92.誰が一番?
その後、わたし達は策も見いだせないまま戦い続けている。ノアとロイドも魔法を放ったし、アレクスとシオウは、黒竜が地面近くに降下してくるタイミングを狙って、攻撃をしかけている。
それでも、全く効いていない様子に、徐々にみんなの顔に焦りの色が見えてくる。
その時、ロイドが獣姿になり、黒竜の目の前まで飛んだ。そしてそのまま、雷の魔法を放つ。……黒竜は首を振ったものの、攻撃が効いた様子はなかった。
ふわりと降りてきて、人の姿にもどるロイド。
「確実とは言い切れないですけど……どうやら、顔の付近に攻撃されるのを嫌がっているみたいですね。さっき一瞬、口の中が見えたんですけど、そこに攻撃すれば……もしかして効くかもしれません」
「でも、黒竜は飛んでるし、暴れまわっているし……攻撃することすら、難しいんじゃ」
アレクスが困ったように呟く。
「わかった。おれがぶん殴ってあいつを落としてやろう」
何を言い出すんだと言わんばかりのみんなの目線が銀ちゃんに向けられる。そんなことは一切気にせず、銀ちゃんはぐんぐん昇っていって、黒竜の目の前で人間の姿に戻った。
「え!!??」
次の瞬間、全力で……言葉通り殴りかかる銀ちゃん。もちろん、素手で。
人間の体よりも大きい竜の顔は、その一撃でぐらつき、そのまま地面にドスンと落ちてきた。
「気絶させてやったぞ! 今のうちだ」
なんという力技。一瞬の出来事に、みんなも驚いている。すかさず、ノアが杖を構え、黒竜の口の中に炎の魔法を叩きこんだ。それとほとんど同時に、ロイドも追い打ちをかけるように魔法を放つ。
黒竜の咆哮がその場に響き渡ったが、今度は苦しそうに悶えている気がする。
「ソウル……お前すごいな!」
アレクスがキラキラした目で銀ちゃんを見ている。
「はっ、まあな!!」
二人は、何か通じ合ったように笑い合っている。そういえば、どことなく雰囲気が似ているかも……。
「……っていうかさ、そんなことできるなら最初からやれよ!」
ロイドはジト目で銀ちゃんを睨んでいる。
「おれはゆうなを助けたいとは思う。でも、正直……誰が相手だとしても、自分から魂を奪いにいくのは気が進まない」
「あのな、そんなこと言ってる場合じゃないだろ。ユーナ様だってあの竜が生きてる限り、命の危険にさらされてるってことなんだから」
「う、うーん。まあ、そうだけども」
二人とも主張していることはよくわかる。ロイドは魔王を倒すためにここまでがんばってきたのだし、銀ちゃんはココルの海でたくさんの魂を、善悪に囚われずに天へ戻してきた。どちらかの味方につくこともできず困っていると……
再び黒竜が立ち上がった。……それでも、さっきまでの勢いは感じられず、明らかに弱っている様子。黒いオーラも半減しているようだけど……。
間髪を入れずに、シオウが走り出して後ろ足に切りかかった。
ガアアアアアアアア!!!!!
叫び声をあげてよろける黒竜。
「どうやら、攻撃が効くようになりました」
「よっしゃあ!」
みんなは一斉に攻撃を仕掛けた。次々と繰り出される怒涛の攻撃に反撃する間もなく、黒竜は追い詰められていった。そして、飛び立とうと翼を広げた瞬間。
アレクスとシオウが同時に切りかかった。炎と風が一体となり、大きな炎の嵐となる。立っていられないほどの爆風が起き、がらがらと周囲の岩が崩れた。思わずつぶった目を開けると、そこにいた竜の翼は穴が空き、ぼろぼろになって……使い物にならなくなっていた。
「ものすごい強さ!!」
「どっちが!?」
「えっ? ……二人とも、だけど」
「聖女様、はっきりとお答えください」
ひいい!! ちょっとしたつぶやきなのに、なんで二人とも聞き逃してくれないの!? 肩で息をしながら仁王立ちしている二人からは、まるで魔王のような殺気が満ち溢れている。更なる答えを待ち、無言で睨んでくる二人。……これ以上余計なことを言わないで黙っておこう。
「まだ、終わってないですよ!」
ロイドの声に、慌てて黒竜の方に注意を向けると……
黒い雲が、渦を巻いて黒竜の体の周りに広がり始めていた。次第にその場全体が雲で覆われ、視界が悪くなる。
「なんだこれ、あの竜……相当キレてるな」
「そうとう追い詰められてるみたいです! くれぐれも油断しないように!!」
ノアとロイドが光魔法や風魔法で視界を確保しようとしても、どんどん辺りは暗くなり、ついには近くにいたみんなの姿も確認できないほどになった。
「ゆうな、万が一にそなえて、おれに乗っておけ」
銀ちゃんの背中にしがみつくわたし。
その時……衝撃が走り、吹き飛ばされそうになった。銀ちゃんがすごい速さで避けたのと反対側から、大きな音が響き、突風が吹く。
姿は見えないけれど、黒竜から発せられた攻撃だと思う。その後も、視界が開けない中、銀ちゃんが勘を頼りに避け続ける。
一瞬、目の前に何かが現れた。それは、口を大きく開けた黒竜の顔! わたし達は逃げ回っているうちに、黒竜の前に近付いてしまったみたい。
「だめだ! 避けきれない!!!」
わたしは全力で防御の光魔法をかける。寸でのところで銀ちゃんが避け、黒竜の攻撃はわたしの防御魔法を少し掠めた。
黒竜の口から吐き出された黒い炎の様なブレスは、そのまま地面を穿った。
「ぎりぎり、セーフ!!」
何とか避けられたけれど……みんなは大丈夫なんだろうか? 視界が悪いうえに、爆音で周りの様子が全くつかめない。
その後何度も発せられたブレスの突風で、徐々に視界が広がってきた。立ち込めた黒い雲は、少しずつ薄くなってきている。
その時、近くにノアが倒れているのが見えた。
「ノア! 大丈夫!?」
慌てて近寄ると、怪我などはしていない様子でほっとする。
「ああ、なんとか平気。……ここまで薄くなればいけるか」
ノアが広範囲の風魔法を放つと、黒い雲はすっと立ち消えた。
「え……」
周囲の状況が徐々にわかってくると……
みんな……倒れているのが見えた。




