第13話:地獄の特訓、開幕
白夜による紅子直属護衛隊の稽古初日。
道場へと集まった東真率いる護衛隊の面々は、どこか緊張した面持ちでソワソワと落ち着かない様子を見せていた。
事前に東真から「あの白夜から直接指導を受けることになった」と知らされていた隊士たちは、(よりによって、隊長と犬猿の仲である白夜様にシゴかれるのか……)と、不安の入り混じったどよめきを隠せずにいる。
そこに、仁烈や柚葉らを手際よく引き連れた白夜が冷ややかに姿を現した。
「……すでに聞いているだろうが、今日から貴様らに稽古をつけてやる。手加減や容赦は一切しない、覚悟しておけ」
白夜が底冷えするような冷徹な声音で言い放つ。
その言葉を遮るように、東真は我慢しきれず一歩前に踏み出した。
「貴様の指導などなくとも――俺たちは紅子様をお守りするために――!」
「ならば、なぜこの前の路地裏で、貴様らだけで紅子様をお守りできなかった?」
東真の言葉が最後まで続くより早く、白夜は冷酷に言葉を被せた。
「…………っ!」
図星を突かれた東真は息を呑み、それ以上言葉を継ぐことができなくなる。
「悔しければ、口先ではなく腕で証明してみせろ。口で勝とうとするな」
白夜は手にした木刀の切先をスッと東真に向け、冷たく切り捨てる。
「貴様……!」
「それとも、旦那様から本当に失望されたいのか?」
追い討ちをかけるように、白夜の容赦ない言葉が突き刺さる。
「……っ、黙れ!」
耐えかねた東真が怒気を孕んだ声を荒らげる。
「ふん、できるものなら黙らせてみろよ」
白夜は挑発するように、微動だにせず構えた。
「……隊長、どこまで手加減なしでやりますか?」
脇に控えていた仁烈が、静かに、しかし物騒な笑みを浮かべながら口を挟む。
「決まっている。東真が完全に立てなくなるまでだ」
東真を冷たく見据えたまま、白夜は淡々と答える。
「まあ。初日からおっかないこと。見応えがありそうね」
柚葉は面白そうにクスクスと肩を揺らした。
それを間近で聞いていた護衛隊の隊士たちは、冷や汗をダラダラと流しながら青ざめる。
(えーっ! 白夜様だけでもかなり怖いのに、黒天様直属の仁烈殿に、冬華様直属の柚葉殿まで加わってるなんて……地獄だ……!)
だが、白夜は決して私情で東真や護衛隊を見下しているわけではない。
「紅子様をお守りする護衛隊の隊長」として、今のままの甘い実力では到底彼女を守り抜くことはできないと冷静に判断しているからこそ、一切の妥協を排しているのだ。
そして東真自身も、頭では白夜の指導が必要不可欠であることを痛いほど理解していた。
先日の路地裏で見せつけられた圧倒的なまでの強さ。そして蜜柑から「失望させるな」と突きつけられた直後という現実。
それなのに、目の前の男に素直に従うことがどうしようもなく悔しくてたまらない。
――白夜には絶対に負けたくない。けれど、今ここで白夜から技術を盗み、強くならなければ紅子を守ることはできない。
プライドと現実の間で激しく揺れ動く葛藤が、東真の胸の内で黒々と蠢いていた。




