87.商人の知らせ
「やっと会いに来れたと思ったら、もうすぐ旅に出るところだったんだって!? 間に合って、よかった!」
ある日、わたしの元に駆け寄って来たのは、カイルだった。
「なんだか久しぶりだね! 元気だった?」
「……本当に、どこまでいってもユーナちゃんはユーナちゃんだね。とてもこれから死地に向かうとは思えない気の抜けたあいさつ。さあ、僕からの最大限の協力品だよ。受け取ってね」
カイルはたくさんの荷物をわたしに手渡した。その中には、綺麗な布の服もある。
「とっても素敵! これ、わたしに?……けど、戦いに参加するにはちょっと向いてなさそうじゃない?」
しばらく時間をもらい……カイルの猛プッシュで着てみた衣装は、何だか……すごかった。薄い水色で、綺麗な金色の刺繍が入ったワンピースと、白いシルクのような肌触りのケープ。その他、高価そうな装飾品もいっぱい身に付けさせられた。着てみるまでわからなかったけど、胸元がすこし露出しすぎている気もするし、なんだか体のラインが強調されるデザインなので、正直落ち着かない。屈伸してみると、そこまで動きが制限される感じもなかったけれど。
「聖女なんだから、こういう姿の方が俄然いい! 絶対いい! ね、君たちもそう思うでしょ」
何事かと集まってきたロイドやシオウ、その他お城の皆さんは、会うなりカイルに同意を求められ、訳も分からずうなずいてる。
「それに、ただの見た目重視じゃない。僕が国中を回って見つけてきた、最大限、魔法防御を高める性能つきだよ」
「本当に? そんなすごい物、もらっていいの?」
そう言われると、なんだか守られているような気が……しなくもない。
「僕は、サンルードの首長の息子として、アレクスに王になってほしくて動き回っていたんだ。あ、今だから言うんだよ。……でも、ユーナちゃんがみんなを繋いで、その結果アレクスの意思もはっきりさせてくれた。アレクスが魔王を倒すというなら、ユーナちゃんのことも、全力でサポートさせてもらうよ」
カイルは嬉しそうにわたしの両手をにぎった。
「カイル様、聖女様にそのような行動は慎んでいただけませんか?」
「そうそう、はい、ロイドくんとシオウくんにもプレゼント」
「……お心遣いはありがたいのですが、さすがにこの量を持ち運ぶのは大変そうですね」
カイルが持ってきた山盛りの荷物を見て、シオウが困っている。
「いや、これ見てよ。この袋、空間を広げて収納できる、国宝級の貴重品じゃないか? カイルさん……さすが大商人!」
ロイドが驚いたように持ち上げたのは、小さな袋。わたしは思った。ドラ〇もんが持ってるやつだ……! その他、食料や薬、装飾品など、珍しい物ばかり厳選して持ってきてくれたらしい。
「あー、やっと終わった。って、何この騒ぎは? ああ……商人か」
「ノア。どうしたの? なんだか疲れてるね」
わたし達が集まっているところに、ノアが通りかかった。気怠そうなノアは、かなり不機嫌そうに見える。
「各地の魔導士達のことで、ちょっといろいろやってきた」
「先生、ここ数日見かけないと思ったら、サボってたわけじゃなくて何か準備されていたんですね」
「俺が不真面目な人間に見えるかよ。……これまでみたいに、各地の魔導士がユーナの魔力に依存しすぎていたら困る。こっちは魔王と戦ってるのに、魔力が枯渇して、前みたいにユーナが気絶しても困るしな。だから、ちょっと魔導士達の持ってるお守りの効果を組み換えて、ルドウェアの動力源から直に魔力を引っ張って使えるようにした。これで、お互い魔力切れを気にせず戦えるというわけ」
どうしたらそんなことができるのかさっぱりだけど、ノアの様子からして、けっこう大変な作業だったようだ。それにしても……そんなにルドウェアから魔力を引っ張って来て、大丈夫なのだろうか? ルドウェアが墜落する日も、そう遠くないかもしれない……
「そういえば、全国の魔導士さんネットワーク、僕もよく利用させてもらっているよ。ユーナちゃんは商才があるよね。聖女を廃業したら、いつでも雇ってあげるから安心してね」
「はは……ありがとう、転職も考えておくよ」
魔導士さんネットワークでは、最新の魔王情報を共有していて、どこに魔物が現れても、すぐに連絡をとれるように準備はしている。
「そうそう、その話で、もう一つ用事があったの思い出したよ。魔物が現れるような直接的な変化はないんだけど、各地の情報を仕入れた時に、ちょっと気になることがあったんだ」
カイルが地図を取り出して、説明を始めた。
「数か所の街の付近で、クルルーが一斉に逃げ出す現象が起きているらしいんだ。そういう習性を見せたことのない生き物だから、現地でも不思議がられているらしい」
まさかの、クルルー!?
「人間よりも、動物の方が危険を察知する能力が高いと言いますし、何だか気になりますね」
ロイドの言葉に、ノアもうなずいた。
「今の商人の情報は、よく調査しないといけないが……そこに今後魔物被害が出る可能性も十分あるそうだな」
「では、私が宰相様に連絡をしておきます。必要であれば、兵の配置や幻獣騎士団の派遣なども検討されるでしょう」
「ありがとうね、シオウくん。よろしく頼むよ」
シオウは無言で一礼した。
「ユーナちゃんと初めて会った時は、たしかハチミツの研究してたよね。お城の掃除してる時もあったし、不思議な子だなと思ってたよ」
「う……お恥ずかしい限りです……」
「君はいつ会ったとしても、明るい笑顔で常にできることを探してがんばってる。そんなユーナちゃんだから、魔王退治も可能じゃないかって、思えてくるんだ。僕には僕のできる限りの戦いをするよ。……ユーナちゃんが安心して戻ってこれる場所を守るために、精一杯のことはするからね」
「うん、カイル、ありがとう。戻ってきたら、また、いろいろ教えてね」
わたしとカイルは笑顔で挨拶を交わした。




