91.黒竜の弱点
突如目の前に現れた深い穴は、明らかに黒竜がいることを表すように、禍々しいオーラを放っていた。
「いよいよ、決戦か! ゆうなはおれに乗っていけばいいよな……他のやつは絶対乗せないからな」
さっき懲りたようで、念を押すように銀ちゃんが言った。
「降りるだけなら一瞬だし、まあ自分でどうにかできるだろ。じゃあ、行くぞ」
「了解です!」
ノアとロイドは何か呪文を唱え、穴に飛び込んでいった。
「は? 俺達は魔法が使えるわけでもないから、さすがにこんな高さから飛び降りられるわけない! な、シオウ」
「私も問題ありません。では」
シオウもためらうことなく飛び込む。
「ええ!? じゃあ、ソウル……俺も乗せて……」
「絶対嫌だ! 得にアレクスはさっきやたら重かったし、二度とごめんだ。じゃあ、先行ってるからな~」
「いやいやいや! 待てって……お願い!」
慌てるアレクスを置き去りに、わたし達も飛び込んだ。アレクスのことだから、きっと何とかすると思うけど……
(息苦しい……)
少し潜っただけでも、重苦しい空気が立ち込め、息をするのも辛い。目に見えない大きな膜のようなもので押し返されるような抵抗を感じた。それでも無理やり通り過ぎ、その膜を破ったと思ったところで、穴の底が見えた。
「銀ちゃん!!」
「……ああ、魔王だ!」
わたし達の落下地点に、その巨体は構えていた。わたし達より先に飛び込んだノア達も、無事に黒竜の周辺に着地しているようだった。
銀ちゃんが、黒竜にぶつかる直前というところで、軌道を変えて近くの地面に降り立った。ここは……彼の住処なのだろうか? 思わぬ侵入者に、警戒を強めて首をもたげる黒竜。
「警戒しろよ。ここは相当魔力が溜まり込んでいる場所だし、黒竜の縄張りだ。おそらく……王都に現れた時より相当強い」
確かに、前に見た時よりも凶悪そう……その黒い皮膚から燃え上がるような黒い揺らめきを感じる。わたし達がじりじりと間合いをとって睨み合っている時だった……
「うああああああああああああ」
声の方向を見上げると、叫び声と共にアレクスが降ってきた。無策でとりあえず落ちてきたみたいだけど……そのまま黒竜の真上に落下して……
「アレクス、危ない!!」
それでも、アレクスの身体能力は思った以上に凄かった。いつの間にか剣を構え、落下するに身を任せ、その勢いで黒竜に切りかかった。
地面に真っすぐに振り下ろされた剣。アレクスが着地してごろごろと転がった後、その太刀筋に沿って大きな炎の柱が立ち昇った。黒竜はその炎に焼かれ、咆哮している。
「おわっ、お前ら、俺だけ置いていくなんてそれでも仲間か! ひどい目に遭っただろ」
「結果的に生きてんだからいいだろ」
「くそっ! ノアがピンチでも助けてやらないからな……! ソウルも覚えてろよ! ……それにしても、こんなバカでかいヤツを倒さないといけないのか」
そんな話をしている間にも炎は燃え盛り、巨大な黒竜を包み込んでいる。
「……効いてるか?」
ごうごうと音を立てて燃えている竜。炎の剣の力がここまでとは……
「いや……避けろ!」
そのまま燃え尽きると思った黒竜は、その体をものすごい勢いで回転させた。近くにあった石の柱のようなものは打ち砕かれ、火球が全方位にまき散らされる。爆風で飛ばされる寸前に、銀ちゃんが岩場の陰に逃げ込んで、体の下にかくまってくれた。
風がおさまり、そーっと覗くと……全く無傷の黒竜の姿。
「アレクス。お前の炎の剣、全然効いてなさそうだな。使いどころが難しいごりっごりの属性武器だから、肝心のときに役立たないんだろ」
あちこちに上がった火の手を、ノアが水の魔法で消しながら悪態を吐く。黒竜はダメージを受けた様子はないけれど、突然の攻撃に怒って暴れ出している。
「なんだと! 炎の剣ってだけで、ヒーローっぽいからいいだろ!!」
……どういう理屈なんだろう?
「では、私の攻撃は届くでしょうか?」
岩陰から飛び出していったのは、シオウ。未だ暴れる黒竜の尻尾に近付くと、うまく足掛かりを見つけながら、上に登って行った。たまに落ちそうになると、自分の剣で空を切り、発生させた風で足場を作っているように見える。
「……何、あれ。どういう原理であんなことできるんだよ?」
呆れたように見上げるアレクス。……わたしも完全同意だ。
そのままあっという間に背中まで到達したシオウは、黒竜の翼部分に攻撃をした。シオウの振った双剣からは大きな風が巻き起こり、竜の翼に当たって軌道を変えた突風は、そのまま周りの岩壁に爪痕をつけた。
「シオウの双剣から出される風は、何か他の効果も付与されてそうだな」
ノアが興味深そうに観察している。地形が代わるほどの強力な攻撃でも、黒竜の体に傷はついていない様子だ。それどころか更に怒りを増幅させた竜は、巨体とは思えないスピードで舞い上がり、シオウを振り落とそうと飛び回った。
さすがにつかまっていられなくなったシオウは空中に放り出され……
銀ちゃんの背中に着地した。
「……ありがとうございます」
「いいって事よ!」
「おい、ソウル! 何でシオウのことは快く乗せるんだっ」
アレクスが文句を言っているけど、今はそんな場合じゃないと思う。竜が壁に何度も体当たりをして、その度に地面が揺れ、大きな岩が飛散してくる。わたし達はなんとか当たらないように逃げるので精一杯だ。
「翼を切り落とす覚悟で攻撃したのですが、私の攻撃も効いていないようです」
「……前に王都でやったように、ノアとロイドで光魔法を放つのはどうかな?」
「うーん、おそらく、前より効かないと思います。というか、今のあいつには、属性攻撃が全く効かなそうな感じですね」
ロイドの言葉に、ノアもうなずいている。
「つまり……」
「打つ手、なし……?」
これ以上逃げ回っていてもいずれ限界がくる。……でも、今のわたし達には黒竜を倒す術が見当たらなかった。




