94.その頃、王都では。
カイル視点です。
「カイルさん、サンルード周辺に薬が足りないみたいです! 魔法で転送したいと思いますので、いくらか譲っていただけませんか!?」
「了解! ここの拠点の薬は、そろそろなくなって来たから、今度必要ならナラ地方の魔導士に連絡してみるといいよ」
「わかりました! ありがとうございます」
僕は城から慌てた様子で走ってきた魔導士に、薬を手渡した。できることは、精一杯しているけれど、どうにも追い付かない。
「各地で物資が足りなくなっているね……さすがにそろそろ限界かな」
僕は誰に聞こえるでもなく、呟いた。
……オーク村では、アレクス達が魔界へ戦いに赴いたと聞いた。その日、その夜……魔物は各地に現れた。以前魔王が王都を襲った時と同じように、黒い雲は各地に出現し、たくさんの魔物が押し寄せた。けれど。
あらかじめ配置されていた戦力によって、間もなくほとんどをせん滅できた。魔物の出現地域については、ユーナちゃんの助言があったらしく、効率的に倒せたのが大きかったみたいだ。
それから、しばらくは平穏が続いていた。相変わらず魔界に行った皆は帰ってこなかったけれど……
それから、3日たった、昨日……
国中を黒い雲が覆った。
3日間の空白は何を意味しているのだろう。彼らの無事は、今は確かめる術もない。ただ、倒しても倒しても湧いてくる魔物達によって、国中が苦戦を強いられている現状があるだけだ。
僕は昨日から寝る間もなく、戦っている兵達や魔導士の皆に、自分のできる限りの支援をし続けているけど……なかなか状況は変わらない。いや、皆が疲れてきている分、悪い方向に向かっていると言えばいいのか……。
「うわっ」
僕は急に現れた魔物に攻撃され、慌てて避けた。今自分がいるところは、各地へ物資を供給するための拠点で、今のところ魔物被害からは守られた場所だった。そんな場所にも、ついに魔物が現れたとなると……
「はあ、がんばってくれよ、アレクス……ユーナちゃんも……怖い思いをしていないかな」
僕は魔物の弱点となる匂いを放つ魔道具を持って城へ続く大通りに出た。
「カイル殿! 大丈夫ですか?」
「ラグレス団長! ああ、何とかね」
「ついにこの辺りまで魔物の侵入を許してしまいました……どうか城へお戻りください。あそこなら、まだ安全だと思います」
そういうラグレス団長の顔からも、疲れが読み取れる。ほとんど休みなく、戦い続けているんだろう。
「いや、物資繰りももう限界が来ている。……僕もちゃんと覚悟して、戦いに参加するよ」
「……申し訳ない……私にもっと力があれば――」
「ラグレス団長、やだなぁ、まだ戦いは終わってないよ! 顔が暗いって」
「……はい」
無理に笑顔を作ったその時――。
暗い空の遠くから、何か近づいてくるのが見えた。周辺を襲っている魔物達の仲間かと思ったけど、それが近づくと、他の魔物は避けている様子だ。幻獣騎士団というわけでもないようだけど……?
それが更に近づくと、大きな鳥が城に向かって悠々と飛んできているのだとわかった。あれは……ロック鳥? たしか、ユーナちゃんがオーク村で手懐けたという鳥ではないだろうか? それは、城の頂上……先端にとまると、大きく叫び声をあげた。
「あ! ……待て!!」
突然、ラグレス団長の横に控えていた王虎が動き出し、城へ向かって飛び立った。
「ラグレス団長、あれは!!」
気付くと、城の周りにたくさんの魔物が集まっている。でも、それは黒い雲から現れたものではなく、ロック鳥が呼び寄せた魔物のようだ。
城に攻撃しようとしているわけではないみたいだけど……? 不思議に思って見ていると、僕の立っている場所をたくさんの魔物が走りぬけていく。ここからは飛んでいる魔物の姿しか見えないけれど、どうやら城の周りには、既に何百もの魔物が集まっているみたいだ。
「城が……光っています」
白く、いつも淡い光を放つ美しい城。それが今は、はっきりと眩しいほどに光っている。そして、城の上空だけにぽっかりと空いた空洞からは、小さな青空が見えた。
しばらくすると……黒い雲から現れた魔物達が、ロック鳥の呼び寄せた魔物に襲いかかり始め、その場は戦場となった。
「どういうことでしょう? 王虎がわたしの命令に反して勝手に行動するなど、今までなかったのですが」
「……太古の昔――、人と魔物はもっと近い関係だったという話を聞いたことがあるよ。今集まって戦ってくれている魔物達は、ユーナちゃんとの絆が強かったり……もしかして僕たちのいる世界を助けようと考えたりしているのかもしれないね」
「そう、ですか。……幻獣達を人間の手で操り、戦いの道具として使うことに……彼らはどう思っているのかと考えたことがあるのです。……我々と共に戦おうと思ってくれているのであれば……嬉しい限りです」
あまりの光景に呆然と立ち尽くす僕たちの周りに、同じように幻獣が飛び立ってしまった騎士団の皆や、戦っていた魔導士達が集まってきた。
「ラグレス団長!! 我々はどうしましょう?」
「……幻獣達はあのように命をかけて戦ってくれている。我々も、向かおう」
「はいっ!」
「カイルさん、あの城の光はなんでしょう? ……実は我々魔導士の力も、城に向かって少しずつ流れ込んでいるようなのです」
魔導士の一人が、不思議そうに尋ねてきた。
「分からないけど……もしかしたら、ユーナちゃん達が迷っても、戻ってこれるように指し示してくれているのかもしれないな……」
「そう、ですか。では、我々も祈ります。聖女様達のご無事を。そして、この世界に再び平和がもたらされることを」
魔導士達が祈りを捧げると、魔力を視ることができない僕にでも、その力が集まり、城を更に光らせていることがわかった。相変わらず魔物は次々と現れ。空は暗い。それでも……希望の光は消えていない。
僕は、その祈りが国中の魔物達……そして国民にも広がっているのを知らなかった。




