第百十五話 崩壊
魔合肥は未だ暗黒に包まれているが、もうじき夜明け。
一進一退を続けたこの戦いも、終止符を打たれようとしている。
「酒呑童子よ、奴はもはや立っているのもやっとの筈だ。だが、油断はするな。奴とて鬼骨王の右腕……。何か奥の手を持っているかもしれない」
「テイマーよ、案ずるな。ここまで追い詰めれば勝利は目前。さぁ、采配を」
ガシャドクロは右腕を失い左腕一本だが、不穏な動きがあるかもしれないとオレは踏んでいた。勿論、確証があるわけではない。
オレはそんな不安を抱えながら、酒呑童子への運命を導いた。
出た目は1……。ここで絶対に出してはいけなかった目。ミスだ。
「酒呑童子……すまない」
「狼狽えるな。これも運命……」
運命……その言葉一つで片付けたくはないが、受け止めなくてはならない現実――。
酒呑童子は薙刀を肩に抱え、おずおずと後退した。
「何てシケた面してんだ。そういうこともあるってことだ。俺に任せな!」
凌統はオレの失態を埋めるべく、方天戟をガシャドクロへと向けた。
「もう片方の腕もへし折ってやるぜ!」
素早く空へと駆け上がる様に舞う姿は、刺繍に施された龍のようだ。
「馬鹿め! 貴様のような雑魚にやられるほど落ちぶれてはおらぬわ!」
ガシャドクロは凌統の鋭い攻撃を体を張って受け止めた。左腕をなんとしても死守する為の、自虐的行為。
「くそ……外したか」
方天戟は、ガシャドクロのひび割れた肩甲骨を見事に捉えていたが、凌統としては納得がいかなかったようだ。
それは甘寧に対する劣等感から来るものだった。
凌統は98のダメージを与えた。――HP1093/3000――
「はぁ……はぁ……よくも黄泉でナンバー2の私に恥をかかせてくれたな。このお礼はたっぷりと返してやらんとな……纏めて地獄へ送ってやるわ!」
肉体が崩壊の一途をたどるガシャドクロだが、その妖気は衰えることはない。むしろ、気迫だけなら戦闘前を遥かに上回っている。
漆黒の闇を背景に同色のオーラを放つガシャドクロは、怒りを露にしながらボーン乱舞の構えを見せた。
「待たせたな……屍をさらせ――っ!」
捲れ上がる大地――城壁の石さえその風圧に耐えきれず瓦礫と化す。もはや、オレ達に逃げる暇はない。
栄螺鬼は150のダメージを受けた。――HP288/498――
甘寧は150のダメージを受けた。――HP240/390――
酒天童子は150のダメージを受けた。――HP225/525――
凌統は150のダメージを受けた。――HP80/380――
ガシャドクロはMPを30消費した。――MP60/150――
土煙が轟き、幾多の骨が皆を襲った。未曾有の大惨事……しかし、ガシャドクロの攻撃はこれに留まらない。
「まだ……まだ、生きているか……。ならば、今一度ボーン乱舞を……かはっ」
覚束ない足元で大量に吐血しながら様子を伺うガシャドクロ――それは見るも無惨な姿になっていた。
「ガシャドクロ……止めておけ! そんな無茶をすれば貴様の命はないぞ!」
「フフッ……フハハハッ……。無力な人間になった貴様に心配されるようでは、私もヤキが回ったようだな……。見せてやろう……黄泉に生きる妖怪の生きざまを! 喰らえ、ボーン乱舞!」
ガシャドクロはオレの忠告を無視して、再度ボーン乱舞の体勢に移る。視力を失ったその瞳からは、深紅の涙が溢れていた。
「皆――っ! 逃げるんだ!」
「遅いわ! 全てのMPを開放して殺してやる!」
崩れ行く肉体と共に放たれたボーン乱舞――。それは誰一人逃すことなく的確にそれぞれの肉体を貫いた。
栄螺鬼は200のダメージを受けた。――HP88/498――
甘寧は200のダメージを受けた。――HP40/390――
酒天童子は200のダメージを受けた。――HP25/525――
凌統は200のダメージを受けた。――HP0/380――
ガシャドクロはMPを60消費した。――MP0/150――
「くっ……しぶとい奴めらが……倒したのは雑魚一匹とは……」
溜め息混じりにそう言い放つガシャドクロの前に、傷付き倒れた凌統……いち早く駆け付けたのは甘寧だった。
「りょ、凌統――っ! 目を開けろ!」
甘寧に抱き抱えられながら、虚ろな表情を見せる凌統……。懸命に甘寧が呼び掛けるが返事はない……。
「何ということを……凌統まで」
心の底から湧き出る怒り――。凌統は一度勾玉の恩恵を受けている。つまり……そういうことだ。
「貴様――っ!」
怒号をあげる甘寧……。その声で、オレはこの惨劇をようやく把握した。
「待て、甘寧!」
「でもよ……でもよ――っ!」
「落ち着け!」
「これが落ち着いていられるかよ。凌統が死んだんだぞ!」
「だから落ち着けと言っている!」
一本だたらに続き、凌統まで……。
――怒り……その感情がオレの中に眠った何かを呼び覚まさせようとしていた。
自然と伸びる草薙の剣の鞘――。鞘表を撫でると、かつて義経が放った抜刀術が脳内で再生される。
「これしかない……行けるか、オレ」
自問自答の末、出した答え――それは草薙の剣による円明流……抜刀術。
もはや、迷いはない。死んでいった仲間の為にも――。
「はぁぁぁ――っ!」
疾風の如く空を切り、崩壊を始めたガシャドクロに駆け出した。




