第百十四話 鳴り響く鈴の音
透き通るような孫権の美声はよく通る。それ故に、弓兵部隊の位置をガシャドクロに示してしまったのだ。
「そこだな?」
弓兵部隊に体を向けたガシャドクロは、力を入れた腰を持ち上げ幾つもの骨を連ねる。
「弓兵部隊! 奴の背後が隙だらけだ。退くことはない!」
今まで沈黙を守ってきた孫策が突如声をあげる。それは、弓兵部隊が存在しない真逆の方向に放たれた。
「何? 後ろか?」
孫策の声に錯乱したガシャドクロは、身を捩らせ後方を見上げた。その様子から視力を失っているのは明白だ。
「弓兵部隊! ガシャドクロの足元を狙え!」
孫策に便乗し、オレも明後日の方向に声を出す。
「己れ……ならばボーン乱舞で全てを弾き飛ばしてやるわ――っ!」
「逆効果だったか……」
「孫策よ、そんなことはない。現に見てみろ。弓兵部隊はもう撤退を始めている。つまり、お前の機転を利かせた作戦は無駄ではなかったってことだ」
オレの言葉に安堵の表情を浮かべる孫策――だが、まだ危機を脱出したワケではない。
一瞬にして妖魔達を死に至らしめたボーン乱舞。ここでオレ達が喰らったら、甚大な被害は間逃れない。
「行くぞ、行くぞ! ボーン乱舞!」
「皆――っ! 身を伏せるんだ!」
予想より遥かに早いボーン乱舞の発動。逃げる間もないオレ達は、それを凌ぐために身を伏せた。
「はぁ……はぁ……」
しかし、待てど暮らせど一向に衝撃は訪れない。聞こえるのは息をあげるガシャドクロの吐息だけ。
不審に思ったオレは、恐る恐る両腕に埋めた顎をガシャドクロへと向けた。
するとそこには、無数に骨の刺さった一本だたらがガシャドクロを抱き抱えるように踏ん張っていた。
「一本だたら……お前、どうして……」
「主……皆が助かるなら、この命など安い……かはっ……」
真琴を助けた上に、オレ達まで助けた一本だたら……死に行くその表情は、心なしか満足そうにも見えた。
一本だたらは150のダメージを受け、呼吸を止めた。
ガシャドクロは30のMPを消費するだけで、全体攻撃を不発に終えた。――MP90/150――
「許さん――っ! 何処までも邪魔をしおって!」
「黙れ! この借りは必ず返させてもらうぞ!」
一本だたらは勾玉で生き返らせることができる。その為には、こいつに勝つことが絶対条件だが――
「川姫! 大事な仲間がやられたんだ。容赦はいらない」
「えぇ。私達は絶対に負けないわ! タクマさんがいるしね」
「戯れ言を……」
まさに弔い合戦――今までが本気じゃなかったとは言えないが、体の奥底から熱いものさえ感じる。
一本だたらの敵討ちとしての一歩……川姫の指先からDDが振り落とされた。
出た目は1のクリティカルヒットだ。
「栄螺鬼! 頼んだわよ!」
「御意!」
栄螺鬼としても、仲間が倒されたことに怒りを覚えている。言葉は少ないが、その背中からはただならぬ妖気さえ感じられる。
「貴様の攻撃など、弾き飛ばしてやるわ!」
ガシャドクロはそう虚勢を張るが、その方向に栄螺鬼は居ない……。もはや、その目には光が写っているかさえ疑問だ。
「何処を見ている?」
背後から貫く栄螺鬼の怒濤の一撃。それは肋骨を砕く程に強烈なものだった。
ガシャドクロに155のダメージを与えた。――HP1292/3000――
栄螺鬼は自己修復で、30ポイントHPが回復した。――HP438/498――
「一本だたらの仇――っ!」
栄螺鬼の怒濤の一撃に感化され、甘寧もここぞとばかりに反撃に出る。
「笑止! そこだな?」
ガシャドクロは迫り来る甘寧に鉄壁の構えを見せる。
甘寧の象徴ともいうべき鈴が、仇となってしまったのだ。
「甘寧! 鈴だ。鈴を捨てろ!」
「タクマ、悪いがそれは出来ない。この鈴は俺様と一心同体だからな!」
甘寧はオレの忠告を無視してガシャドクロへと切り込む。
「来るがよい!」
「へっ! 言ってろ!」
甘寧はガシャドクロの挑発には乗らず、軽やかなバックステップを見せたかと思うと右肩関節部分に青龍刀で斬り込んだ。
鮮やかな切り口――斜切りになった右腕は地面にぼとりと落下し、その手から草薙の剣が転げ落ちた。
ガシャドクロに101のダメージを与えた。――HP1191/3000――
「タクマ、今だ! 草薙の剣を!」
甘寧の奴……初めから狙っていやがった――。
「甘寧! 恩に着る!」
オレは甘寧にそう言うと、再び草薙の剣をその手に収めた。
何故だろうか……ほんの少し手から離れただけなのに、懐かしく思える。
「ここからが本当の戦いだ……酒呑童子よ、行くぞ!」
「勿論だ」
酒呑童子も一本だたらへの思いを募らせ、失った角の根元を擦った。




