第15話:過酷な初日と、埋まらない差
「遅い! 優先順位を即座に判断しろ!」
道場に、白夜の冷徹な怒声が容赦なく響き渡る。
初日から手加減一切なしの地獄の特訓に、護衛隊の面々はみるみるうちに疲弊していった。
「息が上がるのが早いな。頭を使えないなら、まずは体を鍛え直せ。外周、走ってこい!」
仁烈が、すでに肩で息をしている隊士たちに冷たく命じる。あちこちで体力の限界を迎え、崩れ落ちるように座り込む隊士が続出していた。
「東真! 隙だらけだ! 隊長の貴様が真っ先に前線で立ち回れなくてどうする!」
白夜が鋭く踏み込み、東真のわずかな死角へと瞬く間に潜り込む。
「――やってるじゃねぇか……っ!」
東真は歯を食いしばり、汗だくになりながら木刀で何とか受け止める。
「口で弁解する暇があったら、結果を出せ!」
一刀の下に切り捨てるように、白夜が冷たく言い放つ。
「……っ、黙れ!」
耐えかねた東真が怒りを露わにして叫ぶ。
「ふん、さっさと黙らせてみろよ」
煽るような白夜の冷たい視線が、東真のプライドを徹底的にへし折っていく。
「――白夜、そろそろ少し休憩を入れてもいいんじゃないかしら。あっちでバタバタ倒れてる子もいるしね」
柚葉が、呆れたような、しかし面白そうに含み笑いをしながら白夜に声をかけた。
「……まったく。五分だけだ、休憩とする」
白夜は盛大に息を吐き出すと、ぶっきらぼうに言い放った。
「……ねぇ、手応えのほうは?」
柚葉がスッと白夜の隣に歩み寄り、コソッと耳打ちする。
「さあな。まだ初日だ、こんなものだろ」
白夜は手元の水差しを取り、乾いた喉へと水を流し込んだ。
道場の端では、護衛隊の隊士たちが「……きっつ……死ぬ……」と地面に大の字になって愚痴を零している。
「……貴様ら、本気でそんなに軟弱なのか? この程度の負荷でそんなに悲鳴を上げるなんて、ふざけているのか」
白夜が氷のような目で睨みつけると、隊士たちはびくっと体を震わせた。
「……これは、一から基礎の基礎を徹底的に叩き直した方が良さそうね。明日は私がその辺りのメニューを担当してあげるわ」
柚葉が楽しそうに笑いながら白夜に提案する。
「おう、頼むわ」
白夜が軽く返事をすると、それを聞いた護衛隊の面々は絶望したようにガタガタと震え上がった。
その少し離れた場所で、東真は水の入ったボトルを強く握りしめ、荒い息を整えていた。
(くそっ……! 白夜たちも同じように動き回っていたはずなのに、どうしてあいつらは一滴の汗もかいたように見えないんだ……この圧倒的な力量の差はなんだ……)
自分の無力さに打ち震えながら、東真は歯噛みした。
「……隊長、先程はすみませんでした」
護衛隊の副隊長を務める風柳愛太郎が、申し訳なさそうな顔で東真の隣にやってきて頭を下げた。
先ほどの訓練で愛太郎が致命的な立ち回りのミスを犯し、それを東真が無理やりフォローしたのだが、その「フォローの甘さ」すらも白夜の容赦ない叱咤の対象になっていたのだ。
「いや、気にするな……俺のカバーが遅れたせいだ」
東真は部下に対して、力なく苦笑いを浮かべた。
「――おい。馴れ合いの仲良しごっこをしている暇があるのか?」
冷たい空気を纏ったまま、白夜の声が背後から降ってきた。
「愛太郎。貴様も副隊長なら、もっと自分の役割を自覚してしっかりしろ」
「っ、も、申し訳ありません……!」
愛太郎がビクッと肩を跳ね上げる。
「そこまで言う必要あるか! みんな必死に食らいついてるだろうが!」
東真はたまらず立ち上がり、白夜を真っ直ぐに睨みつけた。
「あ? 必死だろうがなんだろうが、戦場で結果が伴わなきゃ命取りになるだけだろうが。……紅子様の命がかかっているんだぞ!」
白夜は一切引かず、手にした木刀を床に「ドン!」と力強く叩きつけた。
そのやり取りを、仁烈と柚葉が少し離れた場所からじっと観察していた。柚葉の後ろでは、冬華直属の部下たちも気まずそうに苦笑いを浮かべている。
「ねぇ、仁烈。あの二人って、もしかして犬猿の仲ってやつ?」
柚葉が小声で仁烈に耳打ちする。
「まあ、そうっすね……。東真のほうが一方的に隊長にライバル心剥き出しにして、突っかかっていってる感じっすけど」
仁烈が気まずそうに頭を掻く。
「東真って、いかにもプライドが高そうな顔してるもんね」
柚葉が苦笑いを漏らす。
「そうなんすよ。……それに、うちの隊長も言い方がね。……煽るから、余計にこじれるんですよねぇ」
仁烈も小さく笑うのだった。




