第百十八話 二人の豪傑
黄泉の最果て――妖怪大翁の話だと、魔合肥からそう遠くない距離にあるらしい。
「究極進化って凄いのかな……」
お雪は旅路の途中、思わず心情を吐露した。
「じいさん、どうなんだ? 究極進化……」
「残念ながら、ワシにもよくわからん。ただ……」
妖怪大翁はそこまで言いかけて、言葉を紡ぐのをやめた。
言いたいことはわかる。ガシャドクロが、あれほどの力を備えていたのだ。鬼骨王の実力はそれ以上。オレが魔王だった時より、遥かに強くなっているのには間違いない。
無論、究極進化を成し遂げても、鬼骨王に敵うかどうかなんてわからないということだ。
「だろうな……」
オレが言葉少なにそう返すと、妖怪大翁は目を丸くしながら、不思議そうな顔をした。
「なんじゃ、タクマ。ワシを老い耄れと責めんのか?」
「じいさんを責めても仕方ない。それに勝利が補償された戦いなんてつまらないからな」
これは自分を鼓舞する為の台詞でもあった。今更、妖怪大翁を責めるつもりなど毛頭ない。
オレの胸の内を聞いて安心したのか、お雪も妖怪大翁もそれ以上話すことはなかった。
◇◇◇◇◇◇
どれだけ無言で歩いただろうか? 景色は一転し、黄泉の雰囲気とは明らかに違う草原へと出た。
その先には小さいながらも、その場で存在を主張する西洋風の立派な祠が肉眼で捉えられた。
「じいさん、あれだな? 祠ってのは」
「うむ。あれこそが黄泉の最果ての祠……究極進化の儀式を行う神聖な場所じゃ」
気持ちは逸り、心なしか足取りは軽く感じる。
しかし、歩けど歩けど蜃気楼のようにオレと祠との距離は、一向に縮まらなかった。
「くそ……どうなってんだよ」
まるで無限地獄――体力だけが奪われていった。
「もしや……タクマよ、“鏡”を翳してみい」
「鏡だと?」
「いいから、言われた通りにするんじゃ!」
妖怪大翁の気迫に圧倒され、オレはしぶしぶと鏡を祠へ向け翳した。
すると、どうだろうか。今まで草原かと思われた辺り一帯は、白骨化した亡骸で埋め尽くされ、腐敗臭が立ち込めてきた。
「やはりな……これは幻覚を見せる結界じゃ。何か良くないことが起きねばよいが……」
「そうもいかないようだぜ、じいさん」
西洋風に思われた立派な祠は粗末な祭壇に変化し、その前には厳つい大男が二人立っていた。
「よう、よう。お前がタクマだな? 結界を打ち破ったってことは“鏡”を手に入れたんだな?」
頭を坊主に丸め上げ、派手な紫色の袈裟を纏った一人の大男が、大剣を舐め上げながら言う。
「何故、貴様はオレを知ってるんだ。名を名乗れ!」
「冷てぇ、こと言うなよ。俺は天下無双の歌舞伎者、前田慶次その人よ」
「慶次、その辺にしておけ!」
「お、おう。悪い奉先。つい、熱くなっちまって」
この慶次という大男を、一瞬で黙らせる威圧――慶次とは対照的に、黒を基調とした黄金に煌めく鎧を纏っている。どうやら、こいつも只者ではない。
「客人よ、慶次が失礼した。私は呂布……字は奉先。ある者に頼まれ、我々はタクマ殿達を待っていた。望みは究極進化なのであろう?」
「どうしてそれを?」
「それを知りたかったら、俺達と戦えっていうんだよ」
またしても慶次が水を差す。それを見た呂布は慶次をキッと睨んだ。
「わ、わかったよ……奉先。そう、怒るなよ」
「さぁ、タクマ殿。慶次も言った筈だ。理由を知りたかったら、剣を取れ!」
「話が見えてこないが、売られた喧嘩は買ってやるぜ!」
「いい度胸だ。慶次よ、相手になってやれ!」
「おうよ。さて、タクマ。これはただの喧嘩じゃない……。わかるな?」
険しい表情の中にも、何処か温かみのある言葉……オレは慶次と呂布に悪意はないと感じた。
「あぁ、わかった……」
オレは慶次に戦いを挑むべく、真琴、栄螺鬼、そして、酒呑童子を具現化した。
「ほぅ……強そうだねぇ? こいつぁ、楽しめそうだ」
慶次は品定めでもするかのように、三体の妖怪を舐めるように見入った。




