88.オーク村最後の夜
すべての準備が整ったわたし達は、遂に魔王討伐へ向かうことになった。メンバーは、ノア、ロイド、シオウ、銀ちゃん、そしてわたし。オーク村では、アレクスが合流する手はずになっている。
出発する日の数時間前、わたしは幻獣騎士団のもとに、あいさつに来ていた。
「結局、魔物が出現する兆候が見られた地域に、幻獣騎士団の皆さんも分散して防衛にあたるんですよね」
「はい。私は王都の守りから離れませんが。我々、幻獣騎士団は国の防衛に全力を注ぎます。……幻獣達が黒竜のいる魔界との歪みに入った場合、以前のように制御が効かなくなる可能性があるため、同行できないことをお許しください」
相変わらず、とっても真面目そうなラグレスさん。お互いに、できることをやるしか、今は道がないと思う。そこに、ひょこっとフィルが現れた。
「聖女さま、気をつけて……いってらっしゃい」
わたしは、少し泣きそうにしているフィルの頭をなでた。
「フィルも、ラグレスさん達も、気を付けて!」
騎士団の皆さんが勢ぞろいしていて、敬礼で見送られた。これから、皆さんも厳しい戦いが強いられるかもしれない。……でも、彼らなら、全力で国を守るために動いてくれると思う。
・・・・・・
そのまま、わたしは城の前の広場に出向いた。オーク村へは、移動時間を考えて、召喚魔法を使うことに決定していた。5人の人間が移動するため、けっこうな魔力が必要とのことだった。
「えっ!? みんな?」
広場には、レイヴァル様を始め、お城の皆さんが勢ぞろいしていた。大臣さん達と……わたしの護衛をしてくれていたシオウの部下の皆さんもいる。メイドさん達もずらりと並んでいて、その中でもリリィはひたすらハンカチで涙を拭っている。
中心には、お城の魔導士さん達と、イエンさんが円を描くように立っていた。
「ユウナさま、主人をどうかよろしくお願いします。これから旅立つのに、少しでも魔力を節約しておいた方がいいでしょう。我々で、召喚魔法を発動させます」
「皆様のご無事の帰還をお待ちしています!!」
口々に激励の言葉を伝えてくる皆さんに向かって、わたしも元気に手を振る。
大きな光の円が地面に浮かび上がり、わたし達はそこに足を踏み入れた。
・・・・・・
「ユーナ! みんな! 待ってたぞ!!」
わたし達が村に着くなり、アレクスが元気に出迎えてくれた。
「やっぱり、その移動魔法って便利だな。俺なんて、この間やっとここに帰ってきて数日ってところだし……。魔王が北の山に現れるって連絡を受けた時は、本当にびっくりした」
「何か、予兆はあるのか?」
「……ある。ここはクルルーの生息地域じゃないけど、知らせを受けて調べてみると、森の動物は明らかに減っている。なぜか、魔物達も減っているようだけどな。エンクも、ダイアウルフ達もずっとそわそわして落ち着かない様子だ」
アレクスと一緒に、村の人たちも集まっていたけれど、みんな不安そうな表情をしている。
「みんな、わたし達が何とかするから、安心して!」
「とりあえず、今日は村に泊まってくれ。で、……その後は……どうすればいいんだ?」
「俺と先生で、魔界とつながりやすくなっている場所を見つけ出して、無理やり空間をこじ開ける予定です。そのまま、中に入れば、こちらの世界への被害も最小限で抑えられると思います」
ロイドが計画を教えてくれた。
その日の夜――。
わたし達は盛り上がっていた。村の人たちが盛大に宴会を開催してくれたのだ。……さすがに何が起きてもいいように、お酒は用意されてなかったけど。
「わしは、村のことよりも、アレクス様とユーナ様のことが! 心配なんじゃ!!」
「サイラスさん、まあまあ。もう寝たほうがいいよ」
「わしも一緒に戦う! これでも昔は北の支配者と恐れられ……」
大騒ぎして連れていかれるサイラスさん。酒瓶を手にしている気がしたけど、気にしないようにしよう。村の人達は、精一杯明るくもてなしてくれている。わたし達への気遣いに、心が温かくなる。
部屋の隅では、シオウとスタークが何か話しているのが見えた。そういえば、スタークはシオウの部下なんだよね。他に一緒に話している数人も、わたしの護衛としてこの村に留まっている人達なんだろう。
反対側では、アレクスとフェルムさん達も何か話している。フェルムさん達も本当はついてきたいんだと思う。それでも、アレクスの指示で村の防衛にあたるということだった。
「ユーナ、くれぐれも無茶はしないでね」
わたしの横に座って来たのは、クレア。
「うん。ありがとう」
「むしろ、お兄様の暴走を何とか止めてほしいくらいね」
「アレクスに限ってそんなこと……ある、か」
「ええ。あるわ」
わたしとクレアは同時に吹き出した。
「これ、メイさんのパン。ユーナに食べてほしくて、作ってもらったの」
クレアがわたしにかごを差し出してきた。ハチミツパンを一つ手に取り、ほおばると、初めてこの世界で口にした時と変わらない……幸せになれる味。いろいろな思いが溢れて、わたしはこっそり涙を拭った。
「……オーク村は、ずいぶんいい方向に変わったわ。それもこれもユーナのおかげ。本当は、危険な場所に行かせたくないの」
ぎゅっとクレアに抱きしめられた。
「クレア……」
「ユーナが戻ってきたら、次は何に挑戦しようかしら? 新しい観光施設を作るのも、面白そうね」
「……うん。オーク村はわたしの始まりの場所。……必ず戻るから」
……夢を見ていた。ココルの海に、漂っているわたし。波の音以外、何も聞こえない。クラゲか何かのようにプカプカ浮かんで、綺麗に晴れ渡った空を眺めている。
気持ちいい……ずっとこうしていたいな……
……
…
「魔王が、現れたぞ!!!」
無理やり意識が引き戻されると、自分は今、アレクスの屋敷の部屋で眠っていたことを思い出した。けっこう遅くまで宴会は続いていた。恐らく、まだ眠ってからそんなに時間は経っていないと思う。外は騒がしく、まだ夜も明けていないのに、松明の光で明るくなっている。
わたしは慌てて外に飛び出した。




