第百二十二話 再臨
呂布は、俯きながら一点に魔方陣を見つめながら言った。
「タクマ殿……残すは栄螺鬼の究極進化のみ。だが、敢えて言おう。止めておけ……理由は聞かないでもらいたい」
これまで真琴と酒呑童子の究極進化に成功してきた。
それぞれ進化の過程は異なるが、試練が与えられていたのは言うまでもない。つまり、栄螺鬼の究極進化は、これまでより過酷な試練が待っているということだろう。
ここまで来て、屈するなんてオレには出来ない……ならば答えは一つ――
「呂布よ、悪いがここは譲れない……。オレはコイツらを究極進化し、鬼骨王を倒さなきゃならないんだ」
「ふっ……そういうと思ったぞ。ならば、三種の神器を再び手に取り魔方陣に立つがいい」
呂布が指差す先には、光輝く三種の神器。それは一段と目映い光を放っていた。
呂布に言われた通りに、三種の神器を携えると慶次がオレの肩に手を乗せながら言った。
「後悔するなよ」
歩き出すオレに慶次が注意を促す。その目は笑ってはいなかった。
これまでより妖しさを増す魔方陣――それを肌で感じとりながら両足を揃えた。
またしても凄まじい引力。何度体験してもあまり気分のいいものではなかった。
◇◇◇◇◇◇
転送された先――そこで瞼を開けると、オレが過ちを犯したあの場所へと来ていた。つまり……そう、ここは鬼骨城――
ひんやりとした空間に敷き詰められた大理石。足元を照らす僅かな燭台の明かりを頼りに歩き出すと、そこには錆び付いた扉が現れた。
「これは何を意味しているのだ?」
あの日の過ちを打ち砕けるのならば、今すぐにでも――いや、残念ながら今のオレにはそんな力は持ち合わせていない。ならば?
この扉を開ければ、自ずと答えが出るであろう。
両手を扉に押し当て開くと、予想通り謁見の間の王座に、鬼骨王は不敵な笑みを浮かべながら鎮座していた。
「来たか……」
まるでオレが来ることを予想していたかのような口振り――
「鬼骨王よ、貴様とここで雌雄を決したいところだが、見ての通り戦える術はない」
「愉快だ……。魔王が人間に転生するとは」
「笑いたければ笑うがいい。力は失ったが、それよりも大事なものをオレは手に入れた」
「大事なものだと? 笑わせるな! 非力な人間になった貴様に何が出来るというのだ? 心配するな。黄泉も……そして、魔界も我の物にしてやるわ!」
鬼骨王はそう怒号を上げると、あの時と同じように懐から雲外鏡を取り出し、オレに向けた。
「くっ……」
禍々しい妖気――あれに吸い込まれたら、これまでの苦労が水の泡だ。
「死ね……死ね――っ!」
更に妖気は高まる――。踏ん張る足元さえ、大理石の床から離れそうだ。
「主……そなたと出会えたこと誇りに思う」
オレの懐の中で、永遠の別れを予感させるような栄螺鬼の発言――
「何を馬鹿なことを言っている? 貴様は大事な仲間だ!」
「その言葉しかと受け止めた……」
「何をする? やめろ……やめろ――っ!」
栄螺鬼はオレの意志を確認せずに自ら具現化すると、雲外鏡に飛び込んだ。
それだけではない――鏡の内部から表面を叩き割り、雲外鏡を撃破したのだ。
「栄螺鬼……栄螺鬼――っ!」
残された栄螺鬼の鱗。仄かに生暖かくオレの手のひらにそれは落ちた。
「うぐぅぅ……雲外鏡を撃破するとは。まぁ、良い。あんなものなくても、黄泉も魔界も我の手に堕ちるのは時間の問題……。さぁ、どうする? 魔王ダグーマ……いや、非力な人間よ」
「許さん……許さん……!」
握り締めた栄螺鬼の鱗――熱い血潮を感じると、三種の神器がオレの周りわを回り始めた。
やがてそれは一つの塊となり、オレの肉体へと吸収されていった。
――懐かしくもあり、心地好い感触。
そっと広げた指先は強固な爪が生え揃い、人間とはかけ離れた紫色に染まっていった。
「こ、これは?」
間違いない――オレは再び魔王へと転生したのだ。ただ一つ違うのは、気持ちだけは“人間の優しさ”が失われていないということだ。
そう理解すると、愛用していたデスブレイカーが手元に戻り、漆黒の鎧を身に纏っていた。
「これはどいうことだ?」
慌てふためく鬼骨王――その姿を確認すると、オレは黄泉の最果てにある魔方陣へと戻って来ていた。
「タクマ……お前?」
オレの変わり果てた姿を見て言葉を失う慶次。お雪と呂布も同様だ。
「オレは力を取り戻したようだ。栄螺鬼の命と引き換えにな」
オレ自体の究極進化――これでオレも戦える。
積年の恨みを晴らすべく、オレはデスブレイカーを天に掲げた。
目指すは鬼骨王の居る鬼骨城――




