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黒竜王と黄金の太陽  作者: ホシクズノソラ
第一章 棒切れ令嬢、冒険者になる
3/14

3.アンナ特製・最強お嬢様の初陣

今のところ毎日午前10時に更新します。

よろしくお願いします。


アンナの暴走……。


 サザランズの突き抜けるような青空の下、ソーフィアの短い金髪がさらさらと風に躍った。

 腰まであった、アステリアの令嬢の象徴たる長い髪。それを今朝、アンナに頼んで短く切り揃えてもらったのだ。

「⋯⋯軽い。まるで、心まで軽くなったみたい」

 鏡の中にいたのは、青白い顔で怯えていた「棒切れ」ではない。健康的な血色を宿し、意志の強い瞳をした、一人の少女だった。

「さあ、お嬢様! 記念すべき初陣です。サザランズの街まで、最短ルートで参りますわよ!」

「ええ。⋯⋯え、最短ルートって、道を行くんじゃないの?」

「いえいえ、道は混みますから。⋯⋯失礼いたします!」

「えっ、ちょっと、アンナ!? ひゃあああっ!?」

 返事を聞く前に、アンナの強靭な腕がソーフィアの体をひょいと抱え上げた。


 直後、爆風のような風圧。アンナは道なき森を、そして民家の屋根を、重力など存在しないかのような速度で跳躍し始めたのだ。

 目まぐるしく変わる景色。ソーフィアが恐怖で叫ぶ暇さえ与えず、二人はあっという間に、荒くれ者たちが集うサザランズの冒険者ギルドの前へと着地した。

「⋯⋯着きましたわ。お嬢様、髪が少し乱れましたね」


(⋯⋯髪どころか、魂が口から出そうだったわ⋯⋯)

 フラフラになりながら地面に足をつけたソーフィアの目の前には、無骨な石造りの建物。

 そこには、王都では見たこともないような、巨大な武器を背負った男たちや、異種族の姿があった。


「お嬢様、あれが私が昔所属していたギルドです。荒くれ者が多いですが、意外と親切な奴らが多いので、お嬢様でも安心です」

 そう言ってやや古びた建物の扉を勢いよく開けた。

「たのもー!」

「あ、アンナ! そんな騒がしく⋯⋯!」

 大きな声に反応し、中にいた人々が一斉に入り口の方へ視線を向けた。久々に刺さる視線に、ソーフィアはアンナの服をぎゅっと握った。


「⋯⋯あの、ここは貴族の方がいらっしゃる場所ではございませんよ? お引き取り願えますか?」

 受付嬢は少し困ったようにそう言うと、ソーフィアは毅然と受付嬢を見返した。アンナが一歩前に出る。

「お嬢様に失礼ですよ」

「私はただのソーフィアです。冒険者登録をお願いします」

 その声に、奥にいた強面のギルド長やベテラン冒険者達がガタガタと立ち上がる。

「⋯⋯あ? あれ、アンナ姐さんじゃねえか!?」

「『瞬殺の暴風』って呼ばれてた、狩った獲物は全部食うって伝説のAランクの!? 生きてたのかよ!? つーか、年取ってなくね?」

「美魔女⋯⋯! 待て、隣にいるバインキュッボンの可愛い子誰だ!?」

 どうやらアンナは慕われていたようだ。驚きと賛辞と、ソーフィアについて何か。

「さ、お嬢様。登録いたしましょう」

 にっこりとアンナは最上級の笑みをたたえた。

「え、Aランク……!? ひっ、で、では、こちらの用紙に名前をお書きください」

 受付嬢は気圧されたように差し出したギルドカードの登録用紙。ソーフィアは迷わず「ソーフィア」とだけ記入した。


(――もう、ソーフィア・ローランは死んだの。これからはただのソーフィアとして生きるわ)


「では、こちらの水晶に手をかざしてください。ギルドカードに登録致します」

 手を乗せられた水晶は淡く光り、あっけなく登録は完了した。

「――はい、こちらがソーフィアさんのギルドカードとなります。一枚はギルドでの管理となります。もし依頼中にカードの紛失など体から離れた場合、カードが黒くなりますからすぐ分かります。肌身離さず管理してくださいね。初めての方はFランクからになります」

 ひんやりとしたギルドカードを受け取る。


(――私、冒険者になったのね)


 少し胸がドキドキする。貴族というしがらみから離れた実感が湧いてきた。自立。その二文字がソーフィアの頭に浮かんだ。


「お嬢様、おめでとうございます。⋯⋯周囲の目が煩いですね。少し言い聞かせておきましょうか」

 キッとアンナは周囲を見回した。いや、睥睨した。

「⋯⋯いいですか? この方に声を掛けたり手を出したり粉を掛けたりするような事をしたら⋯⋯分かっていますね? あなたたちの大切なもの、ちょん切らせてもらいますよ」


(――粉を掛けるって何かしら? 小麦粉でも掛ける嫌がらせとか?)

