と松風を走らせると、薄汚い亡者共が群れをなし襲ってきた。しかし、こんな雑魚を相手に構ってる暇はない。
オレはデスブレイカーを片手に、迫りくる亡者を一掃していく――手応えは十分過ぎる程。
騎乗したままでも、楽勝で渡り合えた。この頃になると、赤兎馬とも意思の疎通が確かなものになり、もはや一心同体とも言えるまでになっていた。
「タクマ、見て! 鬼骨城よ!」
オレより何倍も視力のいいお雪は、いち早く黄泉に佇む鬼骨城を目にした。
色濃く霧掛かった禍々しい風貌――正しくそれは、オレ達が目指すべき鬼骨城だった。
「お雪……これで最後になるだろう。笑ってここを突破したいものだな」
「当たり前よ」
笑って突破したい――それは必ず生きて帰るという意味も含めていた。
「さぁ、行こうか……」
赤兎馬から下馬し首筋に愛撫すると、鬼骨城の表門を蹴破った。




