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86.平和を取り戻すために

 いつでも魔王との戦いに行ける心の準備……と言っても、現状で何か起きているわけではないので、わたしは手持ちぶさただった。いつも構ってくれる人達はそれぞれやることが多くて忙しいし、メイドさん達の仕事を手伝おうとすると、ものすごい丁重に断られた。何でも、命をかけてまで戦おうとしている聖女様にそんなことまでしてもらっていては、自分たちがいたたまれないとのことだった。……なんの目途もたたないまま待機しているほうが精神的に辛いのだけど、必死に断られると仕方がない。


 というわけで、広いお城の中を、ひたすら歩き回っている。


 初めてお城に来た時は、よく迷ったものだった。完全ではないけれど、今はけっこうどこに何があるかわかっていると思う。ロイドと一生懸命練習した鍛錬場……魔導士棟では、初対面のみんなにけんかをふっかけちゃったっけ。ノアによく絡まれた図書室……ここの窓からは幻獣騎士団の獣舎の屋根が見えるんだ! 


 わたしがここでの生活を思い出しながら巡っていると、いつの間にか植物園にたどり着いていた。

 

 温室になっているから一年中花が咲き乱れているけれど、やはり多少季節の影響は受けているよう。春になった今、淡い黄色やピンクのかわいらしい花が地面を埋め尽くしているのを見て、なにか懐かしい、温かい気持ちになった。


「最初に、ユーナさまとお話したのは、ここでしたね」


「え? ……レイヴァル様」


 気付くと、後ろにレイヴァル様が立っていた。そのままわたしに近付いて来てにっこりと微笑む姿は、まるで春の妖精だ。


「ユーナさまのことを考えながらふと立ち寄ってみたのです。まさかお会いできるとは思いませんでした。……これから、ゆっくりとここで会える時間もとれないかもしれません。少し、座ってお話しませんか?」


 わたしはうなずいて、東屋の椅子に腰かけた。……なんだか、ものすごく懐かしい。思い出したのは、初めてレイヴァル様とここで会った日。


「あの時……初めてレイヴァル様とお話した時、わたしものすごい緊張してた気がします」


「それは、きっと私がユーナさまとうまく会話できなかったからです」


「……ふふっ、何だか今では遠い昔のことみたいですね」


「もう、一年になりますかね」


 隣に座るレイヴァル様は、優しい笑顔でこちらを見つめてくる。まっすぐな視線は、どこかくすぐったい気持ちになる。


「あれ、そういえばレイヴァル様……なんだか成長しましたね、背が。お顔も前よりきりっと……」


「……子ども扱いされていると受け取ってもいいですか?」


「いやっ! 決してそんなことはないですよ! 最近のレイヴァル様はものすごく堂々としているし、立派になったなぁって……」


 ……まずい。フォローしようとしてまたしても上から目線発言をしてしまった。これ以上しゃべるとまた何か余計なことを言いそうで困っていると、レイヴァル様が苦笑交じりにわたしの髪に手を伸ばした。


「まあ、変わったと思ってもらえただけでも、今はいいことにします。……焦りすぎて、髪の毛がきらきら輝いてますよ」


「うわっ! そういえばそんな体質だった……ごめんなさい」


「何も、謝ることは。実際にわたしはユーナさまの前で男らしくあろうと、いろいろな努力をしてきましたから。政治の勉強、剣の練習……好き嫌いせず何でも食べるとかも……」


 か わ い い


 一瞬出そうになった言葉を、必死の思いで心に留めた。もしかしてばればれかもしれないと思いつつ。


「私は、ユーナさまとまだまだやりたいことがたくさんあるんです。また一緒に街へ出かけてみたいし、季節の星空についても二人で見上げて話したい」


「はい。そうですね」


「だから……だからどうか、無事で。わたしは国を守る立場として責任をもってここで待ちます。もう……謝ることはしません。ユーナさまには、この国の国王として、最大限の感謝と敬意を表します」


「ありがとうございます!……必ず戻りますから、また、一緒にいっぱい楽しいことしましょう!」




 レイヴァル様と話した後、わたしは部屋に戻って、ベットに体を投げ出した。ごろごろしていると、いろいろな思いが頭の中を巡る。


 何となく……すべての物事が終わりに向けて動き出している気がする――。近いうちに魔王との戦いに決着が着く。……根拠も何もないけれど、直感がそう告げていた。


 ん……?


 そこで、わたしはある異変に気付いた。壁に飾ってあった魔法の地図が……光ってる?



 ノアとロイドをすぐに呼ぶと、一緒に地図を見てもらった。


「この、王都についた赤い印は、以前黒竜が現れたことを示しているみたいだな」


「オーク村のそばの北の山にも、うっすらと印が現れているみたいなんだけど?」


「まだ、北の山に魔王が現れたという事実はありませんね。前回の黒竜襲撃の時、魔物が暴れまわっていた時の印だと考えれば、他の土地にも同じように印がついていないとおかしいですし……おそらく、次はここに時空の歪みができるってことなんじゃないでしょうか」


 ロイドの考えに、ノアも同意している。


「じゃあ、その時を狙って、黒竜を倒しに行けば……」


「歴代の聖女は……祈るだけで魔王を倒すこともできた。そもそも魔王を出現させないようにすることも。でも、ユーナの力では、直接戦地に赴いていくしかない。とっくに心は決まっているようだけど、改めて確認する。……一緒に、魔力の歪に飛び込んで、魔王を倒しに行く覚悟はあるか?」


「……本当に、今更だね。ここで置いて行かれる選択肢はない。大きな力がなくても、みんながいれば何とかなると思う。ううん……何とかする!! ノア、ロイド……最後までよろしくね!」


 

 それから間もなく、わたし達の魔王討伐の準備が始まった。

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