97.無力なわたし達が世界を救う
この温もりだけは……失いたくない。
そう思って小さく丸まっているうちに、胸の辺りが温かいどころか、どんどん熱くなってきた。
「うわっ、あちちっ!!!」
火傷しそうになって慌てて起き上がると……ペンダントが、以前一度そうしたように……光り輝いている。その光はずっと遠く、天まで続いて、途中で途切れていたけど……
空には、白く輝く星が見えた。
「たしか、『天標星』……と言ったよね?」
昔、レイヴァル様が教えてくれた、迷ったときに目指す星。ずっとうつむいていたら、きっと見つけられなかったと思う。
……こんな絶望的な状況でも――、銀ちゃんがわたしのことを見つけてくれた。ノアのおまじないが、レイヴァル様の言葉が、みんなの全てが……わたしにまだできることはあると、勇気づけてくれているみたいだ。
「負けてたまるかああああああ!!!!!!」
わたしは全力で叫んだ。誰が聞いているわけでもなくても、力が湧いてきた。わたしは、まだ、歩ける!!
それからわたしは、白く光る星を目指して、ひたすら歩き続けた。何度も転んだけど、もう、気にしてもいない。きっと、あの先にわたしの希望が待っている気がして――。
・・・・・・
ぼろぼろになってたどり着いたのは……なぜかセント=フェアリアのお城だった。そこには、天標星から一筋の光が降り注いでいる。
自らもぼんやりと淡く光を放っているお城は、今まで通り過ぎたほかの建物とちがい、魔界にあっても朽ちてはいなかった。そこだけがあまりにも切り取って貼ったように美しいので、自分が別の世界に迷い込んだのかと思うほどだった。
不思議な気持ちで、お城の中に踏み入る。そこは、よく知っているわたしが過ごしてきた場所だったけど、人は誰も見当たらない。それでも、ここだけ綺麗に存在しているのだから、きっと何かあるかもしれない。わたしは片っ端から部屋の扉を開けていったけれど、そこには誰も見つからなかった。
しばらく歩き回り、気付くと、植物園にやってきていた。生き物が絶えた世界にあって、何故かそこに一筋の光が降り注ぎ、相変わらず花は咲き乱れている。
「ユーナさま、やっと会えました」
「え……」
まさか……。その優しい声に、振り向く。
「レイヴァル様!! 無事だったんですね!!」
わたしはレイヴァル様に駆け寄った。
「どうしても、ここを動けなかったんです。でも、ユーナさまが見つけてくれると信じていました」
「……どうして、レイヴァル様は無事なんですか?」
ほとんど諦めかけていた。でもこうして、レイヴァル様と話ができている。
「あっ、ついにわたしも幻覚を見るぐらい追い詰められたのかも……」
「いえ、私はちゃんとここに存在していますよ」
そう言って握られた手から、温かさが伝わった。よかった……
「ユーナさま達が戦いに行かれてからしばらくして……黒い雲からたくさんの魔物が現れて、国中を襲ったんです。皆は必死に戦い、決してあきらめることはなかった。それでも……城中が、いえ、おそらく世界中が時を止めてしまいました」
「そう、だったんですね……」
そこで、レイヴァル様がふと遠くを見る目をした。
「私は魔法が使えない人間……でも、昔母に言われた言葉があるのです」
確かに、レイヴァル様は魔法を使うことはできないし、効かない体だった。
「……私は魔法が使えないのではなく、『魔法を無効にする魔力』を持っているのだと言われたのです」
「どういう……ことでしょう? つまり、レイヴァル様は魔法を使っているということになります……?」
「おそらく。ここが強い魔力によって閉鎖された世界なら……私だけその効果を受けず、動けているんだと思います」
「確かに……! じゃあ、レイヴァル様は最強というわけですね!!」
ちょっと苦笑いをしたレイヴァル様は、真剣な表情に切り替わり、声のトーンを落とした。
「私に……考えがあるのです」
「何を……?」
「私の力を、ユーナさまの力で広げていただければ……世界を元通りにできると思いませんか?」
「それは……」
できるかわからない、と続けようとして口を閉じる。レイヴァル様の案でしか、世界を救えないなら、やるしかない。わたしとレイヴァル様は、うなずき合って再び手と手を取った。
お願い、みんなを、助けたい。
ただ、強く願った。
その願いは体中から溢れ、レイヴァル様の力と一つになり……やがて大きな渦となってその場に満ちた。城の周辺にわたし達の力が広がり、もとの世界に戻りつつあることも何となくわかる。
世界が、色を取り戻していく――。
でも……
「もう、力が尽きてしまいそうです!!」
「私も……です。何とか、最後まで出し切りましょう」
わたし達は更に願う。力が……まだまだ足りない!!
自分の全てを出し切ってでも世界を救いたいと願ったその時……わたし達の周辺が、眩しく光り出す。
「レイヴァル様……!?」
「ええ、城が輝いているようです……この光は、もしかして私達を助けてくれる――?」
大きな大きな光は、わたし達の力をどんどん押し広げ、世界中を覆いつくした。
しばらくすると……植物園から見える天井に、青空が……見えた。小鳥がさえずる声が聞こえる……
「やった……んですか?」
「ええ」
気付くと、わたしの目には涙が溢れていた。
そのまま、レイヴァル様にやさしく抱き寄せられ、わたしは声をあげて泣いた。




