第百二話 断末魔と共に
バックベアードの不意打ちを喰らい、徐々に石化していく足元は鉛のように重く感じる。
だが、このまま易々と石化する気は毛頭ない。完全に石化するまでに奴を仕留めればいいだけのこと。
「甘寧、念のため聞くが、攻撃に支障はないだろ?」
「当ったり前だ。この俺様が簡単にやられるかっての」
足を引き摺るように一歩踏み出す甘寧――オレでさえ、軽い目眩を覚えるくらいのこの足の重みだ。甘寧が強がっているのは明白。恐らく、狂戦士になったツケを精算するつもりなのであろう。
「バックベアード! 俺様が相手だ!」
「そんな覚束ない足元で何ができる? かはっ……」
バックベアードとしても最後の賭け――。血ヘドを吐きながら虚勢を張る姿は痛々しい。
「叩きのめしてやるぜっ!」
血糊が付着した青龍刀は、もはや本来の輝きはなく、朱を通り越して黒ずんでさえ見える。切れ味は期待できない。
「そんなガラクタでは傷一つ付けられはしない……うぐっ……」
「かもな……」
その瞬間、甘寧は床を蹴り上げ朽ち果てた壁に足を掛けた。そして、青龍刀を突き刺すとその反動で懐へと飛び込む。
「ば、馬鹿な!」
青龍刀は壁に刺さったまま、しなやかに揺れる。一方で、石化の始まった甘寧の右足がバックベアードの肋骨へとヒットした。バックベアードに99のダメージを与えた。――HP149/2100――
「うがぁぁ……」
殴打されたことにより、よろめくバックベアードは臓物を晒した。
「へへっ。石化が始まったこの足は、十分武器になるんだよ!」
石化が始まった足を逆手に取った甘寧の卓越した攻撃――オレは心の奥底に、甘寧の戦士としての誇りを感じた。
「甘寧、お前って奴は……」
「タクマ、案ずるな。これが俺様のやり方だ」
逆境を乗り越えてきたからこそ言える発言。それはハッタリではない。
甘寧の華々しい活躍に感化されたのか、凌統もまた決死の覚悟でバックベアードの足元に飛び込む。
「甘寧だけじゃない! 呉に凌統ありってな!」
凌統は渾身の力を込め、方天戟を頭上から降り下ろした。もはやバックベアードは虫の息……避ける間もなく、方天戟ごと床にめり込んだ。バックベアードに90のダメージを与えた。――HP59/2100――
「はぁ……はぁ……ど、どうだ。俺の実力……」
肩で息をする凌統――後退する頃には、膝下まで石化が進行していた。無論、オレや甘寧達も同じことだ。
「どはっ……はぁ……はぁ……何処までも我を逆撫でする」
あと一撃……あと一撃でいい。凌統の方天戟ごと床に突き刺さったバックベアードは、カウンターにさえ転じれない。まさに勝機――。
と言いたい所だが、攻撃の機会を控えてる栄螺鬼の石化も例外ではない。
「あ、主……は、早くDDを」
全ての願いをこのDDに託す――
「行け――っ!」
ミシミシと音を立てる下半身……この一撃を外したら未来はない――
「お願い……」
固唾を飲んで見守る川姫――。
DDは激しく回転し、4と5の目を行き来している。
4が出ればミス――そうなれば、オレ達はこの地に石化し、やがて風化するだろう。勿論、5の目が出れば栄螺鬼のダイヤの爪がバックベアードに引導を渡す――。
「頼む――っ! 5だ、5が欲しい!」
心臓の搏動がピークに達する。
やがて、DDは力なくその目を示した。
見間違いじゃない――確かに刻んだ5の目――。
「主よ、命を受けた。」
バックベアード――強敵であったが、いい経験をさせてもらった……。
「栄螺鬼! 頼んだぞ!」
「御意……喰らえ、ダイヤの爪!」
栄螺鬼は、石化が進行した下半身を固定したまま上半身を最大限に引き伸ばし、八面体で結晶構成された爪を光らせ喉元をかっ捌いた。
不規則に乱反射するその輝きは、オレ達の勝利を祝福するかのように石化しかけた肉体へと降り注ぐ。
バックベアードに145のダメージを与えた。――HP0/2100――
「崩れる……体が崩れていく――っ!」
バックベアードは悲痛な断末魔をあげると、煙のように消え去った。そして、今までとは比べ物にならないくらいのクリスタルを残していった。
「やった……やったのか?」
それは石化への呪縛が解け、自由になった体が証明してくれている。
「孫権――っ!」
甘寧は青龍刀を回収すると、石化の呪いが解けた孫権達に駆け寄った。
「おぉ、甘寧。無事であったか。私としたことが……」
「何堅苦しいこと言ってんだよ」
孫権――石化した状態ではわからなかったが、その風貌は高貴に満ちて器の大きさを感じる。
「孫権、タクマに感謝しろよ」
遅れて凌統もまた孫権に歩み寄る。
「凌統よ、タクマ殿とは?」
孫権の眼差しがオレに向けられる。同時に、孫策と孫尚香もオレを見つめた。
「タクマは俺達を救ってくれたテイマーだ。この黄泉を支配する鬼骨王を倒す為に戦っている」
「そうであったか。タクマ殿……私は孫三兄弟の次男――孫権だ。此度の戦……我々を救ってくれたこと感謝致す」
「な~に、オレはオレが出来ることをしたまでだ」
「ちょっと、タクマ。格好いいんじゃない? あたし好みかも」
「寄せ、孫尚香。はしたないぞ!」
「ごめんなさい。お兄様……」
孫尚香――長い黒髪をアップに纏め、赤く染まるチャイナドレスを着こなしている。
その横で、厳格そうな顔に髭を蓄え、両腕を組む孫策――三人の中で一番落ち着きがある。
「タクマ殿、失礼した。俺は長男の孫策だ。そしてこっちが……」
「孫尚香です」
「あぁ、甘寧達から話は聞いている。オレはタクマ……」
孫権達にとってオレ達は初対面だが、こっちは散々石化した状態を見てきた。
そんなぎこちない雰囲気の中、オレは邪悪な妖気を感じ取った。
「皆、ちょっと待ってくれ。折角の所だが、妖気を感じる……」
バックベアードとの戦闘で今まで気付かなかったが、確かにオレは感じていた。




