第百八話 信じればこそ
運命を左右するDDは、オレの思いに堪えるかのように5の灼熱烈破を示した。
「主、我輩に考えがある」
「その主という呼び名はやめてくれ。お前に主と呼ばれると虫唾が走る」
「わかった。今まで通りテイマーと呼ぼう」
「それよりも考えってのは何だ? 言ってみろ」
「少々荒療治になるが、栄螺鬼にも灼熱烈破を浴びせる。我輩の灼熱烈破を持ってすれば、蜘蛛の糸だろうと断ち切れる筈だ。無論、無傷ではいられないがな」
酒呑童子の提案した作戦――確かに栄螺鬼に取っては気の毒だが、窒息死するよりはマシかもしれない。
恐らく酒呑童子の灼熱烈破を喰らったとして、耐えれる体力は残っている筈だ。軋轢しないとも言い切れないが、この手段以外方法はみつからない。
「やむを得ん。お前の好きにしろ!」
「御意!」
オレがそれに同意すると、酒呑童子は薙刀を背中に抱え両手を前に突き出した。
熱を帯びた指先はからは蜃気楼が揺動し、マグマのように煮えたぎる焔を燃やした。
「はぁぁぁぁ――っ!」
地面を轟かす程の力の入った酒呑童子の一撃――それは龍が空を舞うかのように円を描きながら、栄螺鬼と三つ目蜘蛛へと放たれた。
烈火の如く辺り一体を包み込む灼熱烈破は、白濁した糸を灰の欠片も残さず燃やし尽くた。
栄螺鬼は170のダメージを受けた。――HP200/490――
しかし、栄螺鬼の持つ特性――自己修復が発動し、30回復した。――HP230/490――
同じく、三つ目蜘蛛にも170のダメージを与えた。――HP145/485――MP20消費50/70――
「栄螺鬼!」
あまりの破壊力にオレは身を乗り出したが、黒煙が立ち込める中、栄螺鬼は軽度の火傷を負いながらも姿を現した。
「主……そして、酒呑童子。世話を掛けた」
「問題ない……それより、行けるか? 栄螺鬼よ」
「心配ご無用。主の為に戦うのが我が運命。さぁ、ご采配を」
「嬉しいことを言ってくれる……」
オレは三つ目蜘蛛に引導を渡すべく、DDを振り上げた。恐らくこれが、奴に対する止め。
出た目は、2の通常攻撃――完膚なきまでにしてやりたいのは山々だが、贅沢は言ってられない。
栄螺鬼は火傷を負った箇所を気にしながらも、三つ目蜘蛛に挑む。その健気な姿に愛情さえ感じる。
「つぁぁぁ!」
激しい奇声を発する栄螺鬼は、渾身の力を込め三つ目蜘蛛の胸ぐらを掴み上げると、そのまま床に叩き付けた。栄螺鬼らしからぬ、豪快な一撃だ。
三つ目蜘蛛に145のダメージを与えた。――HP0/485――
「はぁ……はぁ……」
肩で息をする栄螺鬼――水にはめっぽう強いが、炎の耐性がない栄螺鬼にとって灼熱烈破は相当堪えたのだろう。
労いの言葉の一つも掛けてやりたい所だが、戦いはまだ終わってはいない。
徐々に煙と化し、その姿を消そうとしている三つ目蜘蛛。
「この、役立たずが!」
ガシャドクロは直ぐ様そこに駆け寄り、半透明になり呼吸をやめた三つ目蜘蛛を足蹴にした。
「やめろ――っ!」
「こんな汚ない死骸、存在してはいけないのだ」
いくら敵とは言え、三つ目蜘蛛は正々堂々と戦った。剰え、従順に主に従ったのだ。それをコイツは、何の躊躇いもなく足蹴にした。
「その汚ない足を退けろ!」
ガシャドクロはオレの忠告を無視し、最後の最後まで三つ目蜘蛛を痛め付けた。
「聞こえなかったか? その汚ない足を退けろと言っている!」
気付けばオレは鞘から草薙の剣を引き抜き、ガシャドクロに襲い掛かっていた。
「甘いわ――っ! 貴様ごときに私は倒せん!」
「ぐぁぁ!」
オレは草薙の剣ごと宙に飛ばされ、ガシャドクロに一太刀どころか近付くことも出来なかった。
「残念だったな。やはり魔王の時ほど力はないようだな。なんて無力……」
「くそ……」
「勘違いも甚だしいな。いいだろう……私が相手になってやる!」
「たとえ無力だとしても、オレには仲間がいる……栄螺鬼、お前は下がれ」
「御意!」
「真琴、行けるか?」
「勿論。任せておいて」
オレが真琴を具現化すると、いち早く妖怪大翁はガシャドクロのステータスを示した。
ガシャドクロ LV40 ランクA 全体攻撃
HP750 MP50
攻撃力120
素早さ100
スキル 『???』『召喚』
――ガシャドクロ……鬼骨王の右腕とも言うべき存在。実質、黄泉のナンバー2とも言える。その証として、一番重要な三種の神器の一つ“鏡”を鬼骨王に託されている。その力は計り知れない――
ステータスを見る限り、大したことはなさそうだ。だが、オレが近付くことさえ出来なかったあの威圧。うちに秘めた何かを持っている筈だ。
スキルに示された『???』がそれを物語っている。
しかも、ナンバー2の割りにランクはA。裏があっても可笑しくない。
オレはガシャドクロに対して猜疑心を持った。




