第百十七話 決戦への礎
甘寧が問う中、心配そうに川姫達もオレの顔を覗き込む。もはや、逃げ場はない……言うべき時が来たのだ。
「タクマよ、皆を信じありのまま言うのじゃ」
「じいさん……わかった。皆、聞いてくれ。信じられないかもしれないが、オレは…………」
「待って、タクマ! 言いたくない過去なら無理に言わなくてもいいのよ」
声を絞り出すオレに、お雪が待ったを掛ける。しかし、今話さなくてはこの先に進めない――。
「お雪……気持ちはありがたいが、話させてくれ。オレは……元々魔王だった。そう、この黄泉を我が物にしようと企んでいた魔王ダグーマだったんだ」
「タクマさん、それは本当なの?」
「あぁ、じいさんや酒呑童子達はそれを知っている……」
オレは川姫の言葉に胸が痛くなり、一度天を仰いでから更に続けた。
「オレは鬼骨王の策略に嵌められ、一度は死んだ……。だが、こうして人間として転生したんだ」
「タクマ! てことはよ……鬼骨王を倒したらこの黄泉を乗っ取るつもりなのか?」
甘寧は息を上げながら、右手を青龍刀に伸ばす。
甘寧の気持ちもわからないでもない。オレが“魔王”ならば、鬼骨王となんら変わらない敵なのだから。
「甘寧……初めはそのつもりだった。だが、今は違う。多くの仲間と触れ合い、己の愚かさを知った……。信じてもらえないなら、この場でオレを斬れ!」
オレは思いの丈を述べると、その場に胡座をかき瞳を閉じた。ここで甘寧に斬られるなら本望だ。
にじり寄る甘寧――鈴の音だけが周囲に溢れる。
「やめて――っ! お兄ちゃんを斬らないで!」
真琴の声――どうやらお雪のお陰で、回復したらしい。
これまで真琴とも、色々な困難を乗り越えて来た。三種の神器を手に入れ、志し半ばで果てるのは切ないが、これも運命――。覚悟は出来ている。
「タクマ――っ!」
更に激しく鳴り響く鈴の音、オレは精一杯胸を張り唇を噛んだ。
「お前は俺様達の仲間だ! これからも皆の面倒を見てくれ!」
目を開けると、そこに差し出された傷だらけの手――それは温かく優しいものだった。
「甘寧……オレを信じてくれるのか?」
「仲間を信じられなくなったら終わりだっつぅの! なぁ、皆!」
甘寧の言葉に同調する仲間達――オレは改めて仲間の大切さを知った。
「ありがとう……ありがとう……」
今まで胸に支えていた痼……それはオレが思っていたほど大したものではなかった。
「さぁ、妖魔達を生き返らせよう。勿論、一本だたらもな」
オレが勾玉に祈りを捧げると、死んでいった妖魔達と一本だたらは息を吹き返した。
だが、このままでは狂戦士になってしまう。魂の定着が必要なのだ。
「じいさん、皆の魂を定着させる為に妖怪温泉に赴きたい」
「タクマ……じゃが、究極進化の方も進めんといかんのじゃぞ。温泉に浸かってる暇はない」
「妖怪大翁のじいさん、その役……俺様達に任せてくれないか? 今回の戦いでわかったんだ。俺様達ももっと力をつけないとダメだってな。修行がてら妖怪温泉に行きたい。それに一本だたらに青龍刀を叩き上げてもらいたいしな」
「ふむ、タクマよ。ここは甘寧に任せるのじゃ」
「甘寧……お願い出来るか?」
「愚問だな。なぁ、凌統?」
「そういうことだ。決戦の時までには駆け付ける。タクマも、妖怪達の究極進化ってのを成し遂げてくれよ」
「わかった……。頼んだぞ!」
オレの返事を聞き届けると、甘寧達一行は妖怪温泉へと出発していった。
静まり返る魔合肥に残されたのは、お雪と川姫……それに妖怪達。
「さて、タクマよ。三種の神器を手に入れたとて簡単に妖怪達を究極進化できるワケではない。黄泉の最果てにある祠に捧げなくてはならないのじゃ」
「成る程……一筋縄ではいかないってことか。よし、早速出発するぞ!」
オレがそう呼び掛けるも、川姫だけは浮かない顔を見せた。
「タクマさん……私は一緒に行けないわ。私ももっと強くなりたい……邪馬台国に戻って修行をしたいの」
川姫なりに出した答え……それは甘寧達と同じものだった。
「わかった……必ず強くなると誓ってくれ」
「約束するわ」
川姫はそう言うと、玄武池に向かって歩き出した。
「タクマよ、皆鬼骨王の恐ろしさを感じておるのじゃ。それにお主に負けたくないという気持ちもな」
「戯れ言を……」
正直、複雑だった。馴れ合いでここまで来たワケではないが、何処か遠くに行ってしまうような感覚――。
「タクマ……皆行っちゃったね。私達も行こう」
オレを気遣ってか、お雪は冷たい指先で手を差し出した。
「あぁ……」
久し振りに二人きりになると、何処かよそよそしくなる。オレはその感情を振り払うべく、その手を握り返した。
究極進化とはいかなるものか……そして、鬼骨王を倒すことが出来るのか……様々な思いを胸に、オレは黄泉の最果てへと歩き出した。




