第百一話 栄螺鬼と真琴
「栄螺鬼よ、進化したお前の力を見せてみろ!」
「タクマよ、早まるでない。まずはこやつのステータスを見てからじゃ。真琴より素早さが劣っていれば、攻撃は出来ぬ……」
そうだった……。劇的な進化を遂げたのはいいが、それだけでターンは終わりなのだ。
つまり、水虎の攻撃は進化で終わり、一巡して真琴からの攻撃――。
「どれ、お前の実力を見てやろう……じいさん、頼んだ」
「うむ……」
栄螺鬼 LV33 ランクS 特性 水吸収 自己修復
HP465 MP78
攻撃力139
素早さ90
1 クリティカル
2,3 通常攻撃
4 ミス
5 ダイヤの爪(10)
6 迸る水晶(12)
どうやらSランクに進化したことで、真琴と同じように理力攻撃が可能になったようだ。
素早さも辛うじて真琴を上回った。つまり、栄螺鬼からの攻撃で仕切り直しが出来るワケだ。
「こりゃ、驚いたわい。栄螺鬼の奴、自己修復まで兼ね備えておる。コイツがあれば、多少ダメージを喰らっても独りでに回復してくれるのじゃ」
妖怪大翁は驚きを隠せないのか、若干声を震わせた。
確かに進化して強くはなった。だが、バックベアードを倒せないと意味がない。それにここまで進化出来た背景にには、多くの妖怪の存在があったのも確かだ。
「栄螺鬼……行くぞ!」
オレは全ての思いを抱きながら、栄螺鬼に対するDDを放った。出た目は6の迸る水晶――初っぱなからスキル発動だ。
「御意……」
栄螺鬼はその目を確認すると、静かに息を吐いた。
鋭い眼光の先には、尚も立ち塞がるバックベアード――
「異国妖怪の恐ろしさをとくと味わえよ」
栄螺鬼は、魔法を詠唱するかのように言葉を紡ぐと、床一面に張り巡らされた石を六角柱状に裁断し、背後に付け空気中の水蒸気と融合させた。
それはまるで、光り輝く水晶のようだ。
栄螺鬼はそれを無言のまま、バックベアードへと放った――。
幻想的に眩く煌めく水晶は幾重にも広がりを見せ、バックベアードの弱点でもある巨大な瞳の白目へと突き刺さった。バックベアードに160のダメージを与えた。――HP501/2100――MP12消費66/78――
「うがぁぁ――っ! 目が……目が――っ! 己れ、殺してやる!」
水晶を瞳に突き刺さしながら、のたうち回るバックベアード――。栄螺鬼へのカウンターに出るが、振り上げられた両腕は見当違いの場所にめり込んだ。
「しめた。バックベアードの奴、視覚を失いかけてる。次は真琴、お前だ! 奴をとことん追い詰めてやれ!」
「そうだね。同じSランクとして、栄螺鬼に負けてられないし」
Sランクになった栄螺鬼に影響され、真琴の闘争心に火がついたようだ。味方として、これ程嬉しく思うことはない――真琴の為にも、いい目を出してやりたい所だ。
栄螺鬼の攻撃で、一部床が剥がれ落ちた場所にDDが転がる……出た目は4の長い髪だ。
「よし、真琴よ。栄螺鬼に続け!」
真琴は栄螺鬼が放った水晶の欠片をを髪に巻き付け、未だ視界のはっきりしないバックベアードの瞳に突き刺した。真琴にしてはいいアイディアだ。
バックベアードに130のダメージを与えた。――HP371/2100――MP8消費67/85――
更に真琴の攻撃は続く。栄螺鬼程の攻撃力はないが、AI二回行動が最大の武器だ。
真琴は長い髪を一つに束ねると、低い体勢に構えた。この体勢は過去に頻繁に使用していた技――貫通パンチだ。
残りHPが少ないのにも拘わらず、剥がれ石場を難なく突破すると、その瞳に向けて強烈なパンチを繰り出した。バックベアードに123のダメージを与えた。――HP248/2100――
「くそ……この我がここまで追い込まれるとは……。やむを得ん……ここは一度退くか……」
その瞳から流れる血液は、赤い涙のようだ。ここで、バックベアードが白旗を上げるならばオレ達の勝利だが、それでは孫権達や酒呑童子が石化したままだ。
オレの中の答えは一つ――
「逃がすかよ!」
オレがそう言った瞬間、バックベアードは流血した瞳を見開いた。
「誰が貴様らを生かしたまま退くと言った?」
「しまった!」
追い詰めたことで油断していたオレ達は、バックベアードの妖しく光るその瞳を凝視してしまった。
「どうするよ、タクマ。このままでは全員石化しちまうぞ!」
「凌統、心配するな。石化まではタイムラグがある。それまでにバックベアードを倒せばいいだけのこと……」
直ぐには石化しないことを酒呑童子が証明してくれた。だが、これは危険な賭けでもある。
バックベアードもHPは残り少ない――オレ達にはオレ達の出来ることをやるだけだ。
オレは足元から来る倦怠感を抱きながらも、不思議とリラックスしていた。
「こんな奴にやられはしない……」
そう呟きながら――。




