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4.姉、心配される

「君、新入生に変に絡まれているんだって? 大丈夫?」

「ええと……」


 生徒会長である第二王子が、柔らかな金髪を揺らして優雅に首を傾げた。アリシアは何と返そうか思案する。誰がそのような些事を、この高貴な方の耳にいれたのか? 生徒会室を見回すと、副会長の侯爵家子息が視線を逸らす。どうやらこの男、ラインハルト・ウォーターらしい。


「ただでさえ忙しい生徒会委員の心を煩わせるのは忍びない。私から注意しよう」

「……会長の手を煩わせるほどでは、ありません」

「そんな事言って、弟とその取り巻きに二度も言いがかりを付けられていたろう」


 彼女の意見に異を唱えるように眉を寄せるラインハルトに、アリシアはニコリを笑ってみせた。

 侯爵家の情報収集によるものか、長い付き合いのせいか彼はアリシアの家の事情にかなり察しがついているようだが、心配のしすぎだと思った。


「大丈夫ですよ」


アリシアは王子に向けて、嫋やかに首を振る。


あの子(・・・)は、優しい子なんです」


 だから言いたい事があるだろうけれども、セドリックはアリシアに直接言えず悩んでいるのだろう……と彼女は考えた。

 溜息を吐いてベテルギウス王子は首を竦めた。とりあえずアリシアの意思を尊重するように苦笑する。


「分かったよ。それでも何か困ったことがあるなら相談して、生徒会役員が他所事に煩わされて仕事が滞っては困るからね」

「はい、有難うございます。何かありましたらご相談させてください」


 ベテルギウスはアリシアが私的なことだからと断らないよう、頼り易いように言ってくれたのだろう。彼女は素直に感謝を示した。おそらく頼ることはないだろうが、心配してくれる、その気持ちを示してくれる事が嬉しかったのだ。

 書類をひとまとめにして、手はず通り職員事務室へ向かおうと生徒会室を出たアリシアの後を、ラインハルトが追って来る。


「……荷物、持つよ」

「大丈夫よ、一人で持てるわ。え?……ああ!」


 彼はアリシアから強引に書類を奪うと、横に並び歩きだした。


「……君はお人よしが過ぎる」


 前を見たまま、周囲に聞こえない程度の声量で呟く。


「ベテルギウス様の関与がいらないと言うなら、僕が彼らに注意する。少なくとも、『身分身分』ってうるさい新入生を黙らせることはできる」


 確かにウォーター侯爵家子息であるラインハルトが叱れば、彼らは口を閉ざすだろう。けれども彼らと同様に身分を振りかざせば、道理が通らない。厚意はありがたいが、あまり良い結果にならない予感がした。アリシアは眉を下げた。


「学院の生徒は、原則平等よ。あの子達もそのうち学院のルールを学ぶだろうから大丈夫」

「そもそも身分って言うなら、あいつらより君の方が上だろう? それに、ルールを理解できる人間なら、あんな不作法はしないだろう」

「……私の出自が気になるのでしょう? その考え方は分からないではないわ。でも、とにかく、大丈夫だから!」


 アリシアはラインハルトから書類を奪い返し「ここまでで良いわ、ありがとう」と言って、立ち去ったのだった。

 ラインハルトは親切で言ってくれているのだろうが、身分を振りかざす言動には同意できない。新入生が学院のルールに馴染むのに時間がかかるのは良くあることなのだ。それに友人がどういう考えであろうと、セドリックがそうとは限らない。

 限らない筈……と自分に言い聞かせているのに、自分が敢えて見ないようにしている問題を何度も混ぜっ返されると妙に苛立ってしまう。

 八つ当たりかもしれないが、今はラインハルトの話を聞きたくない! とアリシアは思ってしまった。


次話は27日6:00投稿予定です

よろしくお願いします<(_ _)>

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