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98.始まりの世界

 温かい。


 ……むしろ、暑い。

 


 目を開くと、窓から日の光が差し込んでいた。


「朝――なのかな?」


 がちゃん! と大きな音がしたので、びっくりして音のした方を向くと……


「ゆ……ユーナ様! やっとお目覚めになられたんですね!! よかった!!!!」


 ぎゅうぎゅうと抱き着いてくるのは、リリィ。


「ど、どうしたの? ……っていうか、リリィ! 無事だったんだね!?」


 わんわんと泣きながらしがみついてくるリリィがやっと落ち着くころには、城中のみんなが集まってきていた。



「……え、じゃあ、わたしは一か月近くも眠ったままだったわけ?」


「はい。それでも、回復が早い方だと思いますよ。このまま、命を落とすことも十分にあり得たのです」


 そこで、わたしはあることを思い出した。


「レイヴァル様は……!? 無事、なの?」


「はい、ユーナさま同様に倒れてしまったのですが、3日ほど前に目覚めることができました」


「よかった……って、本人!?」


 まさかのレイヴァル様ご本人登場に、その場のみんなが驚く。


「王様! まだ、休んでいなくてはだめです」


「そうですよ! まだ完全に回復したわけではないんですから」


「ユーナさまが目覚めたと聞いたのに、そうは、いきません」


 レイヴァル様はわたしのベットに近付くと、そばにある椅子に腰かけた。


「ユーナさま、このまま眠ったままかと思いました。……よかった」


 わたしはあの時……レイヴァル様と一緒に世界に光を取り戻したことを思い出す。……というか、思いっきり泣いちゃってたよな、恥ずかしい!


「あの……世界は救えたということでいいんですよね」


「はい」


「外は、どうなってます? 一緒に戦ったみんなは?」


 レイヴァル様の目が、やさしく細められた。


「気になることもたくさんあるでしょう。……元気になったら、全てを自分の目で、確かめてみるといいでしょう」




 それから一週間ほど、わたしは自室から出るのを禁止され、手厚く看病された。


 すっかり元気になったので外に出たいと言ったら、また止められた。何でも、今日はわたしの回復祝いが催されるので、それまでは大人しくしていろとのことだった。


 準備ができると、わたしは広間に案内される。今日のために用意されたたくさんのごちそうと、うれしそうに笑い合っているみんな。

 わたしが疲れないようにと気を配ったのか、その会は堅苦しさのない、アットホームな雰囲気だった。


「ユーナさま、改めて、お帰りなさい」


「レイヴァル様、ただいま。こんな素敵な会を開いていただいて、ありがとうございます!」


 そこには幻獣騎士団のみなさん、魔導士さん達、そしてメイドさん達も揃っている。


「聖女様!! 聞きましたよ。何でも、光る城に助けられたとか! ……それ、俺の力、けっこう役立ったかもしれません」


「こら! お前の力なんて聖女様のがんばりに比べたら蟻みたいなもんだろ! 変な自慢するな」


「お前達……せっかくの喜ばしい席で、そんなくだらないことで言い合うな」


 魔導士さん達がケンカ腰になっているのを、ラグレスさんが諫めてくれている。


「ユーナちゃん!! 会いたかったよ~!!!」


「あっ、カイル!」


「カイル殿の働きも、見事なものでした」


「でしょ、やっぱり僕がいないと、ね」


「うん。カイルの持たせてくれた道具、とっても役に立ったよ。……それで、もうそろそろ離れてほしいんだけど」


 しばらくみんなで賑やかに話していると、声を掛けられた。


「聖女様。無事だったようで、何よりです」


「……シオウ!!」


「気付いたら、ここに戻っていました。……私は、最後まで聖女様の力になれず……」


「そんなこと、いいの! 生きて会えたんなら!!」


 あまりの感動にわたしが全力で抱き着こうとすると、シオウは素早い身のこなしで避けた。


「えっ! そんなに嫌がらなくてもいいのに……」


「嫌とかどうとかそういうことではなく……支障があります」


「え? 何が?」


「待て待て、おまえは基本的に軽率すぎる」


 その声は!!


「ノアもいた! ……喜びの抱擁をしても?」


「だから、それが軽率なんだって」


 もう、なんと言われても構わない。わたしはあまりの嬉しさに、泣いてしまいそうなのをこらえた。



「ユーナが目覚めたって、本当か!?」


 少し遅れて、バーン! と扉を開け放ち、目立つ登場をしたのは……


「アレクス!!」


「ユーナ! 良かった!!」


「ちょっ……ええ!?」


 アレクスはわたしを高々と持ち上げ、ぐるぐると回して喜びを表現した。


「いたわ、もう一人、軽率なのが……」



 その後も、わたし達は再会を喜び、たくさん笑い、話した。


 アレクス達とは、あの後どんなことがあったのか、わたしがどんな行動をしたのか、全て話した。


「……ソウルは、その海へと無事に戻れたんだろうか?」


「うん、きっと大丈夫。また、会えるよ」


 わたしは、銀ちゃんの顔を思い浮かべる。


「でも、ロイドは……」


「あいつは、ユーナに会えて良かったと思う」


 ノアが言った。


「黒竜もロイドも命を失っても、ユーナは生きていたんだろ。……きっと、あいつの力が関係しているんじゃないだろうか」


「そう……かな」


 今頃、ロイドと銀ちゃんは、あの海にいる……そんな気がする。



 ・・・・・・



 次の日――。わたしは一人で王都が見渡せる城のバルコニーに立っていた。


 ……昨日、きっとみんな気付いていてあえて話題にしていなかったこと。


 わたしが、手の平に魔法の風を起こそうとしてみても、なんの反応もない。もしかしたら、この世界から……魔力そのものがなくなっている――。


 街を見下ろすと、いたるところが崩れ、焼けこげ、戦いの激しさを物語っている。そんな中、朝の早い時間にも関わらず、多くの人々が復興に向けて動き出していた。……人は、思っている以上に強い。


 きっと――自分のしてきたことは無駄じゃなかったと思いたいから。


 もしも、この世界で魔法の存在が消えてしまって、今までとは全く違う生活が余儀なくされたとしても……これからも生きるために、わたしができることを精一杯するだけなのは、変わらないだろう。



 その時、温かく、強い風が吹いた。気付くと、夏が始まろうとしている。



 向こうから、わたしを呼んでいる声が聞こえる。



 わたしを呼んでいるのは――……。



 その、優しい声のする方に向かって、わたしは歩き始めた。






                    ― 終わり ―

本編はここまでです。

最後に、お知らせがあります。

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