 元お嬢様ソーフィア。どんな環境であれ、やっぱり箱入りだった。


「姐さん! こいつらを脅すような真似、やめてくれ!」

 奥から慌てて出てきたのはギルド長。冷や汗をかいているように見える。

「あら、誰かと思えば⋯⋯泣き虫スティーブ? 年を取りましたね」

「⋯⋯ギルド長を呼び捨て!?」

「さすが姐さん⋯⋯つかギルド長が泣き虫⋯⋯」

「そうだよ、久しぶり⋯⋯って違う! こいつらは若いのも含めて将来有望な奴らだから! ちょん切るのもやめて!」

「大丈夫。この方に手を出さなければいいだけですので」

 それを聞いたギルド長――スティーブはギルド内を見回した。ちょっと目に涙が光っていた。

「おおい! 聞け、男共! 死にたくなかったら手を出すなよ!」

 彼らの頷く様子を見ながら、ソーフィアは首を傾げる。

(――ちょん切るって、ギルドカードを切っちゃうのかしら? だからギルド長も焦っているのね。ギルドカード、無くさないようにしなくちゃ)

 もちろん、ギルドカードを紛失するものは一定数いるし再発行も可能だ。

 そんな事を知らないソーフィアは、己のギルドカードを持つ手に力を入れたのだった。


「さ、お嬢様! 登録も済みましたし、早速今夜の晩ごはん⋯⋯もとい、依頼を受けに行きましょう!」

「ふふ、アンナ、私はまだランクが低いから、晩ごはんが食べられるほどお金は稼げないわ。でも、そうね。私、冒険者になったんだもの。頑張るわ!」

「あっ、これはどうでしょう? 『薬草採取』。魔の森に入らなくて、安全性もちょうどよいかと思います!」

「アンナがそう言うなら安心だわ。これ、お願いします!」


 ウキウキとした足取りでギルドを出ていった二人に、「きっと狩るんだろうな……」「ソーフィアちゃん、頑張れよ(合掌)」という会話があったとか、なかったとか。



「これだわ! 本と同じ!」

 ソーフィアは木の根元に生えている螺旋を描いた茎を見つけた。数本残して根元から丁寧に取る。

「ギルドから薬草本もらってきて助かりましたねぇ」

 言いながらアンナは別の薬草を引っこ抜いている。早い。

「集まったし、そろそろ戻りましょう、暗くなると危ないって受付のお姉さん言ってたわ」

 一瞬、きら、とアンナの目が光ったような気がした。

「おっとー? ここは森の深くに来てしまいましたー! これは早く戻らないとですねー!」

「えっ、いつの間に? 大変だわ!」

「おっとっと、このアンナ、失態です! ブラッディベアーの好物の草までもぎ取ってしまいましたー」

 強烈な匂いがアンナの手から漂う。ソーフィアの近く、草陰から「グルルルゥ⋯⋯」と低い唸り声が聞こえた。

「えっ、そんな⋯⋯」

「お嬢様! チャンス、いえピンチです! あれは手の肉の煮込みがおいし⋯⋯いえ、命の危険が! 早速魔法を使って迎撃を!」

 草陰から大きな影が出てきた。それは熊よりも巨大で禍々しい魔物。立ち上がると家一軒はありそうな。

「きっ、きゃあああ! 来ないでっ!」

 ソーフィアは無意識に手を振り抜いた。彼女の手から衝撃波が放たれる。 ドッカアアアン! と轟音と共にまばゆい光と土埃、メキメキと木の倒れる音……。


 恐る恐る目を開けると、魔物がいたはずの空間にはぽっかりと大きな穴が開いていた。

「あ、あら⋯⋯? 熊さんは⋯⋯?」

「残念ながら、お嬢様の魔法で消し飛びました。さすがですわ、お嬢様! さあ、向こうにスペアが三体ほどおります! 次は形を残して!」

「いやあああ! スペアなんていらないいいい!」


 その日、薬草を採りに行ったはずのFランク冒険者ソーフィアは、なぜか希少な魔物を担ぐ侍女と共に帰還し、ギルドを大いに震撼させることになった。

 もちろん、ブラッディベアーの煮込みは美味しくいただいた。


「お嬢様! 依頼のあとそのまま寝ますと明日に響きます! 疲労回復、足つぼマッサージですよ!」

「ええっ!? んんんっ、いだっ、きゃあああ⋯⋯!」

 宿に響き渡る絶叫。その日、ソーフィアとアンナの部屋に、少女の叫び声が聞こえたとして事件性が疑われたという。


熊肉の煮込みって、臭くないものは美味しいらしいです。コラーゲンたっぷり、美容に良さそうですね!

個人的にスティーブさんがお気に入りです。五十近い渋いオッサン。


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